前回は、KaggleグランドマスターでありDeNAで活躍する藤川和樹氏と、ダイハツのAI民主化を推進する太古無限氏のコメントを交えながら、Kaggleがどう仕事に生かせるのかを解説しました。本稿では、どうすればデータ分析人材へとステップアップできるのかを職種別に紹介します。
データ分析人材は、特定分野のエキスパートというわけではなく、さまざまな職種で必要となる人材です。データ分析人材と必要なスキルセットや活躍する場面が近いAI人材については、情報処理推進機構(IPA)が発行している『AI白書2020』の中で以下の6つの類型に分けられています。
この類型を参照しながら、今回はビジネスで活躍するデータ分析人材を、3つの類型に分けて紹介します。現在の仕事や今後就きたい仕事において、どのようなデータ分析人材が求められており、どのように目指せばよいのかを知ることで、最短ルートで成長できるはずです。
類型1:データを使いこなす人材へのステップアップ
経済産業省もオブザーバーとして参加し、2021年に設立されたデジタルリテラシー協議会では、ビジネスに関わる全ての人がデジタル技術を使うべきであるとの考えから、現代のビジネスパーソンに必要なリテラシーとして「Di-Lite(ディーライト)」を定義しています。Di-LiteはIT・ソフトウェア領域、数理・データサイエンス領域、人工知能(AI)・ディープラーニング領域の3領域で構成されています。
データを使いこなす人材になるためには、まずはDi-Liteの3領域をしっかりと押さえることが大切です。そしてTableauやPower BIなどのデータを可視化するためのBIツール、DataRobotやソニーのPrediction Oneに代表されるAutoMLツールの使い方を学び、実践に結び付けてください。データ分析の勉強を始めると、全ての作業を自身の手で行わなければならないと考える方もいますが、決してそんなことはありません。エキスパートと呼べる人たちでも、ここで挙げたようなツールを効果的に使用しています。
有効な手段はビジネスの現場で実装し、成果につなげられてこそ価値があります。ツールに頼れる部分は頼り、小さな事例を積み重ねることで経験値を蓄積していくことがデータ分析人材への近道です。
類型2:AIエンジニアへのステップアップ
AIを実際に開発する、花形ともいえる職業がAIエンジニア。データサイエンスとプログラミングのどちらの知識も求められ、データ分析人材の中でも最も難しいポジションといえます。AIの基礎や歴史を学んだ後に、プログラミング言語として、AI開発で広く使われているPythonを学んでください。ただし、Pythonはあくまで実装のための手段であるので、線形代数や確率など数学の基礎を学んでおくことも必要です。
続いて、機械学習や深層学習について学んでください。実際にビジネスの現場で活躍するためには、画像認識や自然言語処理などの得意分野を持っていると有利です。関心がある領域で学びや実践を深めてください。実務でよく使われているAWS (Amazon Web Services)/ Azure / GCP(Google Cloud Platform)などが提供しているAIサービスを活用できるスキルも高めておくとさらに市場価値が高まります。
AIエンジニアへの登竜門として、日本ディープラーニング協会(JDLA)が主催するE資格の受験が挙げられます。この試験は、ディープラーニングの実装をリードできる人材を増やすことを目的として実施されています。E資格の概要、勉強方法、資格取得後の活用について、合格者へのインタビューが公開されているので、参考にしてみてください。
類型3:AIプランナーへのステップアップ
AIプランナーとは、AIエンジニアとビジネス現場の架け橋となるポジションです。ビジネス上の課題と取得出来るデータを組み合わせ、どこにどのようなAIを導入できるのかを企画・検討します。そしてAIエンジニアが適切に開発できるよう、プロジェクトを主導していきます。
2010年代半ばころから第三次AIブームと言われ、さまざまなAIの導入が試みられました。しかし、このAIプランナーが不足していたために、期待していたAI開発ができなかったり、開発には成功したもののビジネス上の課題とマッチせず使えなかったりという失敗例も多いです。
AIプランナーを目指す方は、基礎となるデジタルリテラシーの習得後、JDLAが主催するG検定で出題されるレベルのAIの全般的な知識を学んでください。プログラミングや数学などAI開発のために必要な知識を、自分で作業できるレベルまで高める必要はありません。AIの仕組みや開発の工程を理解すれば、企画・検討に活用できます。
AIプロジェクトはITシステムプロジェクトとは異なります。プランニングやプロジェクト推進について学び、効果やコストの見積もり、AIプロジェクト推進の勘所をつかみましょう。知的財産や特許などの法務知識を身につけているとさらに良いです。
まとめ
データ分析人材やデジタル人材というと、専門家レベルの人材育成を想像してしまいがちです。しかし、デジタルリテラシー協議会が提唱しているように、今やすべてのビジネスパーソンにデジタルリテラシーが必要であり、実際にビジネス成果に結び付けていくためには、業界や職種にかかわらず、データを使いこなす技術が欠かせません。
本連載をお読みいただいた方には、現在の業務やめざしているポジションごとに、適切な知識を身に付け、実践をこなす中でスキルとして習得していってほしいと願っています。