2014年、多くの注目を集めた「コンテンツマーケティング」を紐解く本連載。前回は、その概論と歴史、実施する際の5つのステップを紹介しました。今回は、コンテンツマーケティングが多くの注目を集めた背景を解説します。

消費者のメディア接触が変容 - 広告をスキップする消費者

さて、皆さんは日々、どのようなメディアに、どのくらいの時間接触しているでしょうか。

総務省は、10~60代を対象に、テレビ・ネット・新聞・ラジオの4メディアにおける平均利用時間と利用者の割合を調査し、「情報通信白書」として発表しています。同白書の最新版となる平成25年版によると、全世代において、最も接触時間が長いメディアはテレビ(184.7分)で、それはネット(71.6分)の約2.6倍となります。

「主なメディアの平均利用時間(左)とその行為者率(右)」図版提供 : 宗像淳氏著「商品を売るな」 データ出典 : 平成25年版 情報通信白書 (総務省)

一見、圧倒的にテレビの利用率が高いように見受けられます。しかし、同結果に大きく寄与する年代は、50代や60代の高年齢層。10代では、ネット利用時間の方が長いほか、20代においてもネットがテレビに肉薄する勢いです。

同調査は平成25年のものですが、この2年間において、幅広い世代でスマートフォン(スマホ)が普及しましたし、各年代のネット利用時間はさらに伸びているであろうことは想像に難しくありません。特に若い世代にとっては、もはやテレビよりもネットのほうが身近なメディアになっていることがうかがえる結果です。

また、テレビの視聴スタイルの変容も無視できません。博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所が、消費者のメディア接触や、メディアのデジタル化に伴うハードウェア・サービスの利用実態を把握することを目的に毎年実施する「メディア定点調査」の2013年度版を参考に見てみましょう。

「テレビ視聴時の態度・行動 : 東京地区」図版提供 : 宗像淳氏著「商品を売るな」 データ出典 : メディア定点調査 2013 (博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所)

同調査によれば、「携帯やスマホを操作しながらテレビを見ることがある」と回答した人は全体の48.6%で、「気になることがあるとすぐに携帯やスマホで調べることがある」との回答は42.8%でした。

このことから、テレビの情報を真剣に見るというより、生活の中の背景としてテレビをつけながら、ネットを使って調べ物や情報閲覧をしたり、テレビから得た情報を検索してさらに詳しい情報を確認していたりする人が半数近くいることが想像できます。いわゆる「ながら視聴」と呼ばれるこの行為ですが、番組と番組の間のCM中に行われることが多いのではないでしょうか。つまり、消費者はスマホによって「CMをスキップ」しているのではと考えられるわけです。

デジタルパワーを得て変わる 消費者行動

加えて同調査では、若年層の新聞離れや、ネットのニュースサイトで十分だと考えている実態が見て取れるように思います。30代以下の世代は、情報収集の手段がネットへシフトしているという傾向が非常に顕著に表れていると言えるでしょう。

では、このようにメディアへの接触態度が変容した結果、消費者行動はどのように変わったのでしょうか。

「インターネットの普及による購買プロセスの変化」図版提供 : 宗像淳氏著「商品を売るな」 データ出典 : ICTインフラの進展が国民のライフスタイルや社会環境等に及ぼした影響と相互関係に関する調査研究(総務省 平成23年3月)

この図版は、ネットが普及する以前と現在の購買プロセスの違いを示したものです。「AIDMA(アイドマ)」という消費者行動モデルをご存じの方も多いのではないでしょうか。「ネット普及以前」に一般的だったこの購買プロセスをもとに、冷蔵庫を購入する際の消費行動を考えてみましょう。

「ネット普及以前」の消費者は、まず、CMで宣伝を行うメーカーAの冷蔵庫に注意を向けます(Attention)。そして、その冷蔵庫の特徴に興味・感心を抱きます(Interest)。やがて、冷蔵庫の魅力を理解し、家にも1台置きたいと思うようになります(Desire)。その後、メーカーAのCMを何度も見ているうちに、メーカーAのブランドを記憶するようになり(Memory)、自分が「過去に買った商品と比較して」十分に魅力的であれば、店頭で購入という行動(Action)を起こします。

「ネット普及以前」には、消費者が比較できる対象として、過去の自分の経験か、せいぜい家族や友人からのクチコミ程度だったのではないでしょうか。比較対象が少ないので、広告主は、「商品の良さ」を繰り返しアピールすることで販売に結びつけることが可能だったのです。

ところが、「ネット普及以後」の消費者は、能動的に情報収集をするようになりました。特に、大きな影響を与えた存在は、Googleに代表される「検索 (Search)」とFacebookなどのソーシャルメディアによる「共有 (Share)」の2つです。

消費者は、興味をもったらまずネットで「検索」し、購入後には製品体験の感想や意見をソーシャルメディアで広く「共有」する――。ソーシャルメディア上での「共有」は、かつての「クチコミ」とはケタ違いの影響力をもち、その伝播の速さと量は劇的に増加しています。

訪問者が必要な情報。「おもてなし」としてのコンテンツ

消費者が能動的に情報収集をするようになったということは、広告主側としてもこの行動を前提としたコミュニケーションを考えなくてはなりません。消費者が折角、製品やサービスに関心を持ってくれたとしても、「検索」の段階で彼らのニーズを満たす情報を「見つけてもらえ」なかったら、購買行動には繋がらないのです。

「検索」を通じてWebサイトにやってくる消費者は、どのような情報を必要としているのか――それを考え、その情報(コンテンツ)を用意することで、訪問者を「おもてなし」する。これが、インターネット検索時代のコンテンツマーケティングの基本です。

さて、最後に。

このように、コンテンツマーケティングが注目された背景には、消費者の購買行動の変化という、極めて本質的な変化があります。これは、一時的な流行などではなく、インフラ化したインターネットによってもたらされた不可逆的な変化と言えるでしょう。一人ひとりの消費者が能動的に情報収集をし、かつ情報発信力が極大化したことにより、企業は、彼らが求める情報(コンテンツ)の提供なくして商品を売ることができなくなりつつあるのです。

これが、コンテンツマーケティングが「マーケティングのパラダイムシフト」と呼ばれる理由なのです。

執筆者紹介

イノーバ 代表取締役社長 宗像淳

福島県立 安積高等学校出身、東京大学文学部卒業。その後、富士通にて北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等を経験する。MBAを取得するため、ペンシルバニア大学ウォートン校に留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから楽天へ転職。その後、ネクスパス (現 : トーチライト)で、ソーシャルメデイアマーケティング立ち上げを担当する。
2011年6月に株式会社イノーバを設立(公式Webサイトはこちら)。著書に『商品を売るなーコンテンツマーケティングで「見つけてもらう」仕組みをつくる (日経BP)』がある。

書籍紹介

商品を売るな

著者 : 宗像淳
発行 : 日経BP 2014年12月8日

生活者の購買行動が大きく変化している。プッシュ型広告で商品を売り込んでも、顧客はそれを無視するようになっている。従来のマーケティングはもう効かないのだ。表立って宣伝せず、見込み客に見つけてもらうための古くて新しいマーケティング手法、それがコンテンツマーケティングである。

この手法は、コカ・コーラやP&Gといったマーケティング先進企業だけでなく、中小・スタートアップ企業が積極的に導入している。では、コンテンツマーケティングとはどのような取り組みかなのか? どんな効果があり、費用はいくらか? 運用のコツは? 成功するポイントは? ――本書では、国内・海外企業の事例紹介を交え、コンテンツマーケティングの全貌を分かりやすく解説する。