前回、軍隊向けの装備開発プログラムがデスマーチ化する背景事情について取り上げた。実のところ、戦闘機・艦艇などといった大型プログラムは、予定通りのコストやスケジュールで完了するほうが珍しいぐらいかもしれない。

開発プログラムのコストやスケジュールを左右するのが、見積りと契約形態である。そこで今回は、米軍が公開している調達情報を例にとって、防衛産業ではどのような契約形態(値決めの方法)があるのかを見てみたい。

米国防総省では一定金額を超える契約を締結した場合、その情報をWebサイトで公開している(申し込めば、電子メールでその内容を受け取ることもできるし、RSSフィードによる配信も行っている)。もちろん、極秘扱いのブラック・プロジェクトは話が別だが、公開されている情報だけでも相当な内容だ。

その公開調達情報を見ると、単に契約といってもいろいろな形態があることがわかる。以下、「Contracts 2010/2/5」の一部を紹介しよう。

米軍の調達の事例1:ARMYの場合

The Boeing Co., Mesa, Ariz., was awarded on Jan. 28, 2010, a $99,270,307 firm-fixed-price contract to exercise the option for 13 aircraft in Lot 14. Work is to be performed in Mesa, Ariz., with an estimated completion date of Dec. 31, 2013. One bid was solicited with one bid received. U.S. Army Contracting Command, Aviation and Missile Command Contracting Center, Redstone Arsenal, Ala., is the contracting activity (W58RGZ-06-C-0093).

これは、米陸軍がボーイング社に対して、手持ちのAH-64Aアパッチ攻撃ヘリを、改良型のAH-64DブロックIIに改修する作業を発注したもの。"13 aircraft in Lot 14" とあるのは、ロット14として13機を改修するという意味。そのほか、契約担当部門、契約が終了する期日、契約番号といった情報も含まれている。

アパッチ攻撃用のAH-64Dヘリ Photo:US ARMY

注目は、"firm-fixed-price contract" という記述だ。これは「固定価格契約」という意味で、ボーイング社は契約額(9,927万307ドル)の範囲内で仕事をこなさないと、この件を赤字にしてしまうことになる。

米軍の調達情報の事例2:NAVYの場合

もう1つ、別の契約案件を見てみよう。こちらも航空機関連だが、契約の形態に違いがある。

Bell-Boeing Joint Program Office, Amarillo, Texas, is being awarded a $70,004,000 cost-plus-fixed-fee repair contract for repairs in support of the V-22 aircraft. Work will be performed in Ridley Park, Pa. (50 percent), and Fort Worth, Texas (50 percent), and is expected to be completed by June 2012. Contract funds will not expire before the end of the fiscal year. This contract was not competitively awarded. The Naval Inventory Control Point, Philadelphia, Pa., is the contracting activity (N00383-10-D-003N).

これは、ティルトローター機・V-22オスプレイを対象とする補修作業の契約だ。契約額(7,000万4,000ドル)に続いて、"cost-plus-fixed-fee" という記述がある。これは、「業務にかかった経費をベースとして、そこに一定額の利潤を上乗せして支払いますよ」という意味になる。

ティルトローター機・V-22オスプレイ Photo:US NAVY

過去に兵站業務がらみの過剰請求が問題になった時、この "cost-plus-fixed-fee" 方式の契約が槍玉に上げられた。というのも、この方式では、受注する企業に対して何らかの利益が確保されるうえ、「コストを水増しすればそれだけ利益が増えるのではないか、それでは経費節減のインセンティブが機能しない」という指摘があるためだ。

しかし、後方支援業務のように、業務の量や内容を事前に確定することが難しい分野で固定価格方式の契約を結ぶと「払いすぎ」が生じる危険性もある。上の例で挙げた補修業務もそうで、作業量の変動が激しい。そう考えると、こうした方式を取り入れなければならない理由に、理解できる部分もあるのだ。