武装化するとは約束が違うじゃないか!

前回、スイスの武器輸出について取り上げた。実は、これが問題になった例があるのだ。

スイスのピラタス社がチャドにPC-7という小型の練習機を輸出したことがあった。ターボプロップ・エンジンの単発で、タンデム複座(前後方向に並ぶ2人乗り)の機体だ。輸出の際に、「練習機として使用する」という条件を付けていた。

ところが、この手の小型練習機は武装化することで、対ゲリラ戦用のお手軽な対地攻撃機として利用するのに具合がよい。実際、ブラジルのエンブラエル社が製造しているEMB-314スーパーツカノに代表されるように、小型練習機が対反乱戦用の軽攻撃機に発展した例は少なくない。米国もピラタスPC-9をT-6練習機という名称で導入しているが、その派生型として対地攻撃型のAT-6がある。

そして、チャドは同国東部でスーダンを拠点とする反政府ゲリラの掃討戦を行っていたことから、必要に迫られて(?)、練習機として輸入したPC-7とその発展型のPC-9に機関砲ポッドや兵装パイロンを後付けして、軽攻撃機に仕立ててしまった。

こうなると、輸出元のスイスとしては「約束と違う!」という話になる。いつの間にかうやむやになってしまったが、輸出後の用途まで輸出元が完全にコントロールできるとは限らないという一例と言える。

米空軍のT-6テキサンII練習機。もとはスイスのピラタスPC-9。この手の練習機は、軽攻撃機に転用される事例が少なくない(Photo : USAF)

使用者も用途も事前申告が必要

この、スイスがチャドに輸出したPC-7練習機は、購入時に申請した用途と違う使われ方をした点が問題になった例だ。これに限らず、武器輸出に際して輸出元が輸出先に用途制限を課す例はよくある。また、輸出した装備品が予想外の使われ方をしたため、輸出元が輸出先に対して何らかの制裁措置を科す場合もある。

下手すると、申告時と異なる使われ方をすれば、輸出元の国に政治的な危機がもたらされることも起こりうる。そう考えると、輸出元が用途制限を課したくなる事情は理解しやすい。武器輸出によって得られる利益や政治的メリットは無視できないが、さりとて自国が政治的に窮地に立たされるのは困る、というわけだ。

この用途に加えてもう1つ、武器輸出管理の世界では「最終使用者証明」(End User Declaration あるいは End User Certificate)という書類が必要だ。これは、輸出する装備品を使用するのが誰かを事前申告させて、買い手がそれに違反しないように監視するためのものだ。

2008年、ウクライナ籍の貨物船M/V Finaがソマリアの近海で海賊に乗っ取られる事件があった。海賊に乗っ取られるだけなら珍しくないが、この船が注目されたのは、その積荷だ。「ケニア向けのT-72戦車×33両を搭載している」ということになっていたのだが、実はその戦車がケニア向けではなく、スーダン向けだったという疑惑が持ち上がったのだ。

輸出元が「A国に輸出した」と思っていたものが、実は転売されて「B国に渡っていた」という状況を放置しては、武器輸出管理制度は形骸化してしまう。そのため、買い手は前述の最終使用者証明を提出して「確かに我が国で使用します」と宣言する必要がある。

また、米国のようにEUMA (End User Monitoring Agreement)という制度を備えている国もある。これは、米国から装備品を輸入する国が最終使用者証明への違反が生じていないかどうかを包括的に監視するための仕組みだ。これを締結していない場合、米国からの武器輸出に制約が生じる。

しかし買い手からすれば、輸入時だけでなくその後も不正がないかどうかを監視されることになるため、EUMAの締結に難色を示す場合もある。実際、2009年に米国とインドがEUMAの締結にこぎ着けるまでには、大分スッタモンダした。

ちなみに、武器輸出だけでなく、武器への転用が可能な民生品も、使用者あるいは用途に関する証明を提出しなければ輸出できない場合がある。日本では、経済産業省のWebサイトで最終用途証明について知ることができる。

転売疑惑の事例いろいろ

先の海賊に乗っ取られた貨物船の積み荷は「出荷の時点で行き先が怪しい」という例だったが、「いつの間にか、当初の輸出元以外の国にモノが流れていた」という例もある。

最近だと、コロンビアの反政府ゲリラ組織・FARC(Fuerzas Armadas Revolucionarias de Colombia)が使用していたAT-4対戦車ロケットが、過去にスウェーデンからベネズエラに輸出されたものだった、という一件がある。

武器輸出に限らず、工業製品を輸出する場合、まともなメーカーなら当然、出荷時に製品ごとにシリアルナンバーを記録しているはずだ。だから、存在しないはずの場所で見つかった製品のシリアルナンバーを調べれば(シリアルナンバーを削って消したり、改竄したりしていない限りは)出所がバレる。

もっとも、そうした事態になるのを嫌う買い手に配慮して、故意にシリアルナンバーのない自動小銃を作って輸出していた東欧某国もある。まったく困ったものだと思うが、なりふり構わず武器を欲しがる買い手がいる以上、こうした現実から目を背けることはできない。