Googleや自動車メーカー、自動車部品メーカーが自動運転の研究開発を進めています。なぜ自動運転の研究開発を行っているのでしょうか? それは、自動車の市場が大きく、かつ交通事故で亡くなられている方が非常に多いからです。

自動車販売台数と保有台数

2015年の自動車の販売台数は、日本国内で約500万台、世界では約9000万台です。自動車の保有台数は、日本で約7660万台(トラック、バス含む)、世界では約11億5330万台(トラック、バス含む)にもなります。自動車の保有台数が多いということは、それだけ交通事故も多発してしまいます。

世界でどのくらいの人が交通事故で亡くなっているの?

2007年のWHOが公表したデータによると年間約120万人が交通事故で亡くなっており、2000万人から5000万人もの人が交通事故で怪我をしているそうです。そして、死因の11番目が交通事故だそうです。割合で言うと、全死者数の2.1%が交通事故によるものなのです。

11番目、2.1%が少ないと思う方もおられるかもしれませんが、怪我による死者に限定すると、交通事故が1番目となります(図1)。自殺(Suicide)や、火事(Fires)よりも高い数値です。2002年のデータではありますが、戦争で亡くなった方の6倍以上の人が交通事故で亡くなっています。

図1 怪我による死者の要因(出典: WHO Global Burden of Disease project, 2002, Version 1)

また、図2を見ると国によってばらつきはありますが、歩行者と四輪車乗車中の死亡事故が多いことがわかります。

図2 各国の交通事故による死者数の内訳(出典: Various WHO collaborators in countries)

日本国内は?

国内では、交通事故から24時間以内に亡くなった方は、2015年は4117人にもなります。2014年の4113人から僅かではありますが、15年ぶりに増加しました。図3は、国内の交通事故発生件数、死亡者数、および負傷者数です。2004年頃をピークに、交通事故発生件数、死亡者数、負傷者数のすべてが減少に転じています。

図2をみると、国内では4輪車、歩行者、二輪車、自転車の順で死亡事故が多いという結果になっています。

図3 道路交通事故の発生件数、死者数および負傷者数(出典: 内閣府交通安全白書)

このような背景があり、現在、自動運転の開発が急ピッチに進められています。交通事故の多くは、人間の不注意によるものです。コンピュータビジョンやレーダー等のセンサを用いた自動ブレーキが普及すれば、交通事故による死者数を大幅に減らすことができるでしょう。そして、自動運転が普及すれば、現在よりもはるかに交通事故が少ない世の中になるはずです。

著者プロフィール

樋口未来(ひぐち・みらい)
日立製作所 日立研究所に入社後、自動車向けステレオカメラ、監視カメラの研究開発に従事。2011年から1年間、米国カーネギーメロン大学にて客員研究員としてカメラキャリブレーション技術の研究に携わる。

現在は、日立製作所を退職し、東京大学大学院博士課程に在学中。一人称視点映像(First-person vision, Egocentric vision)の解析に関する研究を行っている。具体的には、頭部に装着したカメラで撮影した一人称視点映像を用いて、人と人のインタラクション時の非言語コミュニケーション(うなずき等)を観測し、機械学習の枠組みでカメラ装着者がどのような人物かを推定する技術の研究に取り組んでいる。また、大学院での研究の傍ら、フリーランスとしてコンピュータビジョン技術の研究開発に従事している。

専門:コンピュータビジョン、機械学習