視線推定手法は、近赤外の点光源(LED)を用いた手法と、カメラのみを用いて通常の画像から視線を推定する手法の2つに大別できます。今回は、前者の近赤外を用いた手法について紹介したいと思います。
視線計測の基本原理
視線計測ではまず、目の動かない部分(基準点)と、動く部分(動点)を検出します。そして、基準点に対する動点の位置に基づいて、視線を求めます。たとえば、基準点よりも動点が上側に移動すれば上を見た、下側に移動すれば下を見たと推定できます。この位置関係を定式化することで、5度上を見たということも求められるわけです。
近赤外の点光源を用いた手法
近赤外の点光源を用いた手法では、近赤外の点光源により目を照明し、角膜で反射された光(プルキニエ像)と瞳孔の位置から視線方向を求めます(図2)。この手法では、プルキニエ像が基準点に、瞳孔が動点になります。たとえば、左目の画像を例に説明すると、角膜反射(プルキニエ像)よりも瞳孔が外側(目じり側)であれば、左側を見ていると推定できます。また、プルキニエ像よりも瞳孔が内側(目頭側)にあれば、右側を見ていることになります。この手法では、誤差1度程度で視線を計測することができると言われています。
近赤外の点光源を用いた手法のメリット・デメリット
メリットは、精度が良いことです。プルキニエ像を画像処理で安定、かつ高精度に検出できるためです。
デメリットとしては、赤外光源によって目領域を照明する必要があるため、視線の検出可能範囲が光の届く距離に限られます。また、赤外照明が必要なため、装置が複雑になり、値段が高くなってしまいます。
この近赤外の点光源を用いた手法は、前回紹介したTobii社の製品にも採用されています。興味のある方は、詳しく調べてみてください。
著者プロフィール
樋口未来(ひぐち・みらい)
日立製作所 日立研究所に入社後、自動車向けステレオカメラ、監視カメラの研究開発に従事。2011年から1年間、米国カーネギーメロン大学にて客員研究員としてカメラキャリブレーション技術の研究に携わる。
現在は、日立製作所を退職し、東京大学大学院博士課程に在学中。一人称視点映像(First-person vision, Egocentric vision)の解析に関する研究を行っている。具体的には、頭部に装着したカメラで撮影した一人称視点映像を用いて、人と人のインタラクション時の非言語コミュニケーション(うなずき等)を観測し、機械学習の枠組みでカメラ装着者がどのような人物かを推定する技術の研究に取り組んでいる。また、大学院での研究の傍ら、フリーランスとしてコンピュータビジョン技術の研究開発に従事している。
専門:コンピュータビジョン、機械学習