データセンターの概要や利点について、皆さんの疑問に答えるかたちでご紹介している本企画。今回は、言葉の意味がわかりづらい「クラウド」についてです。まずは、その単語を解説してきましょう。

Q. 最近「クラウド」という単語をよく聞きますが、データセンターとどういう関係があるのでしょうか? クラウドについては、GmailのようにWebブラウザから利用できるサービを思い浮かべていたのですが……。

Answer.
「クラウド(クラウドコンピューティング)」は、比較的あいまいな言葉で、その意味は技術の進歩とともに少しずつ変わってきました。現在でも大きく2つの意味がありますが、データセンターの文脈であれば「仮想化技術を使って必要なスペックの(仮想)サーバ/ストレージを柔軟に立ち上げ/拡張できるホスティングサービス」と考えればよいでしょう。

なお、クラウドに関しては、言葉の印象と技術の実態とが合わないという印象を抱く方が少なくないようです。そこで、今回はクラウドがどういうものかについて解説し、サービスとしての特徴は次回に説明することにしましょう。

抽象的すぎる言葉の誕生背景

クラウドコンピューティング(Cloud Computing)は、直訳すると「雲のコンピューター処理」となります。

「正直、意味がわからない」という方がほとんどでしょう。それは無理もありません。というのも、クラウドコンピューティングは、(当時の)IT利用の近未来像を表現するために作られた言葉で、「なんとなくこんな世界」という程度の意味しかなかったからです。

では、「クラウドコンピューティング」と称される世界とはどういうものだったのでしょうか。

大まかに言えば(わかりづらくて恐縮ですが)、「アプリケーションやコンピューティングリソースをネットワーク(主にインターネット)経由で利用する世界」です。名前の由来は、技術者が描くポンチ絵にあります。技術者がシステム構成を描くとき、インターネットの部分には雲の絵を当てることが多いのですが、その雲の部分にアプリケーションやコンピューティングリソースがあるという意味で、「クラウドコンピューティング」という言葉が使われ始めました。

クラウドコンピューティングの典型例としては、Google DocsやOffice Web Appsなどがあります。これらが登場する以前、Excelのような表計算ソフトを使いたければ、それをインストールしたPCが必要でした。また、作成したデータは基本的に端末にしか保存されないので、例えば会社で作成したファイルを外出先から閲覧したり、編集したりといったことは基本的にできませんでした。

対して、Google DocsやOffice Web Appsであれば、インターネットにつながってさえいれば、わざわざ端末にアプリケーションをインストールしなくても利用することができます。しかも、データはインターネット越しのサーバ上にあるので、異なる端末からでも閲覧、編集することが可能です。

スマートフォンやタブレット端末が登場するのはこうしたコンセプトが注目されはじめた後のことですが、当時からモバイルPCを使って外出先で仕事する人は多くいましたし、会社の業務の続きを自宅から行うといった運用が可能なため、クラウドコンピューティングは大きな注目を浴びました。

データセンターが提供するのはIaaS、Gmailとは大きく違います

前置きが長くなってしまいますが、もう少しだけクラウドコンピューティングについて補足させてください。

先ほどは、言葉のイメージをつかんでいただくために、Google DocsやOffice Web Appsを引き合いに出しましたが、実のところ、クラウドコンピューティングで提供されるのは「アプリケーション」だけではありません。説明文のとおり、そこには"コンピューティングリソース"も含まれます。

もう少し具体的に解説すると、現在のクラウドコンピューティングは、大きく「SaaS(Software as a Service)」、「PaaS(Platform as a Service)」、「IaaS(Infrastructure as a Service)」の3種類に分類されます。

それぞれの名前にある「as a Service」の部分は「インターネット(Web)サービスとして提供される」といった意味です。

したがって、SaaSなら「インターネットサービスとして提供されるソフトウェア(=アプリケーション)」、PaaSなら「インターネットサービスとして提供される(アプリケーション)プラットフォーム」、IaaSなら「インターネットサービスとして提供される基盤(ハードウェア)」となります。

これらのうちSaaSは、端末にインストールして使っていたようなアプリケーションをインターネット経由で提供するサービスのことを指します。すなわち、先に挙げたGoogle DocsやOffice Web Apps、さらにはGmail、Google Mapsなどが該当します。一般の方々がクラウドに触れるのは、こちらのSaaSがほとんどでしょうから、質問者の方が「クラウドコンピューティング=Gmailのようなサービス」と連想するのはごく自然なことでしょう。

ただし、クラウドコンピューティングには、前述のとおりPaaS、IaaSというものもあります。PaaSに関しては、アプリケーションが動作するのに必要な環境をインターネット経由で提供するサービス、IaaSに関しては、CPU、メモリ、ディスク容量などのコンピューティングリソースがインターネット経由で提供されるサービスです。わかりやすく言えば、プログラマーにとって必要な環境が揃えられているのがPaaS、インフラから管理ができて、上位のミドルウェアや実行環境をユーザが自由に選択可能なのがIaaSです。なお、SaaSやPaaSは通常IaaSの上に構築されており、IaaSの特長(後述)を兼ね備えていることがほとんどです。

そして、以上のようなクラウドコンピューティングのサービス形態のうち、データセンターが提供するのは、主にIaaSになります。

IaaSの最大の特長は、CPU、メモリ、ディスク容量などを、必要なときに、必要なだけ提供できるという点です。この部分が、前回説明したVPS(Virtual Private Server)と大きく異なります。また、課金体系に関しても、これまでに説明してきた他のサービスとは大きな違いがあります。

こうした特長を実現するうえでベースとなっているのは高度な仮想化技術です。VPSでも仮想化が使われていましたが、それ以上に大規模で高度な仮想化技術によって支えられています。

データセンターとしてのクラウドサービスを解説する場合、ここからが本題という感じなのですが、すみません、スペースの都合で詳細は次回に説明させてください。