昨年ごろから、「データサイエンティストやAIエンジニアなどエキスパートだけでなく、全てのビジネスパーソンにデータ分析のスキルが必要だ」という発言を聞くようになりました。実際、スキルアップAIのクライアント企業と話をしている場面でも、DX(デジタルトランスフォーメーション)と並んで、データ分析やデータリテラシーという言葉を聞く機会が増えてきました。

日本では高校生のころに文系・理系に分けられる場合が多く、「数学が苦手だから文系を選んだ」という人も少なからずいると思います。受験で私立大専願の場合は数学の受験勉強をする機会も無く、正直なところ高校で習った数学はあまり覚えていないという人もいるかもしれません。そのような人にとって、学生時代から遠く離れた今になって仕事でデータ分析を求められても、アレルギーのような気持ちがあるのではないでしょうか。

しかし現在の風潮は、根っからの文系だからといって見逃してくれそうにはありません。なぜ最近になって、万人に対してデータ分析のスキルが求められるようになってきているのでしょうか。本稿では、その3つの理由を技術革新や時代背景と共に説明していきます。読み終わった時には、データ分析技術の必要性が理解できるとともに、求めらていれるレベルがわかって少し肩の荷が下りているはずです。

理由1:デジタル技術の進展によりあらゆるデータが取得できるようになった

デジタル技術の進展については、みなさんも日々の生活の中で実感していることと思います。例えば、キャッシュレス決済が広がって現金を使わなくなったり、スマートフォンで道路やお店の混雑状況をリアルタイムで知ることができたりしますね。これらはいずれもデータを取得して、その取得したデータを分析する技術と関連があります。

キャッシュレス決済について考えてみましょう。現金の支払いではデータが取得できなかった購買の様子が、決済のデジタル化によってデータ化されることで商品の需要予測につながり、配送や製品開発などに活用できるようになります。道路やお店の混雑状況は、スマートフォンの位置情報データを分析し、混雑状況の予測として利用しています。

最近はIoT(Internet of Things)によって遠く離れた複数の場所のセンサーデータを取得することができるようになったり、人々の行動がデジタル化によってデータ化されたりして、全容を把握することが困難なほどのデータ、いわゆる「ビッグデータ」が価値を生む源泉と考えられるようになりました。こうした時代においては、統計やAIの知識を持ってデータを分析し、さらに活用できる人材の付加価値が高く評価されるようになります。

  • データ量の増加が著しい 資料:Intel Architecture Day 2020 Presentation

    データ量の増加が著しい 資料:Intel Architecture Day 2020 Presentation

理由2:一部のエキスパートだけではデータの活用が進まないことに企業が気付き始めた

このように、データを扱う技術が高く評価される時代となり、多くの企業がデータサイエンティストやAIエンジニアなどのエキスパートの獲得に乗り出しました。これは日本だけでなく世界的な潮流となっており、優秀な人材の獲得は国際的な競争となっています。

優秀な人材を多数抱えてデータの活用に成功している事例もありますが、反対に、あまり期待した効果が出せなかったという事例もあります。せっかく優秀な人材を抱えているのに、データの活用がうまく進まないのはなぜでしょうか。それにはいくつかの理由が考えられますが、主にはインプットとアウトプットの問題があると思います。

インプットの問題とは、つまりデータの取得方法や管理に関する問題です。データを取得するのはデータサイエンティストではなく現場で働いている社員です。しかし、データ分析がどのように行われるのかに関する想像力が働かなければ、どういったデータをどのように取得し、どのように管理してデータサイエンティストに引き継げば良いのか分かりません。適切なデータのインプットが無ければ、適切なアウトプットにもつながりません。

一方、アウトプットの問題とはビジネスの実践に関する問題です。会社のビジネスやクライアントの状況について最も知っているのは現場の社員です。データサイエンティストは現場の社員とのディスカッションや依頼に基づいてデータ分析を行います。

また、データサイエンティストの分析結果や示唆を現場で実践したり、クライアントにデリバリーしたりするのも現場社員の役目です。現場で実践する社員にデータを扱う基礎的な知識が無ければ、この場合も適切なアウトプットにつながりません。つまり、全社員がデータを利活用するために必要な基礎的な知識や運用能力が無ければ、企業のビジネスとしてデータの利活用が思うように進まないのです。

現在は多くの企業がこのことに気付き、国内の名だたる企業が社員に対してDXを見据えてデータ分析やAI技術の研修に乗り出しています。三井住友海上火災保険では、データドリブンな組織へと変革するために社内でデータ分析人財(人材)の認定制度を運営しているそうです。組織としてデータドリブンな意思決定をしていくためには、部署やポジションに関係なくデータへの向き合い方やデータを取り扱う知識を身に付ける必要があるとして、エントリークラスの認定向け研修にも注力しています。

他にもソフトバンク、富士通、三菱商事といった多くの企業が社員に対してDXを見据えたデータやAIの研修に乗り出しています。

理由3:データ分析 / AIツールなどの台頭により専門的知識が無い人でもデータ分析をすることが容易になった

データ分析は、Excelやスプレッドシートを使っても十分に可能です。デジタル化やデータ分析の第一歩としては、手書きの書類をデジタル化して、取得したデータをExcelなどで分析するだけでも十分に良い示唆を得られるでしょう。

しかしこれまで、膨大なデータを扱ったり複雑な処理を行ったりする場合には統計やAIの深い知見が必要となり、高い専門性を持った人材に頼らざるを得ませんでした。また、膨大なデータを処理するためには、それに見合ったストレージや高性能なマシンが必要でした。しかし、現在ではデータに応じて適切な処理を実行してくれるクラウドサービスやツールなども多く登場し、このハードルが下がりつつあります。

例えば、AWS(Amazon Web Services)、Microsoft Azure、GCP(Google Cloud Platform)といったクラウドサービスは、いずれもデータ分析やAIに関するサービスを備えています。その他にもDataRobotのようなAIに特化したサービスや、Tableau / Power BIなどデータの分析・可視化を強みとするサービスもあります。その他にも業界別や場面別に多くのサービスが登場しています。

これらのサービスは、親切なGUI(Graphical User Interface)の設計と自動化により、データに関する一定の知識があれば誰でも使いこなせるようになっています。データに関する一定の知識とは、データの見方や扱い方、統計やAIの基礎知識などであり、必ずしも高度な数学やプログラミングの知識は必要ではありません。

これからは、全社的な取り組みや専門性の高いプロジェクトはデータサイエンティストまたはAIエンジニアと共に行い、身の回りのデータ分析は自らがツールなどを活用しながら実施するように、役割に応じたすみ分けが進んでいくと想定されます。

まとめ

デジタル技術の進展による取得データの増大に加えて、一部のデータ人材だけではデータ利活用が進まない状況や、データ分析とAI開発のためのツール・サービスが台頭したことにより、データサイエンティストやAIエンジニアのようなエキスパートではない人にとっても、データ分析の技術が求められるようになってきました。

しかし、必ずしも全員に高度な技術が求められているわけではなく、データを適切に運用する基礎力さえ持っていれば、変わりゆくビジネスの現場においても活躍することができるでしょう。