コンピュータ、インターネット、缶詰の起源は軍用品

我々が日常的に利用しているコンピュータやインターネットは、起源をたどれば軍用品である。コンピュータは英国で暗号解読用に、米国で大砲の弾道計算用に、複雑な計算を迅速にこなせる機械が求められたのが発端だ。そしてインターネットは言うまでもなく、米軍の研究部門「DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency, 国防高等研究計画局)」がネットワークについて研究したのが発端だ。

これらのほか、軍用として開発されたテクノロジーが民間にスピンアウトした例はたくさんある。手近なところでは、缶詰・瓶詰・レトルトパウチ食品なんかがそうだ。

ところが1990年代辺りから状況が変わってきて、ことIT分野に関しては民生品のほうが進歩が早くなってしまった。しかも、同一規格の製品が大量に出回るからコストも安い。それが軍事転用されて、民生品と同じハードウェア、ソフトウェア、プロトコルなどが、軍用ネットワークでも多用されるようになってきた。

英海軍の原潜はWintel Inside

拙著「戦うコンピュータ」(毎日コミュニケーションズ刊)でもそうした事例をいくつか取り上げたが、特に話題が沸騰したのが、英海軍の原潜で使用している「指揮管制装置・SMCS NG(Submarine Command System Next Generation)」である。

というのも、最初に登場したSMCS NGはCPUがPentium 4(2.8GHz)のデュアルCPUとMatroxのグラフィックボード、ネットワークが光ファイバベースのEthernet、OSがWindows 2000だったからだ。これでは拙宅の自作PCと変わらないではないか。

ただ、民生品の進歩が早いせいで、このSMCS NGの話が最初に取り上げられた2004年と、全艦への導入が完了した2008年の時点では、すでに変化が起きている。OSはWindows 2000からWindows XPにバージョンアップしているし、おそらくCPUもCore 2 Duo辺りになっているだろう。

英海軍のトラファルガー級攻撃型原潜。この戦闘指揮管制装置がWindowsで動いているとは誰が想像できようか(Photo : US Navy)

これは英国に限った話ではなく、我が国でも似たようなことになっている。海上自衛隊の公表写真に写っていたのだから秘密ではないだろうが、最新鋭のヘリコプター護衛艦「ひゅうが」の指揮所に並んでいるコンピュータの画面が、Windows XP Professionalのログオン画面だったのだ。

ついでに書くと、「ひゅうが」は従来にない大型の護衛艦なので、艦内で乗組員同士が連絡を取るための手段として、PHSの基地局と端末機を活用しているという。無線化されているから艦内のどこにいても連絡を取れるし、歩きながらでも通話できる。これは便利だ。

マイクロソフト製品に加え、Linux、Androidケータイ、iPhoneまで

ちょうど先日、米海軍の原子力空母、エイブラハム・リンカーンが定期修理を終えたというニュースがあった。その際に艦内LANを強化してインターネット接続環境を改善、艦内で使用しているPCもWindows XPとOffice 2007の組み合わせに更新したのだそうだ。これもパソコン兵器である(笑)。

このほか、米軍の電子メールシステムがExchange Serverで動いていたり、情報共有のためのシステムがSharePointで動いていたり、といった事例もある。そもそも、ヘッダを調べてみれば一目瞭然だが、米軍が外部向けにプレスリリースなどをメールで配信するシステムもExchange Serverで動いている場合がある。

もちろん、Windowsばかりが使われているわけではなく、Linuxが使われているシステムもある。例えば、レイセオン社が米海軍向けに開発した無人機管制ステーション「TCS(Tactical Control System)」がそれだ。その他のUNIX系OSもさまざまな場面で登場している。

そのレイセオン社は最近、RATS(Raytheon's Android Tactical System)をお披露目している。これはGoogleのAndroid携帯電話を活用して、現場の兵士が容易に情報を共有できるようにするための機材だ。このほか、iPhoneで動作する軍用アプリケーションもある。

さらに書くと、ネットワークで使用するプロトコルがTCP/IPになったり、さらにIP部分がIPv6化されていたり、そのネットワーク上で電子メール、チャット、VoIPといったアプリケーションが使われたりしている。まるで、我々がメッセンジャーやSkypeを利用するのと同じだ。