広告展開しやすい「マーカ有りAR」
マーカ有りARは、マーカレスARに比べて「マーカの使用が必須である」という違いがあります。ともすれば「マーカがないとARのCGが表示できないなんてそんなもの煩わしくてビジネスには使えない」と思いがちですが、実際はその逆です。実はマーカ有りARには、「マーカが良い目印になるのでAR表示されるCGをユーザーが認識しやすい」という大きなメリットがあるのです。
例えば、ある美術館でiPhoneのカメラと連動した展覧会が行われたとします。このとき、展示物にマーカが無くて、各展示物にiPhoneのカメラを向けるごとにARが「マーカレスAR」で自動的に表示されると、私たちはともすればARがいつどこで始まったかわからない可能性がでてきます。
これが逆に各展示物におなじみのARに使う白と黒のマーカが配置されているとするとどうでしょうか。マーカにiPhoneのカメラを向けることではじめてARのCGが表示されるので、「いつどこでARが始まったか」が明確にわかります。また、白黒のマーカでなくとも、たとえば作品の説明の文章や写真をマーカとして登録しておけば、それらを映したときにARが表示できるので、観覧者も直感的にどこでARが表示できるかわかりやすくなります。つまり、技術的には難しいマーカレスのARも、いつどこでARが表示されるかわからないという点では、必ずしも便利というわけではないのです。
急速な普及に貢献したAR開発ツール「ARToolkit」の登場
ARToolKitはワシントン大学HIT研究室が開発した、マーカを用いてARを作るプログラムを開発するためのツールキットです。ARToolkitは公開された当初は、一部の技術者や研究者が個人的にARToolkitを使ったプログラムを動画サイトなどにアップロードするだけの、いわゆる趣味的な技術力アピールや遊び道具でした。ARToolkitが登場した当時はARの技術自体も目新しいものであったため、動画サイトなどでの盛り上がりを通じて少しずつムーブメントとなりビジネスでも使用されるようになったわけです。
ある技術を研究者の人が新規に開発(発明)して、その技術を誰でも使える形でツールキットとして公開することで、他の技術者がその技術を用いたソフトウェアを開発していくことで一般的な技術として普及してゆくというこの一連の流れは、ARToolkitに限らずソフトウェアで実現された最先端技術が広まっていく際の典型的な流れです。これらのツールボックスはARの仕組みを知らなくても誰でも簡単にその技術を使ったソフトウェアを作れる設計になっており、プログラミングができる人であれば、中の仕組みを知らなくてもARを用いたソフトウェアを開発できるわけです。
ARは視覚的なインパクトが非常に大きいので、近年の動画サイトなどでの個人エンジニアによる技術力をアピールする動画の道具としてはうってつけです。よってARToolkitを使ったそうした動画がニコニコ動画などの動画サイトに継続的にアップロードされたことで、短い期間でARの認知度が広がり、研究段階の技術からビジネスでも一般的に使用される段階にまで到達するのが短かったのだと思われます。ちなみに、この傾向はコンピュータビジョンの技術全般に言える流れです。今後この連載で紹介していく各技術は、研究段階から実際にビジネスの場所で一般的に使われるようになるまでの間隔が非常に短いのが特徴です。
「まとめ」とこれからのAR
今回は「ビジョンベースドAR」には、マーカを用いるかどうかで「マーカ有り」と「マーカレス」の2種類があり、それぞれの原理と使いどころをご紹介しました。
また、マーカの2次元平面、もしくはマーカレスでも主に2次元平面を検出して、その2次元平面の上にARのCGを表示させるのが主流であることがわかっていただけたかと思います。
ARはその目新しさやインパクトの強さから、様々な目的で使われるようになってきており、特にスマートフォンの時代になってきた今、ARアプリケーションは身近になってきており、各社がしのぎを削ってARを用いた製品をリリースしています。例えば、マイコミジャーナルの記事でも「SMC、PS3の処理能力を生かしたAR活用デジタルサイネージをライトオンに導入」や、「手軽に拡張現実ARを利用できる月額課金型サービス「Biz-AR」」といった、相次ぐARを用いたシステムのリリース記事も掲載されています。
また、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)など、人間の目から外界を直接見る時に映像を重ね合わせることができるデバイスが普及すれば、ARの出番は更に増えます。例えば昨年のCEATEC 2010では、NTT docomoがAR表示用のサブディスプレイをHMDに装着した形で提供する「AR Walker」を参考展示しています。ドラゴンボールのスカウターのような外観を持ったHMD機器がそろそろ市場に出てくるかもしれませんね。
幅広く製品が市場に出回りはじめるくらいの分岐点にあるのがARの現状といったところでしょうか。今後の動向に注目しましょう。