データドリブンマーケティングとは?
データドリブンマーケティングとは、ひとことで言えばデータを中心に意思決定を行うマーケティング手法だ。従来的なマーケティング手法の場合、もちろん過去の売上など実績データは参照するが、それを踏まえて次の施策を考える際、担当者の経験や直感に頼らざるを得ない面も多くある。しかし、データドリブンマーケティングでは、過去の実績だけでなく、顧客の行動や購買パターン、季節的なトレンドといった大量のデータを分析することで、より精度の高い戦略を立てることができる。
例えばECサイトを運営している場合、サイトのアクセスデータやソーシャルメディアのエンゲージメントデータ、購買履歴など、多岐にわたるデータソースを分析することになる。これにより、市場のトレンドや顧客のニーズを正確に把握し、ターゲットとする顧客層に対して最適なマーケティング施策が可能になるのである。データドリブンマーケティングの導入により、企業は競争力を高めたり、投資対効果(ROI)を向上させたりといったことが期待できるのだ。
今、データドリブンマーケティングが注目される理由
なぜ今、データドリブンマーケティングが脚光を浴びているのか。その理由の一つとして、急速な技術の発展が挙げられる。データ収集や分析の手法は格段に進歩し、これまでは難しかった多種多様なデータの収集・分析が可能になったことで、データに基づく予測の精度が大幅に向上したのである。
近年、顧客行動や購買パターンが多様化し、消費者のニーズも一層複雑化していることは周知の通りだ。企業が適切な戦略を打ち出すには、属人的な判断に頼るのではなく、膨大なデータを基に顧客インサイトを引き出していかなければならないのである。
そこで、データドリブンマーケティングが威力を発揮するというわけだ。データドリブンマーケティングの推進により、ターゲット顧客に対する的確なアプローチが可能になり、マーケティングキャンペーンのROI向上も期待できる。データに裏打ちされた精度の高い戦略を立案することで、競争の激しい市場において優位性を確保することが可能になるのである。
データドリブンマーケティングのメリット
データドリブンマーケティングのメリットを改めてまとめると、大きく次の3つが挙げられる。
- 意思決定の精度向上:直感や経験に頼らない判断ができる。
- 投資対効果(ROI)の向上:効果を定量的に評価できるため、効率の良いリソース配分が可能となる。
- 顧客満足度の向上:パーソナライズした提案やコミュニケーションが行えるため、顧客からの信頼が高まりやすい。
それぞれについて、順に見ていこう。
意思決定の精度向上
データに基づいて意思決定を行い、マーケティング施策を実行していくデータドリブンマーケティングでは、感覚や経験に頼る従来の方法と比較して、リスクを最小限に抑えた判断ができる。より厳密なデータ分析を行うことで、消費者の行動や購買パターンをより正確に把握することが可能だからだ。
例えば、「去年の春はこれが売れたから、今年の春も売れるだろう」と大量に在庫を用意した場合、果たしてその予測はどの程度当たるのだろうか。データドリブンマーケティング的に考えるのであれば、前年の売上実績だけでなく、今の社会情勢や世の中のニーズ、場合によっては平均株価や気候に至るまで、売上に影響を与え得るさまざまな分野のデータを加味して分析する。どちらの予測結果がより確からしいかは言わずもがなだろう。
ROIの向上
ターゲット顧客のニーズを正確に把握できれば、その情報に基づいてマーケティング施策を最適化することができる。
ECサイトの例で考えてみよう。データ分析によって商品ページの閲覧数や購入率、買わずに離脱したポイントなどを把握すれば、顧客が購入に至るまでの過程を最適化する施策を打ち出せる。これにより、コンバージョン率が向上し、同じ広告予算でより多くの成果を上げられるというわけだ。
さらに、マーケティングキャンペーンなどを実施する場合、その効果をリアルタイムで分析して随時改善することで、投資効果の最大化が可能になる。
このように、データドリブンマーケティングでは具体的な数字や実績に基づいて施策を決定・実施していくことができるため、ROIの向上に直結する効果的な手法となり得るのだ。
顧客満足度の向上
データドリブンマーケティングは、最適化による売上増や効率化によるコスト削減だけでなく、顧客満足度の向上にも大きく貢献する。顧客の行動データやフィードバックを活用すれば、個々の顧客に最適なサービスや製品を紹介・提供できるからだ。
例えば、顧客の購買履歴や行動パターンを分析することで、各人が好みそうな商品のレコメンドやプロモーションを実施できる。自分の興味やニーズに合った提案を受けた顧客は、満足度が高まるだろう。
また、購買プロセスにおいて何らかの問題がある場合も、データ分析によって迅速な対応が可能となる。例えば、「オンラインストアのユーザーのクリックストリームデータを分析してどの部分で離脱が多いかを特定し、改善策を講じる」といった具合だ。データに基づいた調査・分析により、顧客がスムーズに利用できる環境を整えることができる。
データドリブンマーケティングによって、顧客の声に耳を傾け、適切な施策を実行する。――それが、顧客満足度の向上につながるのである。
データドリブンマーケティングの実施手順
データドリブンマーケティングを成功させるためには、正しい手順を踏むことが必要だ。以降では、データドリブンマーケティングの効果を最大化する進め方を5つのステップに分けて説明する。
ステップ1: データの収集
データドリブンを成功させるために重要となる最初のステップは、データの収集である。ことマーケティングに関しては、膨大なデータがビジネスプロセスの各所に点在しているため、いかにそれらを効率的に集めるかがポイントとなるだろう。
例えば、自社サイトへのアクセス状況に関しては「Google Analytics」のようなアクセス計測・解析ツールを利用することで、訪問者の行動パターンやサイト内の流れを追跡できる。また、ソーシャルメディアであれば、高いエンゲージメントを獲得している投稿は調査の価値がある。さらに、CRMシステムに蓄積された顧客データが、顧客の購買履歴や問い合わせ内容を含む重要な情報源であることは言うまでもない。
これらのデータソースを統合して一元管理することで、データの整合性と信頼性を確保することができる。データドリブンマーケティングの基盤を築く上で、質の高いデータの収集は必須事項だということを覚えておいていただきたい。
ステップ2: データの可視化・整理
続いて必要なのが、データの可視化と整理だ。データの可視化とは、複雑なデータをグラフや図表などを用いて視覚的に表現することである。これにより、データのパターンやトレンドが一目で分かるようになる。例えば、購買データの推移を折れ線グラフで表すことで、顧客の購買行動の変化を捉えることができる。
一方、データの整理とは、収集したデータを適切なフォーマットに変換し、一元管理することを指す。データ管理の基本、とも言える作業だ。これには、データクレンジング(重複や不要なデータの除去や誤入力の修正)やデータ統合(異なるデータソースの結合)が含まれる。一元化されたデータは分析しやすくなり、次のステップであるデータ分析にスムーズに移行できるようになる。
データの可視化と整理がうまく行えると、マーケティング戦略の課題を迅速に把握できるようになり、適切な意思決定を支援するための強力な基盤が整う。
ステップ3: データ分析とインサイト導出
このステップでは、収集・整理したデータを詳細に分析し、有用なインサイトを導出することが求められる。分析には基本的な統計分析から高度な機械学習アルゴリズムまで、さまざまな手法が用いられる。
統計分析は、平均値や中央値、標準偏差などの指標を用いてデータの基本的な傾向を把握するものである。一方、機械学習はパターン認識や予測を通じてより深いインサイトを提供し、マーケティング戦略の形成に役立つ。
例えば、購買データを分析することで、顧客の購買頻度や傾向、さらには特定のマーケティングキャンペーンの効果を評価できる。この情報を基に、ターゲットを絞り込んだキャンペーンやプロモーションを最適化していくことが可能となる。
データ分析から得られるインサイトは、企業が競争優位性を確保するための強力な武器となる。できるだけ多くのデータを基に、さまざまな切り口から分析を行いたい。
ステップ4: 施策の実行
実行フェーズでは、データに基づいて策定した戦略を正確に実行し、目標達成を目指す。この過程で留意すべきは、施策がデータドリブンなものになっているかどうかを常に確認することである。
具体的な施策例として、ターゲット広告の配信やパーソナライズされたメールキャンペーンなどが挙げられる。最適なタイミングで最適なメッセージを送ることで、顧客の反応率や、ROIの向上につながる。
また、施策の実行にあたっては、具体的なタスクや役割分担、スケジュールを設定し、チーム全体が同じ目標に向かって進むように計画を立て、明示することも重要である。漠然と進めるよりも格段に施策の実行精度が高まり、成功率が高まるはずだ。
ステップ5: 効果検証と改善
データドリブンマーケティングの最終ステップである効果検証と改善は、今後につながる重要なプロセスである。まず、施策実行後に、あらかじめ設定しておいたKPI(重要業績評価指標)に基づいてデータを収集し評価を行う。この段階では、キャンペーンのパフォーマンスに関する具体的な指標を確認することが求められる。
効果検証には定量的なデータ分析が不可欠であり、収集したデータを分析ツールにより可視化し、全体の成果を把握する。また、A/Bテストや多変量解析を活用して、さまざまな施策の効果を比較することも有効である。その結果を基に、成功要因と失敗要因を明確にし、次回の施策に生かすためのフィードバックを作成する。
最後に、検証結果を基にPDCAサイクルを回し、問題点を洗い出し改善策を講じる。これにより、次回のマーケティング施策がより精度の高いものとなり、ROIの向上ができるようになるのだ。効果検証と改善を繰り返すことで、企業全体のマーケティング戦略が進化し続けるのである。
データドリブンマーケティング「成功の秘訣」
データドリブンマーケティングで十分な成果を得るには、押さえるべきポイントを理解し、確実に実践することが必要である。以下では、主要な3つのポイントを挙げて説明しよう。
データを中心とした文化の浸透
データドリブンマーケティングを成功させるためには、企業全体にデータを中心に考える文化を浸透させることが重要である。
浸透させるための方法として、まずは社員教育やワークショップを通じてデータ分析の基本知識を共有することが考えられるだろう。データ活用の成功事例を社内で共有することで、データの価値を実感してもらうのも有効だ。また、そうした知識を実務に生かしていくのであれば、データの可視化ツールやリアルタイムで確認できるダッシュボードなどによって、全社員がデータにアクセスしやすくなる環境を整備することは必須だろう。
これらの取り組みにより、全体としてデータを活用した文化が浸透し、データドリブンマーケティングへの理解も深まるのである。
適切なKPI設定
KPI(重要業績評価指標)は、マーケティング活動の成果を定量的に測る指標だ。これが正確に設定されて初めて、進捗を確認しながら効果的なマーケティングを行っていくことができる。具体的なKPIを決定するには、ビジネス目標を明確にする必要がある。例えば「月間新規顧客獲得数」や「顧客生涯価値(LTV)」などが該当する。
次に、データ収集と分析を行い、KPIが現実的かつ達成可能なものであるかどうかを検証することが必要だ。これにより、実行可能な戦略を策定する基礎が築かれる。また、KPIは定期的に見直し、必要に応じて調整することが重要である。市場の変動や新たなトレンドの出現によって、設定したKPIが適切でなくなる場合もあるためだ。
適切なKPI設定を行うことで、マーケティング戦略の効果を最大化し、ROIの向上や顧客満足度の向上にもつながる。戦略を成功に導くためには、KPIの設定と継続的な管理が欠かせない。
PDCAサイクルの徹底
PDCAサイクルは「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(検証)」「Act(改善)」の各工程を繰り返すことにより、マーケティング戦略を継続的に最適化する手法である。
最初の「Plan(計画)」フェーズでは、データを活用して具体的なマーケティング目標とそれを達成するための施策を立てる。これが、効果的なマーケティングキャンペーンの基盤となる。
次に「Do(実行)」フェーズでは計画した施策を実行し、その過程で収集されたデータを活用して施策を微調整していく。単純な例で言えば、広告メールを送った顧客の反応を見ながら、次のアプローチのタイミングを調整するといった具合だ。
続く「Check(検証)」フェーズでは、実行した施策の効果を定量的に評価する。この段階で、KPI(重要業績評価指標)やROI(投資利益率)を測定し、計画の達成度を確認する。
最後に「Act(改善)」フェーズで、前の過程で得られた知見を基に改善点を特定する。これらの情報を次回の「Plan」フェーズに反映することで、マーケティング戦略は一層洗練されていく。
データドリブンマーケティングは、一度実施して終わりではなく、継続的に評価と改善を行うことで効果を最大化させる。PDCAサイクルを回すことで、常に最新のデータを基にした最適な戦略を展開することが可能になるのだ。
データドリブンマーケティングに役立つツール
データドリブンマーケティングは、膨大な量のデータを基に進めていく。そのため、実施にあたってツールの活用は必須だ。裏を返せば、ツールを使う必要がない程度のデータ量では、期待するほどの成果は得られないだろう。では、具体的にどのようなツールが必要なのだろうか。以下に、主なものを挙げておこう。
- データ管理プラットフォーム:膨大なデータを一元的に管理し、アクセスしやすくするツールである。代表的なものとしては、SalesforceやHubSpotなどがある。
- データ分析ツール:データの可視化や分析をサポートする。広く利用されているものに、Google AnalyticsやTableauなどが挙げられる。
- マーケティングオートメーションツール:メールキャンペーンやSNSの投稿などを自動化し、効率的なマーケティング活動を支援する。例えば、MarketoやPardotがその一例である。
- ビジネスインテリジェンスツール:複雑なデータをわかりやすく可視化し、経営戦略の意思決定を支援する。Microsoft Power BIやLookerなどがある。
これらのツールを効果的に組み合わせることで、データドリブンマーケティングの効果を最大限に引き出すことができる。
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ビジネスのあらゆるシーンでデータが生まれ、蓄積されている今、データドリブンマーケティングは、もはやいずれの企業も無視できない重要なアプローチの一つとなっている。データの収集から可視化、分析、施策の実行、効果検証までの一連の流れを正しく理解し、適切に実行していくことで、マーケティング戦略の精度は大幅に向上するはずだ。それは結果的に企業の生産性やROIを最大化し、顧客満足度の向上にもつながる。
本稿では、データドリブンマーケティングの基本的な概念や実施手順、成功のポイントを説明した。これらの知識を実践に活かし、自社のマーケティング戦略を成功へと導いていっていただきたい。
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