論理障害後の復旧ソフトのインストールは危険
今回、ワイ・イー・データの情報セキュリティ事業部 事業部長である安尾浩氏に、同社におけるHDDの復旧作業について話を聞いた。
復旧依頼とともにHDDが届けられた時、最初に行われるのは障害タイプの判定だ。これは、データが読み出せなくなった状況などを依頼主からヒアリングすることによって、ある程度判定できる。
障害のタイプは物理障害と論理障害に分けられる。物理障害とは、データを保存しているストレージが物理的に損傷している状態を指す。例えば、HDDならばデータを読み出すヘッドが稼働できない状態や異音がする状態などがこれに当たる。また、落下や水没といった事故での障害も物理障害だ。
一方論理障害とは、HDDは壊れていないがデータの読み出しが不可能になっている状態をいう。HDDはデータを保存する際空いている部分に分散してデータを保存し、どこに何のデータを保存したかという情報を管理している。よって、このデータの保存場所を管理している部分が損傷すると、データは存在しているのに読み出せないという事態が起こる。
また、単純に「ごみ箱を空にする」をうっかり実行してしまったといった場合も論理障害に含まれる。HDD上では削除されたデータの保存部分に上書きを許可する指示が出されているだけで、実際にデータが消されているわけではないからだ。
「論理障害の場合、ラボ専用の復旧ソフトウェアで対応します。同じようなソフトを持っていれば、自分で作業することもできるのは確かです。当社では、電話でのヒアリングで自社開発の復旧ソフト『EasyRecovery』で復旧できそうだと判断した場合は同製品の購入を案内していますし、サポートも十分行っています。ただ、障害発生後に復旧ソフトを障害媒体にインストールすると、復旧できそうなデータを上書きしてしまう可能性があるので注意が必要です」と、同氏は語る。
ちなみに、ラボ専用の復旧ソフトは一般のソフトのように簡単に使えるものではなく、経験・ノウハウ・忍耐があって使いこなせるものだという。
必要なデータをうっかり削除してしまった場合、PCが動作している状態が続くだけでも上書きされる確率が上がってしまう。つまり、とにかく何もせず、すぐに専門業者に依頼することがデータ復旧成功のカギと言える。
HDDを元に戻せるかどうかが物理障害復旧のポイント
物理障害の場合、HDDを解体して損傷部分の修復を行うなど、物理的な修復作業が発生する。この時に重要なのが、障害が発生したHDDの正常な動作状態を知ることだという。
「同じメーカーの同じロットのHDDでも、ヘッドの取付位置などがわずかに違います。できる限り元の状況を再現するのが、物理障害復旧のポイントです。この技術を取得するには経験も必要です」と同氏。これが、数社の復旧業者をハシゴしたHDDを復旧することが難しい理由でもある。
同社の場合、物理的な処置を行ってデータを吸い出せる状態にできたら、そのデータを別のサーバに移動させる。データが正常に扱える状態をまず構築してから、ファイルなどのシステムの状況の精査が開始される。最初に行われるのは、HDD内に格納されているデータを識別し、どのようなファイルが保存されていたかの確認だ。特定のフォルダやファイルのみを復旧させたい時は、この時点で成功の可否が判別できる。
「当社では、個人様向けメニュー以外のお客様に対し、調査が完了した時点で復旧可能なファイルリストを提供しています。データ量にもよりますが、この調査にかかる期間は平均で2~3日です。リストの中に復旧したいフォルダがあった場合、それを復旧する作業にかかる時間は1日程度です。よって、依頼を受けてからトータル1週間程度でデータを戻せています」
サーバにバックアップがあるから再リカバリにも対応可能
データ復旧作業は一般的に、壊れたハードディスクから直接データを吸い出して新しいHDDに移行するといった形で行われるが、同社では専用サーバにデータを吸い上げるという方式をとっている。
「当社が技術提携している米オントラック社の独自技術なのですが、イメージデータをサーバに移動させてから、データの拾い出し作業などを行います。これは、作業中や納品中の事故などによる被害を抑えるための技術です。ただ、他社が同じようにサーバを使ったからといって、当社と同レベルのサービスが提供できるわけではありません。専用ソフトとノウハウがあって初めて、サーバを使う強みが出てくるのです」
新たなHDDに移動させてデータを処理する方法に、問題がないわけではない。まず、そのHDDに何かあった時のバックアップが存在しないので、データのコピーをし損じたら、復旧できるデータが減ってしまう。また、作業中のミスは人為的な部分もあり100%防げるものではない。そのほか、配送途中で車両が事故に遭う可能性や、依頼主がデータ復旧後のHDDを取り付け作業中に落下させたり、取り付けミスで破損させたりする可能性まで、業者側で消すことはできない。
しかし、同社の手法ならば、データのバックアップがサーバに存在するため、データの保存期間内であればデータをコピーし直すことができる。
「建築業など、過酷な現場でPCを使う業務では、事故が起こることもあるようです。なかには、"届けたばかりのHDDを壊してしまったからコピーがほしい"と言うお客様もいます。こうしたバックアップ体制が取れているのが、当社の強みです」と同氏は語る。
明確な料金表と個人向け特価プランを用意
同社の特徴は、サーバを利用した安全な復旧作業に加えて、明確な料金体系がある。料金は障害の種別と復旧対象となるHDDの容量で決まるため、問い合わせの段階で最大料金がはっきりとわかるのだ。
また、個人向けには「パーソナルパック」という特価プランも用意されている。これは、企業向けのメニューとは異なり、最大4フォルダかつ8GBまでのデータのみを対象とすることなどを条件に、1ヵ月50名限定でサービスを格安で提供するというものだ。
「われわれは安全なサービスと明確な価格を提示することで、お客様が利用しやすくなることを心がけています。ただ、技術的には最近出てきたSDDをはじめ、すべてのストレージに対応できますが、法律が壁になることもあります。HDDレコーダーの内蔵HDDからは、地上波デジタル放送などの放送を録画したデータを読み出すことはできません」
さらに同氏は、「HDDは精密機械ですから、振動や衝撃は御法度です。また、USBメモリやSDメモリーカードといったシリコンメディアの場合は端子に触ると静電気でデータが飛んでしまうこともあります。データ転送中に適切な処理をしないで引き抜くというのも危ないですね。どのメディアも、実はかなり繊細なのです」と、気軽に利用されているストレージの扱い方にも注意してほしいと語った。