企業の継続的な成長における人材の重要性については、もはや言うまでもないだろう。だが、人材不足の昨今、優秀な人材の確保が一筋縄ではいかないことも事実だ。苦労して採用した人材も、その後の配属や評価などに納得感が得られなければ、すぐに辞めてしまう。いずれの企業の人事担当者も、少なからず頭を悩ませている課題だ。

そこで有効なのが、データドリブン思考である。

データを活用した客観的な意思決定を人事のプロセスに取り入れることで、企業は求める人材の採用や効果的な配置を実現できるようになる。それは結果的に離職防止にもつながるはずだ。また、データを基に透明性の高い評価制度を構築することで、従業員のエンゲージメントを高める効果も期待できる。

例えば、蓄積されたデータを分析してパフォーマンスの高い従業員の特長を把握することで、類似の特長を持つ採用候補者を選抜できるようになる。また、どういう人材がどの業務に適しているかを分析することで、適材適所の配置が可能となり、従業員の満足度や生産性も向上するというわけだ。さらに、データを基に長期的な人材戦略を策定することで、人材育成やリテンション計画をより効果的に実行できるのも大きなメリットである。

このように、データドリブン思考を人事に取り入れることで、戦略的な人材マネジメントが可能になるのだ。

データドリブン思考に基づく人事とは

データドリブン思考を取り入れた人事部門では、人材マネジメントのあらゆるシーンにおいてデータを基にした意思決定を行うことになる。人事担当者の経験や直感に依存せず、データに基づく客観的な分析と意思決定を行うことで、より効果的な人材戦略の立案が可能になる。

具体的には、従業員の採用や配置、評価、育成などのプロセスにおいて、データを駆使することで、個々の能力や適性を正確に把握し、適材適所の配置を行うといった具合だ。これにより、業務の効率化や従業員の生産性向上が期待できる。

近年では、ビッグデータやAIの活用といった高度なデータ分析技術が進展しており、これらを用いることでさらに精度の高い人材マネジメントが可能となっている。例えば、離職率の予測や従業員エンゲージメントの向上施策の効果測定といった領域でも、データドリブン思考によるアプローチは有効だ。

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データドリブン思考を人事に取り入れる必要性とは

近年、データドリブン思考を人事に取り入れる必要性はますます高まっている。第一に、価値観の多様化が進む今、従業員1人1人が異なる期待や目標を持っている。これに応えていくには、個々の従業員のパフォーマンスや仕事に対する満足度をデータで正確に把握し、適切なマネジメント施策を講じることが必要だ。

さらに、少子高齢化による労働力不足が深刻化している現代では、限られた人材を最大限に活用しなければならない。それには、データに基づいた現状の把握と分析、将来の予測が不可欠だ。それらを踏まえて考えることにより、人材の最適配置や育成計画を効果的に実施することができる。

また、新型コロナウイルス感染症流行の影響でリモートワークが急速に普及したことで、以前のような、出社・対面が前提のマネジメント手法が通用しない状況も増えている。リモート環境における従業員の活動や業務成果を見える化し、適切なサポートや評価を行う上でデータを活用するデータドリブン思考は威力を発揮する。結果的に、生産性を維持・向上させることにもつながるはずだ。

データドリブン思考を人事に取り入れることでどのようなメリットが生まれるのか、ここから、さらに細かく見ていこう。

価値観の多様化と労働力の減少

現代社会において、価値観の多様化と労働力の減少が企業に複雑な課題をもたらしているのは先にも述べた通りだ。特に価値観の多様化が進んだことで、従業員が働き方やキャリアパスに幅広い選択肢を求める傾向が強まっている。企業側は、個々のニーズに対応した柔軟なマネジメントを検討しなければならない。

一方、人口減少や高齢化社会の進行による労働力の減少も顕著だ。このような状況では、企業は限られた人材を効果的に活用し、生産性を最大化するための策を講じねばならない。それには、従来の経験や勘に頼ったアプローチではなく、客観的データに基づいた意思決定をするデータドリブンのアプローチが有効である。

例えば、ビッグデータを活用することで、従業員のパフォーマンスやエンゲージメントの傾向を分析し、人事的な意思決定を高い精度で行える。また、データに基づく適材適所の配置や育成計画を立てることで、企業全体の生産性向上につながる。データドリブンの考え方を採用することは価値観の多様化と労働力の減少という現代の課題に対応するための強力なアプローチになり得るのだ。

リモートワークの普及と新たな人材戦略

近年、リモートワークの普及により、企業の人材戦略は大きな変化が求められている。リモート環境では、全員が毎日出社して顔を合わせていた以前とは異なるマネジメントの方法や評価基準が必要となる。そこで役立つのはやはりデータであり、データを中心に考えるデータドリブンだ。

リモートワークの場合、地理的な制約がなくなり、グローバルな人材採用が可能となる。これにより、企業は多様なバックグラウンドを持つ人材を採用できるが、同時にリーダーシップやチームビルディングには新たな課題が生じる可能性もある。

データドリブン思考に基づく人事は、リモートワーク下においても、生産性やエンゲージメントをモニタリングし、適切なフィードバックを提供することができるため、従業員のパフォーマンス向上や離職防止に役立つ。

リモートワークの普及が進む中にあって、人事にデータドリブンを取り入れることは企業の新たな人材戦略として欠かせないアプローチなのである。

データドリブン思考を取り入れた人事が企業にもたらすメリット

データドリブンが企業にもたらすメリットは多岐にわたる。まず、データを活用することで意思決定の精度が向上することは言わずもがなだ。例えば、ビッグデータを分析することで、人材の採用から配置、評価、育成に至るあらゆるプロセスにおいて客観的な根拠が得られる。これにより、個々の従業員に最適な役割を与えることができ、生産性の向上をもたらす可能性を持つ。

また、従業員のパフォーマンスや満足度に関するデータの収集・分析によってできる施策も考えられる。例えば、従業員の成績や評価に対するフィードバックを基に評価基準を見直せば、より公正で透明性の高い評価制度を提供できるようになるだろう。こうした取り組みは、従業員のエンゲージメント向上や離職防止につながるはずだ。

採用・評価プロセスにおける意思決定の精度向上

先述の通り、これまで人事における意思決定は担当者の経験や直感に頼らざるを得ない部分もあった。だが、ビッグデータの分析を駆使することで、より客観的な判断と効果的な対応が可能になる。

具体的には、データを分析・活用することにより従業員のパフォーマンスを適切に評価したり、退職のリスクが高い従業員を特定したりといった具合だ。また、面接の際には応募者の過去のデータを基に適性を判断することで、採用の精度も向上する。

従業員の生産性向上

従業員の生産性を向上させることができるのも、データドリブン思考を人事に取り入れるメリットの1つだ。各従業員のパフォーマンスを数値化して分析することで、適切なフィードバックや今後のキャリアに向けたトレーニングを提供できるようになる。また、特定の業務においてどの従業員が優れた成果を上げているかをデータから分析し、その従業員の成功要因を他の従業員にも共有するといったことも可能だろう。

加えて、人事業務に携わる従業員の生産性向上というメリットもある。これは採用や人事に関する業務の多くが、データに基づく客観的な判断で進められるためだ。

効果的な採用と配置

効果的な採用と配置は、企業の成功に不可欠である。データドリブン思考に基づき、人事や人材に関する多様なデータを収集し総合的に分析することで、経営の意思決定の材料として役立てることもできる。

例えば、従業員のパフォーマンスデータやスキルセットを分析することで、トレーニングの必要性や評価制度の改善点を特定し、全体的なパフォーマンスの向上を図ることが可能だ。さらに、従業員の適性や意欲を評価することで、ポジションごとの適材適所を実現できる。

さらに、データドリブンのアプローチを用いることで、評価制度の透明性も確保される。これは従業員のモチベーションや、エンゲージメントにも大きく影響する要素だ。データに基づく評価は従業員にとっても納得感が得られるというメリットもある。

離職防止と従業員エンゲージメントの向上

データドリブン思考の人事への導入は、離職防止という観点からも有効だ。有給休暇の消化状況や残業時間、パフォーマンスといったデータと、これまでに離職した人材のデータなどを合わせて分析することで、離職リスクが高い従業員を早期に洗い出すことができる。リスクが高い従業員に対して適切なマネジメント施策を講じることができれば、離職の予防につながるだろう。

また、エンゲージメントの向上にもデータが活用される。従業員満足度調査のデータを分析し、その結果を基に職場環境や業務内容の改善策を導入することで、従業員のモチベーションを高めることができる。

エンゲージメントの高い従業員は、自発的に企業目標に貢献するため、生産性や業績の向上が期待できる。人事面でデータドリブンなアプローチをすることで、長期的な従業員エンゲージメントの向上を実現が可能になるのだ。

データドリブンの思考を人事に導入するためのステップ

では、データドリブン思考を人事に取り入れていくにはどのように進めればよいのか。具体的には、次の3つのステップに取り組めばよい。

まず、データの収集と可視化を行う必要がある。データは企業内のさまざまな場所に散在しているため、一元化して収集し、視覚的に分かりやすいかたちで整理することが求められる。例えば、従業員の勤怠データ、評価データ、離職率のデータなどがこれに該当する。

次に、収集したデータを分析するステップへ進む。ここでは、統計的手法やAIを活用したビッグデータ分析技術を用いて、データのトレンドやパターンを見つけ出すことが重要である。この分析を通じて、企業内の人材に関する現状を客観的に把握することが可能となる。

最後に、分析結果を基に具体的な施策を実行する。例えば、早期離職防止と人材定着や組織強化を目的とした組織と人材のパフォーマンスを最大化するための施策や、残業時間の削減のための施策、人事評価履歴を人材育成に活用するといった施策が考えられるだろう。

以下では、各ステップの詳細を説明する。

データの収集と可視化

データドリブン思考を人事に導入するための第一歩は、適切なデータの収集である。企業内のさまざまな情報源からデータを集めることで、人材マネジメントに必要な基礎データが整う。具体的には、従業員のパフォーマンスデータ、勤務時間や離職率のデータ、採用状況などが挙げられる。

データの収集が完了したら、次にそれを可視化する工程が必要である。データを見やすく、理解しやすい形式に変換することが重要だ。ダッシュボードやグラフを使用して企業全体の人材状況を一目で把握できるようにするのがよいだろう。これで、経営層や人事担当者は迅速かつ正確に意思決定を行うことができる。

データの分析

これは人事に限らないことだが、データドリブンに基づいた意思決定を行う際、データの分析は極めて重要なプロセスだ。収集したデータを適切に分析することで、有用なインサイトを導き出すことができる。データ分析には、多岐にわたる手法があり、適切な手法を選ぶことが求められる。

1つの方法として、回帰分析やクラスタリングといった統計的手法が挙げられる。このような手法を用いることで、従業員のパフォーマンスや離職傾向などのパターンを見出すことが可能だ。また、データ分析は単なる統計解析にとどまらず、機械学習やAI技術を活用することで、予測精度をさらに高めることもできる。

例えば、パフォーマンスの高い従業員と低い従業員の特長を、データ分析を通じて明らかにし、効果的な育成プログラムを設計するというアプローチがある。いずれにせよ、適切なデータ分析は、意思決定の質を向上させ、組織全体の生産性に有益な結果をもたらす。データドリブンで成果を得たいのであれば、正確なデータ分析が不可欠であると言えるだろう。

データを活用した施策の実行

データを収集し、分析したのであれば、その結果を生かさなければ意味がない。このプロセスでは、データ分析の結果を基に具体的なアクションプランを立て、実際の人事施策に反映させていく。例えば、従業員のパフォーマンスデータを分析した結果を基に、優秀な人材を育成するためのトレーニングプログラムを設計する……といった具合だ。

また、採用プロセスの改善もデータ活用の重要な側面である。過去の採用データを分析し、採用基準や面接プロセスを最適化することで、より適切な人材を効率的に採用できる。さらに、データを利用して離職の傾向を分析し、離職防止のための具体的な対策を講じることも可能だ。このような施策の一例として、定期的な従業員満足度調査の実施がある。

施策の実行にあたっては、常にデータに基づいたPDCAサイクルを回すことが重要となる。これにより、施策の効果を継続的に評価・改善し、企業の人材戦略をより精緻化できるだろう。

データドリブンを人事に取り入れる重要性と未来

本稿では、データドリブン思考を人事に取り入れるメリットや、そのためのステップについて紹介した。

多様化が進む環境の中で継続的な成長を目指す企業にとって、人材が重要であることは間違いない。データを活用した客観的な意思決定は、人材マネジメントの精度を向上させ、人材の定着率を高めると共に長期的に企業全体の生産性を高めることにつながる。従業員にとっても、正しい評価とキャリアアップに向けたフィードバックが得られる利点は大きい。

人事×データドリブンのアプローチは、企業と従業員双方に恩恵をもたらしてくれるはずだ。

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