今回は、製造業のデータ活用について、重要なシーン「ダウンタイム」、「顧客エンゲージメント」、「安全性とコンプライアンス」に絞って、事例を交えながら紹介します。

(1)ダウンタイムの削減

工場では、センサー、コントローラー、さらには組み立てライン内のほかの装置から、膨大な量のデータが生成されています。しかしそれらのデータは通常、差し迫った問題を示していないかぎり、見向きもされなかったり、すぐに利用できる状態になっていなかったりします。これらのデータを組み合わせて長期にわたり分析すれば、オペレーションコストを削減するための「宝の山」となる可能性を秘めています。

予知保全や状態基準保全の分野では、装置のパフォーマンスに関する過去データを使って、将来起こりうる故障の可能性を予測します。最近の調査によると、多くの企業は装置のメンテナンスや交換スケジュールを追跡できる十分なシステムを持っていないことが分かっており、もし計画外のダウンタイムがひとたび発生すれば、巨額の損失につながってしまう恐れがあります。

その対策として、予知保全では、以下の2つの方法で取り組むことができます。

  • センサーデータを利用し、装置の故障の予兆となる過度の振動や熱といった状態を監視
  • 過去の状態や類似した状況を分析し、装置が完全に正常稼働していて定期メンテナンスが不要である時期を特定

ここでデータを活用してダウンタイムの発生を防いでいる事例を一つ紹介します。フランスに本社を構える世界的な自動車部品メーカーのFaureciaは、エンタープライズデータハブを構築し、何千台もの機械と何百万個ものセンサーからデータを収集することで、予知保全の実施と製品品質の向上を実現しています。

Faureciaは現在、品質の問題を早期に発見し、不要な人件費や材料費を削減し、顧客満足度を向上させています。さらにデータ分析によって、ゼロディフェクト(不良ゼロ)という目標に近づきつつあります。

なお、製造業からはそれますが、ダウンタイムの話は製造業以外の業界にもあてはまります。例えば物流会社は、自社の配送車両が故障してしまうことは避けたい事態の一つです。

そこで車両を管理する部署は、車両に搭載したセンサーからさまざまな部品のパフォーマンスを示す情報を収集することで、問題の前兆を早期に知らせる警告サインや全体的なパフォーマンスを把握するための指標を設定することができます。こうしたシグナルは、過去のサービス履歴と併せて、ダウンタイムを防ぐための助けとなるはずです。

(2)顧客エンゲージメントの強化

メーカーが現場から収集した製品関連のデータは、顧客やチャネルパートナーとの関係を強化するためにも活用できます。

例えば、工場設備メーカーは自社製品のセンサーデータを収集することにより、故障を予測し、予防保全が必要であることを顧客に知らせることができます。また、自動車やセキュリティカメラなどのスマート機器のメーカーでは、ソフトウェア更新を無線配信することで、購入者が販売店に出向く手間をなくすことにつなげられます。

自動車向けの電子機器・テレマティクスを提供するイタリアのVodafone Automotiveの事例を見てみましょう。Vodafone Automotiveは、保険会社が保険契約をより的確に調整できるプログラムを開発しました。このプログラムでは、車両の位置、速度、加速度に関するデータの収集装置を車体に搭載します。収集された情報はドライバーのプロファイルに取り込まれ、保険会社はそのプロファイルを利用して保険契約を調整できるようになり、保険会社の負担を軽減しています。

さらに、Vodafone Automotiveはデータファブリックを構築することで、リアルタイムサービスの基盤を築き、ドライバーの安全性の向上や、現場車両のメンテナンス効率の改善にもつなげています。

(3)安全性とコンプライアンスの向上

医薬品や食品などのメーカーは、顧客の安全を守る必要性を特に意識している業界です。もし販売した品質に問題があった際、その原因を見つけられないままでいると、公衆衛生を脅かすだけでなく、規制当局からの重大な罰則につながる恐れもあります。

医薬品メーカーであれば、薬を市場に届けるために、適切なセキュリティ、ガバナンス、データリネージ追跡が必要となります。研究開発から臨床試験、歩留まりの最適化まで、あらゆる領域を追跡する必要があります。

サプライチェーン全体にわたって製品の状態や品質を監視するために、センサーを利用することもできます。生鮮や加工品などの食品メーカーであれば、スマート温度計を利用することで、製品がその安全性を損なう温度にさらされることがないよう、取り組みを強化できます。

安全性向上の取り組みとしては、アメリカの臨床検査機関Quest Diagnosticsの事例が挙げられます。Quest Diagnosticsでは、過去10年間における200億件以上のラボ検査の結果を保存するビッグデータプラットフォームを構築しました。Quest Diagnosticsは、そのデータを他の非構造化データソースや構造化データソースと組み合わせて、新たな臨床的洞察を引き出しました。これにより、業務効率を改善し、臨床報告をリッチ化し、公衆衛生とラボ利用とを管理する必要性の高まりに対応しています。

製造業は、価格マージンの圧力、貿易構造の変化、サプライチェーンの不確実性など、日々多くのハードルを乗り越えながら、市場に製品を届けています。こうしたなか、さらなる強みや優位性を目指してイノベーションに取り組んでいくには、データを革新的に活用することによって見出せることも少なくありません。

データ価値の新たな源泉を発見するとともに、そのデータを管理する適切なデータ管理プラットフォームの活用は、イノベーションのカギとなるのです。

著者プロフィール

大澤 毅(おおさわ たけし) Cloudera株式会社 社長執行役員


IT業界を中心に大手独立系メーカー、大手SIer、外資系 IT企業のマネジメントや数々の新規事業の立ち上げに携わり、20年以上の豊富な経験と実績を持つ。Cloudera入社以前は、SAPジャパン株式会社 SAP Fieldglass事業本部長として、製品のローカル化、事業開発、マーケティング、営業、パートナー戦略、コンサルティング、サポートなど数多くのマネジメントを担当。2020年10月にCloudera株式会社の社長執行役員に就任。