久しぶりのインタビュー記事です。今回は、コンピュータビジョン分野のエンジニアではなく、フリーのプロカメラマンとしてご活躍されている井出友樹さんに撮影に関してお話を伺いました。

井出友樹氏プロフィール

フォトグラファー
井出友樹(イデ ユウキ)
1978年 長野県生まれ
1998年 デザイン専門学校卒業
1998年 イタリアへ渡る
2005年 新田健二写真事務所勤務。新田健二氏に師事
2007年 フリーランスとして独立
現在 雑誌・広告等で活動

どんな被写体を撮影することが多いですか?

雑誌、広告媒体などで人物写真をメインにした撮影が多いです、ミュージシャンや俳優、料理人などさまざまな職業の方々の撮影をさせて頂いています。依頼によっては商品や風景なども撮ります。

人物撮影で素人でも真似できるコツのようなものはありますか?

ポートレートの場合、陽の出ている日中では逆光か日陰で撮る事がおすすめです、人物に当たる光が弱い場合はレフ板を使うと柔らかく自然な雰囲気で撮影できます。

リフレクター(レフ板)を使うと図1のように、ストロボだけのときと比べ、逆サイドから反射光が当たるため影を柔らかくできます。これを「影を起こす」といいます。

図1 リフレクター

プロッぽい写真を撮るにはどうしたら良いですか?

写真の露出は、露光時間(シャッタースピード)、レンズのF値、ISO感度です。これらを調整してどういう写真を撮るかを決めます。例えば、単焦点レンズを使ってF値を開放気味に使いボケ味を生かした写真や、F値を絞り込んですべてにピントを合わせる写真など意図した撮影をすると写真が良い表現になると思います。

画像処理も重要で写真をどう加工するかで見せ方も大きく変わってきます。例えば、コントラストの強弱や色味の転ばせ方、ノイズを加えてフィルムの粒子感を出したりする事も良い仕上がりに繋がると思います。

自動露光制御モードだけでなく、マニュアルモードでいろいろと組み合わせを試して見てください。

カメラ機材の進化について教えてください。

私がカメラマンアシスタントをしていた頃の12年ほど前は、印刷会社や出版業界が完全にデジタル化していなかったのでポジフィルムが主流でした。ポジフィルムはフィルムによりますが色温度5600のデイライトを基準にして作られていますので、ゼラチンフィルターを使用して色温度を変えたり、色味を変えていました。これはデジタルカメラで言うホワイトバランスの調整になります。

現行のカメラのホワイトバランスの性能は肉眼で見えている色を忠実に再現できています。暗い場所でも僅かな光で撮影でき感度の性能もとても進化しました。

当時のデジタルカメラは、ハイスペックなもので600万画素程度、フォトショップの加工もとても時間のかかる作業で簡易的な加工だけで写真を仕上げていました。その後急速にデジタル化が進み、デジタル入稿が主流に切り替わっていきます。コスト面もデジタルの方が有利になりました。このころからフォトショップなどの写真を加工するソフトウェアとRAWデータを現像するソフトが写真を仕上げる上で必須になってきました。

現在ではさまざまなフィルムが製造終了になり、今使えるフィルムは極僅かなものです。

ハード/ソフトの進化でインパクトが大きかったものは何ですか

照明機材ではストロボの進化です。スウェーデンのProfoto製のD2シリーズでは、最高1/63000秒という閃光時間を実現しています。光量も一定で、最高シャッタースピード1/8000秒のハイスピードシンクロ(HSS)に対応しています。

図2のように、短い閃光時間で光を照射し、光を照射したタイミングに同期して高速なシャッタースピードで撮影することができれば、水しぶきが跳ね上がった瞬間の時間が止まったような写真を撮ることができます。

また、このストロボは明るい日中にも真価を発揮します。この製品が登場する以前は、すごく天気の良い日に外で撮影する際ストロボの閃光時間が長かった事もありそれに合わせてシャッタースピードを1/125秒に固定して、光量とレンズF値、ISO感度で露出を調整していました。その違いはF値を絞った日中シンクロした写真と、F値を開放気味で日中シンクロできる写真の違いです。HSS機能のある閃光時間の短いストロボを使うと、1/125秒より早いシャッタースピードで撮影できます。その分、レンズを明るくすることができるので、背景のボケた日中の写真を撮れるようになりました。これは今まで表現しづらかった写真が機材の性能のおかげで簡単に表現できるようになりました。

図2 閃光速度とシャッタースピードの関係

また、ソフトウェアも高機能・高性能に進化しており、より高い次元で各々自分好みの写真の表現を日々模索しなければならないのが現状かと思います。

欲しい技術・機材があれば教えてください

最近はカメラや照明機材、ソフトウェアもとても性能が良いし、さまざまな機能が搭載されているので新たなこれといったものが思い当たらないです…

センサの高性能化や、撮影後にピント位置を変えられるカメラ技術などには驚いてしまいます。

今欲しいカメラで言うとミラーレスカメラにとても魅力を感じています。各メーカーで写りや機能に個性があって撮るだけで綺麗なので写真をよりシンプルに楽しめそうです。

今回は、コンピュータビジョンではなく、「芸術的な写真を撮る」ための基礎知識をプロカメラマンの井出さんにお伺いしました。新しいカメラ周辺機器の開発、プロっぽい写真を簡単に撮影できるスマホアプリの開発などのヒントになるかもしれませんので、興味のある方は写真の撮影方法について詳しく調べて見てください!

著者プロフィール

樋口未来(ひぐち・みらい)
日立製作所 日立研究所に入社後、自動車向けステレオカメラ、監視カメラの研究開発に従事。2011年から1年間、米国カーネギーメロン大学にて客員研究員としてカメラキャリブレーション技術の研究に携わる。

日立製作所を退職後、2016年6月にグローバルウォーカーズ株式会社を設立し、CTOとして画像/映像コンテンツ×テクノロジーをテーマにコンピュータビジョン、機械学習の研究開発に従事している。また、東京大学大学院博士課程に在学し、一人称視点映像(First-person vision, Egocentric vision)の解析に関する研究を行っている。具体的には、頭部に装着したカメラで撮影した一人称視点映像を用いて、人と人のインタラクション時の非言語コミュニケーション(うなずき等)を観測し、機械学習の枠組みでカメラ装着者がどのような人物かを推定する技術の研究に取り組んでいる。

専門:コンピュータビジョン、機械学習