こんにちは。織田隼人です。

前回は、古今東西の消費行動に必ず登場する要素である「クチコミ」について解説しました。男性と女性でクチコミが広がる際の動機が異なること、それに付随して、クチコミを広めたいときに「タブー」が存在することを押さえていただけたかと思います。

それを受けて、今回は「誰が」クチコミを広めるのか、そして今クチコミで注目されている「ユーザーエクスペリエンス」という言葉について解説していきます。お時間に余裕のある方は前回(第11回)のコラムを読んでからこちらに移っていただけると、理解の手助けとなるかもしれません。

クチコミの発信源は「特定の人」に限られる

Amazonや価格.comに掲載されているクチコミを見ると、ある一点に気がつくと思います。

それは「クチコミの発信源(=クチコミニスト)はある特定の人に限られている」ということです。会話の流れで自然にクチコミが形成されていく場合とは異なり、Webサイト上のように、能動的にクチコミを作らなければならない場合に、この傾向は顕著です。

クチコミニストをうまく把握することができれば、的を絞ったマーケティングがしやすくなります。この「特定の人」になりやすい人びとの性向をつかむことが、その第一歩となるでしょう。

男性クチコミニストは「専門家」タイプ

男性の解説は端々に"自慢"を感じさせるものが多い

男性の場合、「専門家(あるいは○○オタク)」タイプの人間が、クチコミの発信源になります。

男性のショッピングはスペック重視、という前回の話を思い出してみてください。「スペック」を語るには、それなりの知識が必要です。当該商品だけでなく、比較対象となる商品のこともよく知っておかなければなりません。特に「批判」するとなると、生半可な情報では返り討ちに遭う可能性が高くなってしまいます。

男性クチコミニストたちは、「すごい話を皆に伝えたい」というモチベーションによってクチコミを形成していきます。また、それによって「自身の評価が高まる」ことに快感を覚えます。それゆえに、「実は、あと1カ月待てば最新のモデルが出るから、あせって買う必要はない」「CMではこの機能が喧伝されているけれど、実は他のもので代用可能なのだ」というように、「実は~なのだ」という形のクチコミをよく使うのです。

前回の話とあわせて、ここまでの話を振り返ると、ひょっとしたら「男性クチコミニストたちは、良い顧客ではないのではないか」ということにお気づきになるかもしれません。これはその通りで、実際にクチコミの発信源になる男性たちは、その商品を買うことよりも、商品の情報を得ることに腐心します。

だからこそ、「批判」を恐れない方がクチコミは広まるという前回の話が有効になってくるのです。批判をするクチコミニストたちと実際の顧客とは、等号で結ばれる関係ではありません。活発に議論をするクチコミニストたちは確かに目立ちますが、その層ばかりに目を取られていると、彼らの議論そのものに興味を持って近寄ってくる潜在的顧客の層を見落としてしまうことになりかねません。

女性クチコミニストは「リーダー」タイプ

一方、女性クチコミニストたちはどのような特徴を持っているのでしょうか。

女性は共感能力に恵まれているという点は、当コラムが繰り返し強調してきたポイントです。前回は、クチコミも女性特有の「共感」という原理に則って広まっていくという説明をしました。

身近にいる女性のグループを見てみてください。もちろん個性はありますが、グループ内のファッションセンスが何となく似通ってくることにお気づきですか? これが、女性の共感能力を示す格好の事例であり、同時にクチコミニストを探り当てるヒントになる事例でもあります。

女性のグループには、必ず「リーダー格」の人間がいます。良くも悪くも、グループの「手本」になりうる層です。女性のクチコミは、彼女らを基点にして始まっていくと言っていいでしょう。

リーダー格の女性は往々にして活動的です。企業が新製品のお披露目会を行ったとき、一人でも参加するタイプの人が多いので、上手に取り込むことができれば、理想的な形でクチコミを広めることができます。

ただし、前回お話ししたとおり、「取り込み方」には細心の注意を払う必要があります。「クチコミ狙い」という雰囲気を悟られてしまうと、女性はクチコミを広めようとはしないからです。

また、男性に比べて、そこまで商品知識がない人びともクチコミニストになるのが女性の特徴です。「共感」を重視する女性は、情報を論理的に検証する必要を感じません。自分の実感を他人に素直に伝えるため、クチコミニストと顧客との距離は男性よりも近くなっています。

ユーザの体験が伝わる仕組みに

ここまで、男性と女性のクチコミにストについてみてきました。最後に男女に共通することについて解説します。

近年、アメリカでは「ユーザーエクスペリエンス(顧客体験)」とう言葉がマーケティングでよく使われるようになってきました。実際に使ったときにユーザーが楽しめるか、感動するか、という視点で見ていこう、という流れができてきたのです。

人に紹介したくなるものは、使っていてワクワクするもの、ドキドキするもの、そして気持ちよくなるものです。ブランドものバッグを自慢したくなる理由も、新型の携帯を自慢したくなる理由も持っている人自身がワクワク、ドキドキしています。このドキドキ、ワクワクを作り出すことがクチコミにとって最も重要な要素となります。

商品を企画する際、そして商品を売る際にもドキドキ、ワクワクがどこにあるのかを注目して仕事を行っていって下さい。そしてそのドキドキ、ワクワクをわかりやすい形で表現するとクチコミが発生しやすくなります。一般の書店で売れない本がヴィレッジバンガードで売れている理由は、店舗自体にドキドキ、ワクワクがあるからなのですから。

iPadやiPhoneなどApple製品が売れたのは「持っているだけでドキドキする」「使っているとワクワクする」という感覚があっという間にクチコミで拡がったことも大きい

(イラスト ナバタメ・カズタカ)

執筆者プロフィール

織田隼人 (ODA Hayato)

心理コーディネーター&経営コンサルタント。心理についての解説の仕事をメインにしながら、経営のコンサルティング業務も行っている。元々は経営コンサルがメインで、マーケティングに関わりながら心理学を学んできた。心理の仕事では特に「男女の心理の違い」や「意思決定」を専門としている。男女の心理の違いを解説したブログに「男心と女心」があり、月間アクセス数は100万を超える。ほかにも心理学を学べるWebラジオやアニメーションも配信している。Webサイトはこちら → 知りたい! 相手の気持ち