オンプレ、クラウドの最適化
ハイブリッドワークが当たり前となっている現在、ハイブリッド環境に合わせたデータのポータビリティ(持ち運びやすさ)に対する必要性が高まっています。なぜなら、ハイブリッドな環境において、データのポータビリティを最適化することは、組織に画期的な変化をもたらし、複雑なビジネス環境での成功を可能にするからです。
身近な例で言うと、海外出張行く人の多くが仕事の資料すべてが入った会社支給のノートPCを持っていくことでしょう。数年前までは、海外使用対応製品でなければ、出張先の国でPCを使う場合、プラグが適合している電源ケーブルや、電圧を調整できる電源といった物理的な周辺機器を別途用意していました。
日本からノートPCを持っていかずに、現地でノートPCを調達するという方法もありますが、それが組織から求められている水準のセキュリティやガバナンスを備えているという保証はありません。つまり、あらかじめ海外出張を前提としたノートPCを支給する(すなわち、ハイブリッドポータビリティを最適化する)ことで、仕事の利便性は格段によくなるのです。
ハイブリッドポータビリティの最適化は、データセンターの利用形態でも求められます。これまで多くの組織では、莫大な予算をかけながら、急ピッチであらゆるワークロードをクラウドに移行してきましたが、近年、移行したワークロードを再びオンプレミスのストレージへ戻す必要性があることに気がつきました。
その主だった理由は、プライバシー規制とコストです。オンプレミスのワークロードには、セキュリティ上の懸念からクラウドに移行すべきでないものも多くあったのです。単に便利だからだとか、世の中の流れだからなどの理由でクラウドに移行するのではなく、ワークロードの性質に合わせてオンプレミスとクラウドの利用を最適化することが求められているのです。
この見方は、IDCの見解にも反映されています。IDCは、企業がクラウドへの移行にそのまま一直線に進むのではなく、ワークロードファースト(ワークロード第一主義)に向かっており、ハイブリッド/マルチクラウドの重要性が認識されていると見通しています。IDCの2022年の調査には次のような記述があります。
「コアインフラはこれまで通りです。今日のアプリケーション・グラビティ(重力)と、ガバナンスの複雑さを踏まえると、コアデータセンターは今後もハイブリッド/マルチクラウド・エクセレンスの起点であり続けるでしょう。それはコアデータセンターが鍵となる重要なワークロードをホストしており、それは近い将来も変わらないためです。欧州の組織の95%はマルチクラウド環境の実現を優先事項として挙げており、48%はそれを『とても重要』または『極めて重要』と捉えています」
ここで、ハイブリッドポータビリティの導入によって価値向上に成功した企業を2つ簡単に紹介しましょう。
米国のテクノロジー企業
この企業は、ワークロード統合、柔軟性、自動スケーリングのために、あらゆる資産のクラウド移行を進めていました。データ基盤を2つのデータセンターでオンプレミス運用していたのですが、Microsoft Azure上のデータ基盤に移行しました。
その結果、Apache Sparkのジョブをデータ基盤上でより高速に実行できるようになり、平日はフルスケールの25%で、週末は4倍にスケールアウトして実行することが可能となっています。
欧州の多国籍保険会社
この企業は、データ基盤をオンプレミスとAzureパブリッククラウドの両方に展開しました。その結果、同社のチームは、オンプレミスのプロセスとクラウド上のプロセスの間で一切の妨げなく、同じユーザーエクスペリエンスを得ることができました。
急速な変化に対応できるハイブリッドポータビリティ
私たちがクラウドをよりスマートに活用する必要があるのは明らかです。「新しいワークロードはすべてクラウドに移行する、古いワークロードはすべてオンプレミスにとどめればよい」と決めつけてしまうのは単純すぎます。
そうではなく、もっと俯瞰し包括的なアプローチを取りましょう。「現在、自分たちにはどのようなワークロードがあるでしょうか?それはどこに配置するのが最適でしょうか?」などと。
あなたが持つデータとそのデータについて実行する予定のアナリティクスを考えてみてください。そうしたアナリティクスはどこに展開するのが最適でしょうか。そこにはパフォーマンス、コスト、地域、ESGなど、さまざまな要素が絡んできます。これらの要素の組み合わせは、同じ組織内でも部門やチームによってそれぞれ異なりますし、別々の組織間に至ってはいっそう違ってきます。
加えて、それらの各要素は変化します。今日の守るべき必須事項は、数週間前、数カ月前、数年前のものとは違います。パンデミックが私たちに要求した事柄(例えば、リモートワーク)を思い出し、どれほど速いスピードでその変化が必要とされたかを振り返ってみてください。
変化のスピードは今後加速する一方であり、パンデミックのような不測の事態は今後も発生することでしょう。こうした中で重要なことは、その変化に付いていける能力、つまり、ポータビリティを持つことです。
それは、開発を再び行わずにデータを移動し、アナリティクスを実行できる必要があるということです。もちろん、注意点もあります。ポータビリティが機能するには、ワークロードやデータだけでなく、それに伴うものすべて、すなわちセキュリティ、ガバナンス、メタデータを含めて、それらが完全にポータブルであることが必要です。
適切なアプローチで取り組めば、ハイブリッドポータビリティは企業にとってのゲームチェンジャーとなり得ます。相互につながり物事の動くスピードが速い世界で、企業が成功を収めていくのに役立ちます。
著者プロフィール
大澤 毅(おおさわ たけし) Cloudera株式会社 社長執行役員
IT業界を中心に大手独立系メーカー、大手SIer、外資系 IT企業のマネジメントや数々の新規事業の立ち上げに携わり、20年以上の豊富な経験と実績を持つ。Cloudera入社以前は、SAPジャパン株式会社 SAP Fieldglass事業本部長として、製品のローカル化、事業開発、マーケティング、営業、パートナー戦略、コンサルティング、サポートなど数多くのマネジメントを担当。2020年10月にCloudera株式会社の社長執行役員に就任。