日本のデジタル対応と競争力は世界で後れをとっている。国際経営開発研究所(IMD)の調査によると、2020年に日本はデジタル人材で22位、デジタル競争力で27位にランクインしており、eコマース、モバイルバンキング、デジタル・ガバメントのサービス利用などの普及率も高いとは言えない。
こうした状況下の日本企業で、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるためには何が必要なのか。今回は、DXを成功に導く鍵となる「データ活用能力」向上の重要性について説明する。
日本企業が抱えているデータ活用の課題
総務省が2020年に実施した「日本企業におけるデータ活用の現状に関する調査」によると、大企業では顧客管理や経理といった領域だけでなく、POSやeコマースによる販売記録などのデータ活用が徐々に浸透しつつある一方で、中小企業においては顧客データを活用している企業が約3割、経理データについては約2割、POSやeコマース販売記録に関しては1割未満と、データ活用が十分に進んでいるとは言い難い。
また、大企業においても「経営」や「マーケティング」などの特定の業務領域では約3~4割と少しずつデータ活用が進んでいるものの、POSやeコマース、GPS、RFIDなどのIoT領域を含めた複合的なデータ活用は1割前後と、本格的な普及はこれからだ。
コロナ禍において、日本企業もクラウドの積極的な活用やリモートワークの導入など、ビジネス活動全体のデジタル化を進めてきた。しかしここで課題となるのが、データがさまざまな部署に分散される「データのサイロ化」だ。データが各所でサイロ化されていると、各部門で行っていることが会社全体のビジネスにどの程度貢献しているのかを判別するのが難しい。
本来であれば、各部門のアクションは事業計画に基づいて決定されるべきだ。例えば、「売上を増やす」「訪問客数を増やす」「顧客満足度を高める」などの具体的な目標から落とし込んだ指標(KPI)を設定し、このKPIを達成するために全社で取り組むべきだ。しかし、会社全体の目標を達成するために必要なデータが現場に共有されていないと、各部門が自分たちにとって都合の良いKPIを設定してしまう余地が生まれる。
結果として、事業計画を達成するための現場で必要なアクションにズレが生じてしまう要因となる。この点については、次回に各部門におけるデータ活用の課題として解説する。
新しい価値を生み出す企業とは
経営者層や一部の管理職だけでなく現場を含めたすべてのビジネスユーザーが必要なデータにアクセスし、データから得られる知見を生かして迅速なアクションを起こせる環境を持たない企業は、今後デジタライゼーションのうねりに飲み込まれ、急速に競争力を失っていくだろう。
反対に、現場でリアルタイムにデータを共有できるようになり、社員が頻繁にデータを見られる環境が整えば、社員の事業全体に対する興味も高まってくる。さらに、リアルタイム性とオープン性の高いデータは部門の枠を越えたつながりを生み、社内のデータ活用がおのずと加速していくメリットがある。
だからこそ、日本企業においてデータ活用を組織に根付かせる環境を整えることが「データ活用能力」の向上につながり、ひいては、新たな価値を生み出す組織へと変わっていくことにもつながるだろう。この点については、第3回の「データ活用を組織に根付かせるための“環境”を作る」で詳しく紹介する。
私はこれまで日本のIT業界に20年以上携わり、主にデータ活用を通じて日本企業の成長を支援してきた。本連載では、今までの経験から見てきた企業におけるデータ活用のリアルな課題とともに、データ活用の活性化を通じてDXを加速させたいと考える企業にとって、そのための環境作りに必要なステップを解説していく。