日々のビジネスの中で生まれる大量のデータを企業の意思決定や価値創造へ生かす「データ活用」の取り組みは、もはや、全ての企業にとってのミッションと言える。事業環境の変化が加速し続ける中で、組織としての「データ活用能力」をどのように高めていけば良いのだろうか。
本稿では、データ活用に不満や課題を抱える企業が、その能力を高めていくために有効と思われる「3つのステップ」から、第一歩目となるデータ活用のための課題の探索についてお伝えする。
重要であることは分かっていても進まない「データ活用」
多くの企業においてビジネスにITシステムが不可欠となりはじめた1980年代後半以降、企業の意思決定にデータを活用して競争力を高めるというコンセプトは、これまでに形を変えながら繰り返し注目されてきた。
「経験と勘」に頼った仕事の進め方から、「データ活用により得られる知見」を生かした意思決定へ移行することによる生産性の向上もその一例だ。また、現在の経営課題となっている「DX(デジタルトランスフォーメーション)」でも、新しいテクノロジーと企業内外のデータを組み合わせて、これまで市場に存在しなかった新たな価値を生み出す組織への変革が求められている。
これまで半世紀近くにわたって、データ活用の重要性が認識され続けてきたにもかかわらず、現在においてもデータ活用に対する何らかの不満や課題がくすぶっている企業は多いのではないだろうか。
解決すべき「課題」はそれぞれの立場が抱える「痛み」
ビジネスパーソンが抱える具体的な不満、課題の内容は、立場によってさまざまだ。「経営者」「事業部門」「IT部門」は、それぞれの立場で、データ活用に対する「ペイン(痛み)」を抱えている。その例を考えてみよう。
「経営者」のペイン:ITには詳しくないので、細かいことはIT部門に任せている。DXを推進するために全社的なデータ活用の指示はしてはいるが、遅々として進んでいない。意思決定のために月次のレポートを参考にしているが、最近は社会状況の変化が早く、数週間単位での変化も予測が難しくなりつつある。よりリアルタイムに近いデータをもとに迅速な意思決定をしたいが、実際はできていない。
「事業部門」のペイン:自部門で使うために最適化された業務システムを長く使っている。新しい要望に対しては、表計算ソフトやSaaS型の業務アプリなどを駆使して、自分たちにとって使い勝手が良いやり方で対応している。データの集計や活用は、それらのツールを組み合わせながら部門内で行っている。データ活用の方法を変えろと言われても業務に悪影響が出ては困る。会社全体に関わるデータに関心はない上、そうしたデータにアクセスすることもできない。「全社規模でのデータ活用を強化しろ」と言われても、今以上は何を対応すればいいのか分からない。
「IT部門」のペイン:これまで、各部門から上がってくる要求に合わせて、個別にシステムを構築したりツールを導入したりしてきた。現状では、数が増えたシステムやツールの運用保守とサポートで手一杯だ。「全社規模でのデータ活用をやれ」と言われても、個別最適化が進んでサイロ化したシステムが多数ある状況で、分散しているデータの統合や活用は容易ではなく、コストもかかる。経営者はITを知らず、単に保存されているデータと、活用できるデータの区別もついていない。データ活用のために何から着手すべきかの方針が立たず困っている。
これらのペインは、そのまま、企業がデータ活用を進めていく上で解消していかなければならない課題でもある。
まずは自分たちが持っているデータの「棚卸し」から
では、これらの課題を取り除くためにまず着手すべきことは何だろうか。それは、社内にある「全てのデータの棚卸し」だ。これは、言い換えれば、データ視点での「業務プロセスの棚卸し」でもある。各部門やチームで日々の業務がどのように進められており、どんなデータが蓄積されているのか、それを一元的に可視化していくのだ。
この作業を進めるにあたって重要なポイントは、「全てを一度にやろうとしない」ことだ。現状さまざまな場所に分散しているデータを「データ統合プロジェクト」のように1カ所に統合しようとすると、膨大な手間や時間、コストが必要になる。まずは分散しているデータは「分散した状態のまま」で、可能なところから順次把握して可視化を目指す。
また、この段階ではデータ間の不整合やビジネス的な意味については考慮せず、とにかく「状況を把握する」ことに集中する。まずは「自分たちはどんなデータを持っているのか」を知るのだ。その後で全体を俯瞰して、それぞれのデータの意味、どれが重要なデータなのか、意思決定や新たなビジネスの立ち上げのために役立ちそうなデータはどれか、足りていないデータはあるか、などを吟味していくようにする。
棚卸しの次のステップは、データ活用のための「環境整備」だ。次回は、データ活用のプロセスと文化を組織に根付かせる環境の作り方と、それを主導していく「人材」の重要性に触れる。