COOL Chips XIXにおいてソニーのデバイス&マテリアル研究開発本部長の平山照峰氏がイメージングデバイスの現状と将来の開発方向について基調講演を行った。

イメージングデバイスについての基調講演を行うソニーの平山執行役員

現在はイメージングデバイスというとスマートフォン(スマホ)のカメラやデジタルカメラ(デジカメ)に使われるものが多いが、車も運転補助システムの高度化、自動運転の対応などのために搭載されるイメージングデバイスの数は増えており、イメージングデバイスは高い成長性を持ち開発競争が激化している。

イメージセンサはフォトダイオードあるいはCCDのアレイであるということは良く理解されているが、どのような技術が使われ、どのようなトレードオフがあるのかなどは、あまり知られていないと思われる。平山氏の基調講演は、このあたりを分かりやすく解説している。

イメージセンサの現状

まず、イメージセンサには、色々なサイズのものがある。一番小さいものは1/3.2インチというスマホなどのカメラに用いられるもので、面積は14.5mm2である。標準品で最も大きなものは、フルサイズと呼ばれる864mm2のものである。最大と最小では、実に60倍の面積の違いがある。

イメージセンサは14.5mm2から864mm2まで、色々な大きさのものがある。小さいものはスマホなど、大きいものは一眼レフなどに使われる (この記事の図は、すべてCOOL Chips XIXにおける平山氏の発表資料をコピーしたものである)

なぜ、これほどサイズに違いがあるのであろうか? それを理解するためには、画像の評価にはいろいろの尺度があり、イメージセンサの造りがどのように性能に影響するのかを理解する必要がある。

イメージセンサには色々な評価尺度がある

画像の特性の第一は解像度である。解像度が高ければ細かいものでも識別できるし、拡大しても綺麗な画像が得られる。このため、解像度はデジカメの最初にあげられる項目となっている。

しかし、解像度以外にも画像品質に影響するいくつもの特性がある。SN比は画像の情報とノイズの比で、SN比が高い方がノイズの少ないクリアな画像が得られる。フレームレート(Frame Rate)は毎秒何枚の画像を取得できるかで、これが高ければ連写ができるし、ビデオの撮影ができる。

直射日光の下で撮ると、明るいところは白く飛んでしまい、暗いところは潰れて真っ黒というようなことが起こる。これは明暗の差が大きく、イメージングデバイスのダイナミックレンジではカバーしきれず飽和してしまうからである。

イメージングデバイスは多数のピクセルを持ち、それらのピクセルを順次読み出している。このようにすると、厳密には、それぞれのピクセルが撮影したタイミングは少しずつ異なっており、高速で動く物体は歪んでしまう。また、RGBのカラーフィルタを使っているが、隣のセルに光が漏れると色の純度が低下してしまうということが起こる。

現実の製品では、すべての特性を最高レベルにすることは難しく、顧客のニーズに合わせてイメージングデバイスを作る必要があるという。

イメージセンサの主要な特性として、解像度、SN比、フレームレート、ダイナミックレンジ、シャッター方式、カラーリアリティがある

解像度を高める

CMOSイメージセンサでは、受けた光をフォトダイオオード(PD)で電荷に変換し、それをアンプで増幅して縦方向の線を通して読み出す。この回路は次の図のようになっており、基本的には1ピクセルに4個のトランジスタを必要とする。

1ピクセルのチップ上の配置図とピクセルの回路図

このトランジスタ数を減らすため、複数のピクセルでアンプを共有する構成が考えられ、8ピクセルでアンプを共有する場合は、1ピクセルあたりのトランジスタ数は1.375まで減少し、ピクセル数を増やして解像度を高めることができる。しかし、ピクセルの面積の大部分はPDで、トランジスタの面積は小さいので、トランジスタ数の減少の効果は限定的である。

左端は、基本の4個のトランジスタのセル。右隣は2個のPDでアンプを共用する構成。その右は4PD、右端は8PDでアンプを共用する構成で、右になるほどピクセルあたりのトランジスタ数を減らしてピクセルサイズを小さくできる

このような回路的な工夫に加えて半導体加工技術の進歩があり、結果として、歴史的なピクセルピッチの推移は次の図のようになっている。ピクセルピッチは、2006年には2.5μmであったものが2014年には1.1μm程度に微細化されている。

ピクセルピッチの推移。2006年には2.5μmであったが、2014年には1.1μm程度に縮小されている

感度を高める

当初のイメージセンサは通常の半導体と同様にPDやアンプを、シリコンウェハの表面に作り、表面から光を当てるというものであったが、回路を形成するための配線がPDへの光を遮ってしまうと言う問題がある。また、PDが奥の方にあるので、斜め方向からの入射光がPDに届かないという問題もある。

これに対して、チップ表面に設けたレンズで、配線に遮られない部分に光を集めて透過効率を高めるという技術も開発されたが、現在ではチップの表面にアンプなどを作り、反対側の裏面にPDを作って、裏面から光を当てる方式が主流となっている。この裏面照射方式では、最初の方式に比べて感度が2倍になるとのことである。

左端の表面照射方式では、配線などに光が遮られる。中央のライドガイド方式は遮られない場所に光を集めることで感度を改善した。右端の裏面照射方式は、回路を表面、PDを裏面に作るので、光が遮られることなくPDに届くので、表面照射方式と比べると感度が2倍になった