F-35が登場した背景

F-35計画には、JSF(Joint Strike Fighter)という名称が付けられている。Jointとは統合、つまり特定の軍種ではなく複数の軍種の共同案件という意味で、米国では空軍・海軍・海兵隊が相乗りしている。そして、Strike Fighterは戦闘攻撃機、空中戦も対地・対艦攻撃もこなせる機体という意味になる。

1970年代に開発・配備したF-16ファイティングファルコン、A-10サンダーボルトII、AV-8BハリアーIIといった機体が代替を必要とする時期に差しかかってきていることから、「それなら、別々の機体を開発するのではなく、単一の機体から複数の派生型を生み出した方が効率的では?」という考えが生まれ、F-35計画にたどり着いた。

そのため、空軍が運用する基本型に加えて、海軍が運用する空母搭載型(主翼を大型化して空母への発着艦を容易にする)、海兵隊が運用する垂直離着陸型(長い滑走路が要らない利点がある)を、同一の基本型から生み出してしまおうというチャレンジングなプログラムになった。

そこに、米国と同様の事情を抱えていた諸国が相乗りする形になった点がF-35の特徴と言える。他のパートナー国でも、1970~1980年代に導入した戦闘機の代替を考えなければならない時期にさしかかっているからだ。

費用・リスク・生産を各国で分担

そこでF-35では、開発段階から他国を巻き込んで国際共同プログラムの形をとることになった。調達数と開発費は比例しないから、開発費を他国が分担してくれれば、その分費用とリスクを分散できる。また、調達数を増やせるので、1機当たりに割り当てる開発費が少なくなり、単価を引き下げられる上に、量産に際してスケール・メリットを発揮しやすい。これも価格低減につながる期待が持てる。

ただし、費用とリスクを分担させるだけでは「ムチ」ばかりで「アメ」がないため、参加するパートナー国に3段階のレベルを設けて、開発費の負担に応じたメリットを与える形をとった。もちろん、カネを多く出す国が発言力も大きく、レベル1パートナーなら仕様に対する発言力も強い。レベル2パートナーの発言力は限定的で、レベル3パートナーは開発資料にアクセスできるだけとなる。また、パートナー諸国のメーカーが生産を分担するようにして、各国の産業基盤維持というメリットも用意した。

以下が、F-35計画に参加している国のパートナーのレベルと分担額である。日付は、開発に参画するための了解覚書に調印した日だ。なお、開発に参画しているものの、正式に調達を決めておらず、態度を保留している国が含まれている。

  • イギリス(2001/1/17, 20億ドル) ※レベル1
  • イタリア(2002/6/24, 10億ドル) ※レベル2
  • オランダ(2002/6.17, 8億ドル) ※レベル2
  • トルコ(2002/6/11, 1億7,500万ドル) ※レベル3
  • カナダ(2002/2/7, 1億5,000万ドル) ※レベル3
  • オーストラリア(2002/10/31, 1億5,000万ドル) ※レベル3
  • デンマーク(2002/5/28, 1億2,500万ドル) ※レベル3
  • ノルウェー(2002/6/20, 1億2,500万ドル) ※レベル3
  • イスラエル (Security Cooperation Participationといい、オブザーバー扱い)
  • シンガポール (Security Cooperation Participationといい、オブザーバー扱い)

F-35の試作1号機。胴体側面に計画に参加しているパートナー諸国の国旗が描れているのは、国際共同プログラムならでは Photo:US Air Force

有体に言えば、早期からプログラムに参加して、分担額が大きな国ほど見返りも多い仕組みで、資本主義原理を丸出しにしたプログラムと言える。その代わり、機体が完成して量産に入った暁には、自国のメーカーが生産に参画して仕事を得られるメリットがある。

それだからこそ、各国政府はF-35の開発費として何億ドルもの資金を支出している。いずれは自国の産業が利益を生み出し、それが税金の形で政府に戻ってくるという期待をしているわけだ。加えて、ハイテク産業の象徴である航空宇宙産業の維持は、国家の産業政策としても重要な意味を持つ。

このF-35に限ったことではないが、装備品の調達に際して性能や価格だけでなく、「自国の産業に対するメリット」を考慮する事例は、いまや珍しくも何ともない。性能・価格が拮抗していれば、産業面のメリットが決め手になると考えてもよいぐらいだ。逆に言えば、それを提示できなければ兵器輸出で商売することはできない。

具体的な生産分担の例

F-35計画の特徴の1つに、計画をリードするのはあくまで、主契約社のロッキード・マーティンである点が挙げられる。また、ステルス性もF-35が備える特徴だが、それに影響する部分は他社へのノウハウ流出を防ぐため、ロッキード・マーティン自身が担当するようだ。以下に示すのは、ロッキード・マーティン以外のメーカーを対象とする生産分担の例だ。

  • 中央部胴体 : ノースロップ・グラマン
  • 中央部胴体で使用するパーツの一部 : TAI(Turkish Aerospace Industries Inc.)
  • 後部胴体、垂直尾翼、水平尾翼 : BAEシステムズ
  • 尾翼で使用するパーツの一部 : テルマ、マゼラン・エアロスペース
  • 複合材料製の機体構造部品 : コングスベルク
  • エンジン : プラット&ホイットニー
  • 垂直離着陸型用のリフトファン : ロールス・ロイス
  • レーダー : ノースロップ・グラマン
  • ヘルメット装備ディスプレイ : VSI(Vision Systems International)
  • 射出座席 : マーティン・ベーカー

ノースロップ・グラマンが製造を担当しているF-35の中央部胴体 Photo:Northrop Grumman

馴染みがない方もおられると思うが、テルマは軍用機の電子機器で知られるデンマークの企業、コングスベルクはノルウェーの防衛関連メーカー、TAIはトルコの航空機メーカーだ。

なおロッキード・マーティンは、「開発・試作段階で製造分担の契約を得られたからといって、そのまま量産機でも契約を得られるとは限らない」と念を押している。これは、「品質やコストの面で努力し続ける必要があり、いったん受注できたからといって安住してはならない」という意味だ。しかし現実問題としては、特殊な分野の製品だけに、そうコロコロとサプライヤーを変えることはできないだろう。

余談だが、F-35の垂直離着陸型は、前部胴体に取り付けたリフトファンと、尾部の方向可変式排気ノズルによって揚力を生み出す仕組みになっている。このうち、方向可変式排気ノズルは、なんとソ連のヤコブレフYak-141フリースタイルで使用していた技術を利用している。ソ連生まれの技術が米国製の戦闘機で使われる時代を目の当たりにできるのだから、長生きはしてみるものだ。