こんにちは。織田隼人です。
前回は2回連続企画ということで、「クチコミ」のメカニズムについて解説しました。男性と女性でクチコミニストのタイプが異なること、あるいは、伝わりやすいクチコミの性質そのものが異なることにお気づきになったかと思います。
クチコミへと視線を向けることで、「ユーザーエクスペリエンス」という新しいマーケティングの手法へのアプローチを試みることができます。今回は、その「ユーザーエクスペリエンス」という視点を引き継いで、「常連客」についての解説をしてみようと思います。
「仕事と私、どっちが大切なの?」の心理学
ドラマをよく見るような方でなくとも、一度は上記のセリフを目にしたことがあるでしょう。このセリフは、いつの間にか痴話ゲンカの常套句となってしまっています。
実は、このセリフが広く支持されるのには理由があります。男女の恋人同士の間にすれ違いが発生する場合、えてしてこのセリフが示唆する勘違いが潜んでいるものだからです。
「仕事と私、どっちが大切なの?」と尋ねる女性の意図は明白です。つまり、その裏には「私の方が大切なら、私をもっとかまってよ」という切実な願いがあるのです。女性は基本的に、「親密な人ほど、優先度を上げて付き合ってくれるはず」という、ある意味ではシンプルな考え方をするということです。
対象外の男性から追いかけられがちなのは、相手に"わかってくれている"と思われているから!? |
一方、男性はそうは考えません。むしろ、「親密なのだから、後回しにしても許されるだろう」という考えのもとで行動します。だから、「仕事と恋人」のどちらかを優先しなければならなくなったときに、「彼女なら、後回しにしても事情をわかってくれるだろう」という信頼感が強ければ強いほど、「恋人」が後回しにされてしまう可能性が高まるのです。
同じ質問をされても、男性と女性で受け取り方が違うことにお気づきですか? 「親しい相手ほど優先的に扱うべき」という女性の視点と「親しい相手だから優先度を落としても許される」という男性の視点、この2つの視点のすれ違いを見事に表しているのが、「仕事と私、どっちが大切なの?」というセリフなのです。
「マスター、いつもの」の心理学
この考え方を踏まえれば、常連客に対してどのように接すればいいか、という問いに対する答えが見えてくると思います。
ハードボイルドの売りにした映画のキャラクターが「いつもの」と言うと、自然と彼の好きなカクテルが差し出される――。
男性が喜ぶのは、このように「黙っていても通じ合える」関係です。別の言葉で言い換えるならば、「戦友」的な関係でしょうか。
「戦友」となることを通して、店長と常連客との間には見えない絆のようなものが生まれている、と男性の常連客は考えます。だから、店長が忙しそうな時は、「自分のことは後回しでもいい」と進言(目配せだけで通じ合えるならばなお良し)し、そんな自分に酔うことができます。
男性にとっての「常連扱い」とは、「後回しにしても信頼関係が崩れないと思ってもらえていること」の一言に尽きるのです。
一方、もうおわかりかと思いますが、女性客が求めている「常連扱い」を叶えるためには、そのやり方ではいけません。
常連客の女性には、「仕事と私、どっちが大切なの?」と常に問われていると考えてみてください。親しい相手に対して女性が求めるのは、「何よりも優先度を上げてもらえること」なのですから、他のお客さんよりも優先して接していく必要があるのです。
男性が「戦友的」常連関係を求めているのに対して、女性は「お姫様的」常連関係を求めていると言えるでしょう。
「常連」ひとつでもこんなに違う
とあるラーメン屋で、スープが最後の一杯分しか残っていないとき、男性の常連客と、女性の常連客が来店しました。どちらも貴重な常連さんです。できれば、双方に満足して帰ってもらいたいところです。
このようなシチュエーションに遭遇した場合、どう対処すればいいか、もうおわかりですよね?
女性の常連客は、「他人よりも優先してもらえること」に満足します。
男性の常連客は、「少しくらい後回しにしても信頼関係が崩れないと思ってもらえていること」に満足します。
もちろん男性客へのフォローは必要ですが、この場合、女性の常連客を優先してラーメンを出せば、二人とも満足して帰ってもらえるでしょう。
「どのような状況/扱われ方に満足感を覚えるか」という項目は、ユーザーエクスペリエンスに則ったサービスに欠かせないポイントです。厄介なのは、すべての顧客に対して一様に適用できる法則はなく、この事項が男性と女性との間で大きく異なっているという点です。
逆に、男女の心理の違いをうまく利用できれば、競合他社に負けないきめ細やかなサービスを発案できるかもしれません。今日紹介したことをうまく応用して、ぜひ、満足度の高いサービスを目指してみてはいかがでしょうか。
カップルの常連客の場合はどちらを優先すべき? |
(イラスト ナバタメ・カズタカ)
執筆者プロフィール
織田隼人 (ODA Hayato)
心理コーディネーター&経営コンサルタント。心理についての解説の仕事をメインにしながら、経営のコンサルティング業務も行っている。元々は経営コンサルがメインで、マーケティングに関わりながら心理学を学んできた。心理の仕事では特に「男女の心理の違い」や「意思決定」を専門としている。男女の心理の違いを解説したブログに「男心と女心」があり、月間アクセス数は100万を超える。ほかにも心理学を学べるWebラジオやアニメーションも配信している。Webサイトはこちら → 知りたい! 相手の気持ち