震災時に人をつないだのはインターネット
東日本大震災の揺れを感じた直後、まずテレビをつけて地デジをアナログに切り替えました。アナログに切り替えたのは少しでも早く情報を欲したためです。デジタル放送は圧縮されたデータを受信した後に解凍してから映しだす仕組みのため、数秒のタイムラグがありますから。
筆者が事務所を構える東京都足立区北西部の揺れは震度5強でした。揺れはともかくその長さは未体験で、焦る気持ちが僅かなタイムラグさえもどかしく感じたのです。
いったん揺れが収まり、地震速報に映し出された震源地は三陸沖。東北にあるクライアントの安否が気になります。次に都内在住の在宅スタッフの無事を確認しようと電話をかけると「発信規制」で繋がりません。通信回線各社は震災時に警察や消防用の緊急回線を確保するため、回線に制限をかけて通話しづらい状態にするのです。
4つの大陸プレートの上にある日本列島はどこにいても地震から逃れることはできません。そして、地震直後に知りたいのは家族や友人、あるいは仲間の「安否」です。小社のスタッフは20分後、東北のクライアントは50分後に「無事」とわかり、胸をなで下ろすことができたのは「インターネット」の力です。
ソーシャルメディアの勝利か?
リダイヤルを繰り返して電話は使えないとあきらめた直後、ハタと気がつき、Macに向かってアイコンをクリックします。すると、スタッフから「応答依頼」が届いています。同じく電話が通じないと知ったスタッフが、Macに標準装備されている「iChat」というビデオ通話機能からアクセスしてきていたのです。
インターネットは通信拠点が分散しており、1つの回線が遮断されてもすぐに迂回路を見つけ出して目的地に辿り着きます。南北に隣接する東京都と埼玉県をつなぐ回線が切断したとしても、東部で両都県と接する千葉県を経由してつながるというイメージです。iChatでつながることができたのも、ネット回線が生きていたからです。
ネット電話のスカイプはほとんどのOSに対応したバージョンが無償でリリースされています。スカイプはスマホにも対応しており、パケット通信が規制されても Wi-Fi(無線LAN)が利用できる環境ならそのまま通話できます。
震災ではソーシャルメディアの活躍が報じられました。Twitterで電話も交通も遮断された被災地から物資の不足が訴えられ、Facebookで家族の安否を確認したという美談がマスコミを賑わせます。有効性は否定しませんが、すべての人にこれらソーシャルメディアが役に立つかと問われれば頷くことはできません。
カリフォルニアへひとっ飛びするグーグルの威力
その理由は、ソーシャルメディアを使いこなすには高いネットリテラシーと事前準備が必要だからです。Twitterでは飛び交うデマをスルーしなければならず、そもそも自分のアカウントをフォローしている人がいなければ、発したメッセージは誰にも届きません。Facebookも同様で、Facebookを用いて迅速に安否確認するには、事前に「友達」としてのつながりを構築していなければならないのです。
都内で帰宅難民となった知人が最も重宝したのは「Gmail」だったといいます。携帯電話は通じず、携帯メールの送受信も混雑からうまく届きません。携帯メールは回線会社のメールサーバで処理しており、処理能力を超えると正常に動作しなくなります。一方、Gmailはグーグルのサーバが処理します。もちろん、こちらもアクセスが集中すればダウンしますが、主に国内を相手にしている回線会社と、世界を舞台にするグーグルでは処理能力の違いは明らかでしょう。
先ほどの東京都と埼玉県の例に置き換えるならば、大渋滞している東京・埼玉間の道路を避け、羽田空港からグーグル本社のあるカリフォルニアまでひとっ飛びして、千葉県の成田空港へとんぼ返りして埼玉県に入ります。リアルでは壮大な遠回りですが、光の速さで移動する電子の世界では地球上での距離は無視できます。
簡易グループウェアとして大活躍のBBS
震災から50分後に東北のクライアントと連絡が取れた「場所」は「BBS(ネット掲示板)」でした。筆者がオブザーバーとして参加しているクライアントの社内用BBSへ震災直後に安否の問いかけを投げかけておいたところ、東北のスタッフから無事というメールを受け取った大阪在住のスタッフが「無事」と書き込んでくれたのです。その後しばらくは、BBSが「危機管理センター」となりました。
被災者の多くは連絡を取りにくい状況に置かれており、安否を大勢に知らせるのに掲示板が役立ったのです。BBSがちょっとした「グループウェア」となったのは偶然の産物にすぎませんが、震災の際、情報発信や集約は「安全なところにいる人間にできること」と考えさせられた出来事です。
震災翌日、安否を心配して友人が電話をかけてきました。商売柄、モニターやPC本体などが倒れていないかと気にかけてくれてのことです。軟弱地盤の上に立つ安普請の我が社は、ささやかな揺れも巨大地震に感じることから、腰ぐらいまでの背の低い棚か、天地で突っ張るラックに収納しております。そのため、被害は「おちょこが1つ割れただけ」と告げると、良かったと安堵の声が漏れます。
当の本人は都心で被災し、5時間かけて埼玉県の自宅に帰宅しました。電話は通じず、携帯からメールを送っても返信はこず、不安を抱えながら靴擦れの痛みに耐えたそうです。プログラマーの彼はGmailのアカウントを持っていなかったことを悔やみます。そして、筆者は靴擦れの痛みに耐えながらも電話をかけてくれた彼の友情に感謝しつつ、物書きの責務として「非常時の連絡方法」について、いつか書かなければとの誓いが本稿となりました。
TwitterやFacebookを始めようと思っているのなら、その前にGmailのアカウントをとることをオススメします。緊急時の連絡手段としてはもちろんですが、TwitterやFacebookに登録するにもメールアドレスは必要で、各種ソーシャルメディアから届くさまざまな「案内」をGmailアドレスに集約させておいて「見ない」ことも、「平時」におけるネットリテラシーの1つです。