データセンターの概要や利点について、皆さんの疑問に答えるかたちでご紹介している本企画。今回は、前回に引き続き「クラウド」を取り上げます。

前回は、語源や3種類のクラウドサービスについて説明しましたが、今回はデータセンターが提供するサービスに限定してもう少し踏み込んで解説します。

(前回の続き)
Q. 最近「クラウド」という単語をよく聞きますが、データセンターとどういう関係があるのでしょうか? クラウドについては、GmailのようにWebブラウザから利用できるサービを思い浮かべていたのですが……。

Answer.
前回説明したとおり、「クラウド(クラウドコンピューティング)」は、データセンターの文脈であれば、「仮想化技術を使って必要なスペックの(仮想)サーバ/ストレージを柔軟に立ち上げ/拡張できるホスティングサービス」と考えればよいでしょう。

この概念をご理解いただくために、前回はクラウドという言葉の由来を解説した後、SaaS/PaaS/IaaSについて紹介し、データセンターが提供するクラウドサービスは主にIaaS(Infrastructure as a Service)であることを説明しました。

では、IaaSとは具体的にどういったもので、これまでにとりあげてきたサービスとどういった違いがあるのでしょうか。今回は、その部分を解説していきます。

CPU、メモリ、ディスクの増強を即座に

「インターネットサービスとして提供される基盤(ハードウェア)」という意味の単語であるIaaS。その最大の特長が、CPU、メモリ、ディスク容量などのハードウェアリソースを、必要なときに、必要なだけ提供できるという点であることは前回説明いたしました。

すなわち、IaaSは、ユーザーからすると、申し込むとすぐにサーバが利用できて、CPU、メモリ、ディスク容量が不足すればその場で増強してもらえる、という素晴らしいサービスになります。

では、なぜそのような環境を実現できるのでしょうか。ポイントは"高度な"仮想化技術にあります。果たして何が高度なのか。第5回で紹介した「VPS (Virtual Private Server : 仮想専用サーバ)」と比較しながら説明していきましょう。

即座に追加できる理由

VPSも仮想化技術をベースにしたサービスです。1台の物理サーバ(筐体)上で「仮想マシン」と呼ばれる仮想的なサーバを複数動作させることが可能です。各仮想マシンにはハードウェアリソースとOSが割り当てられ、それぞれがあたかも1台のサーバのように動作します。

IaaSも基本は同じです。仮想化技術を導入し、1台の物理サーバの上で複数の仮想マシンを稼働させます。ただし、IaaSがVPSと大きく異なるのは、同じ環境が揃えられたサーバが多数設置されていてそれらが連携するうえ、サーバ間で仮想マシンを自動的にしかも瞬時に移設できるという点です。

例えば、1台のサーバでハードウェアリソースが足りなくなったら、リソースに余裕のあるサーバに一部の仮想マシンが自動的に移設されて処理が継続されます。したがって、ユーザー側では、サーバのハードウェアリソースや利用状況を以前ほど気にする必要がありません。

通常、サーバを購入/契約する際には、数年後のサービス規模を予測し、ピークに合せてCPUやメモリ、ディスク容量などを見積ることになりますが、IaaSを利用するのであれば、そうした作業は不要です。今足りる分だけを契約し、不足しそうになったらハードウェアリソースの増強を依頼すればよいのです。すなわち、最小限の投資によるスモールスタートが可能です。

ちなみに、このような特徴を備えるIaaSでは、個々の物理サーバを意識する必要がなくなります。複数のサーバに搭載されたハードウェアリソースをまとめて(プールして)使用するようなかたちになるため、それらは「リソースプール」と呼ばれたりします。

料金体系はほぼ従量課金、スペックダウンによるコスト削減も可能

IaaSは、課金体系も他のサービスと大きく異なります。

上記のように非常に柔軟に運用できるIaaSは、サービスが成長するにつれてサーバの構成を変更するケースが少なくありません。したがって、他のデータセンターサービスのように月額固定料金では、対応しきれない部分も出てきます。

そこで、IaaSの多くは、従量課金に近い料金体系が適用されています。CPUやメモリ、ディスクなどに対して、性能別、容量別に金額が細かく設定されており、それに従って1日や1時間単位(変更がなければ月単位)で使った分だけ支払う体系になっています。契約したリソースが余った場合にCPU、ディスクなどを減らし、コストを削減することも可能です。

したがって、キャンペーンサイトのように一時的にアクセスが集中するようなWebサイトや、ゲームのようにユーザー数が急に増える可能性があるサービスなどに適していると言えます。また、企業によっては、自社で運営するシステムのリソースが足りなくなった場合に、一時的に外部のIaaSを利用して、急場をしのぐという運用を行うケースもあります。

ただし、IaaSは、急な対応が可能でスモールスタートなどに最適という側面がある一方で、やはり他のサービスと比べるとやや料金が割高に設定されているものがほとんどです。サービスの選定に際しては、その点を予め頭に入れておくべきでしょう。