今話題のファンコミュニティ(Community)とは?
前回の記事では、事業成長のエンジンとして、自社のサービスを愛してくれる顧客を起点とした思想が大事であるとお伝えしました。
今回は、その大切なお客さまと密につながり続ける手段として、最近注目を集めている「ファンコミュニティ」についてご紹介していきます。
はじめに「コミュニティ」と聞いて、イメージが沸くでしょうか。地元のローカルコミュニティ、アイドルグループの推し活、ビールやお菓子などのファンコミュニティ、趣味のサークルなどを想像されるかもしれません。
そこで言葉の定義を揃えたいと思い、参考までにいま話題になっているChatGPTを活用してみることにしました。今回は、事業推進を目的とすることを前提に、顧客向けのコミュニティについて質問してみました。
「顧客向けのコミュニティを200文字で説明してみて!」
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顧客向けのコミュニティは、企業と顧客との結びつきを強化する場です。顧客同士が情報や経験を共有し、企業からのサポートを受けながら、製品やサービスに関する意見やフィードバックを交換します。コミュニティメンバーは相互の関係を築き、ブランドに忠誠心を抱きます。企業は顧客のニーズを理解し、パーソナライズされた体験や特典を提供することで、顧客ロイヤルティを向上させます。顧客向けコミュニティは、顧客参加型のイノベーションや商品開発の場としても活用され、顧客との共創を促進します。
いかがでしょうか。まさに模範回答という答えで、わたしも少々驚きました。上記の概念は、あらゆるサービスにおいて当てはまる内容ではないでしょうか。昨今、嗜好品を扱うメーカーや全国に店舗を有する飲食店、サブスクリプションでサービスを提供するBtoB企業など、コミュニティを顧客接点の中心に据える企業がすごい勢いで増えているのです。
前回の記事で触れたとおり、ひと昔まえの企業と顧客との関係は、メディア側からの一方向の発信で完結していました。他方、コミュニティの考えでは、企業と顧客が双方向に混ざり合い、いかにして顧客に喜んでもらうかを顧客と一緒に共創していくことが重要なのです。
コミュニティ(Community)の語源は、ラテン語の「Communitas」で「共同の貢献」という意味です。 つまりコミュニティは単体ではなく、複数の人が共通の目的で集うということです。筆者は、最低でも3人が共通の目的のもとに集った際に、コミュニティが始まっていると考えるようにしています。そして「顧客向けコミュニティ」とは、企業がファンに提供する「信頼の場」であると定義しています。
企業にとって顧客と向き合うということは、短期的なものではなく、時間をかけて中長期で育んでいくものです。双方の「信頼」を構築し、顧客に安心と安全を感じてもらう場が必要なのです。前回の記事で述べた、「顧客不在の会議をやめよう」ということの解決策として、コミュニティが有効な施策になるのです。
わたしがCCOを務める株式会社Asobicaがオンラインコミュニティツールをローンチした2019年の当時は、自社でコミュニティを運営している企業は数えるほどしかありませんでした。そもそも「コミュニティ」がなにかを説明できる人はほとんどいませんでした。その当時から先進的にファンとともに事業成長を遂げてきた企業もありました。トマトケチャップで有名な「カゴメ」や熱狂的なファンがいることで知られる「コメダ珈琲店」などが有名です。
参考まで、活発なオンラインコミュニティを以下にあげてみました。読者のなかには、すでにコミュニティの一員になっているというかたもいるかもしれません。どれも各社の個性が表われていて、どこか温かい雰囲気のするサイトになっています。いずれも気軽に参加できるものなので、ぜひ気になるコミュニティに積極的に加わってみてはどうでしょう。このようにコミュニティは、わたしたちの日常に溶け込んでいるのです。
カゴメ「&KAGOME」
https://and.kagome.co.jp/
コメダ珈琲店「さんかく屋根の下」
https://komeda-sankaku.com/
カインズ「Cainz DIY Square」
https://diy-square.cainz.com/
グリコ「ポキトモ」
https://pocky-fan.glico.com/
エビスビール「エビスビアタウン」
https://ybt2.sapporobeer.jp/
ファンコミュニティのはじめかた
では、活発なコミュニティはどのようにはじめていけばよいのか。筆者が立ち上げ支援としてコンサルティングする際の手順にそって解説していきます。
まずファンコミュニティはプロジェクトと一緒で「目的」がなによりも重要です。コミュニティは事業活動の中心となるため、ステークホルダーも多くなるケースがほとんどです。想定していないことが発生することも少なくなく、難しい判断に迫られるケースもあります。そのため、その都度立ちかえる「目的」が本当に重要なのです。
そしてコミュニティの立ち上げで失敗しやすいケースとして、短期間に成果を求めてしまうことです。ファンとの中長期的な関わりである以上、その構築も着実に地盤を固めながら、徐々に拡大していくようにデザインする必要があります。おおよその目安は、半年から1年間をかけて育てていきます。まずは種を撒いて、丁寧にお水をあげて、たくさんの日光を浴びて、徐々に成長していくイメージです。
特に初期の1〜3ヶ月はコミュニティにとって大事な期間です。一気に拡大したい欲求に駆られますが、ここはグッと我慢して、選別したコアメンバーとともに、コミュニティをゆっくりと育てていきましょう。
以下にコミュニティ構築時に決める事項をあげてみました。
• 目的
• ゴール(短期/長期)
• 役割(位置付け)
• ターゲット選定
• ペルソナ設計
• コミュニティマネージャーの選定
• コミュニティリーダーの定義、選定
• タイムラインの算定
• コミュニティ規模の計画
• 予算の確保
• 体制の整備
• ルール作り
• オフラインイベントセミナー
• カスタマージャーニー
• タッチポイントの整理
• コミュニケーションチャネルの施工
• コンテンツの作成
ここでお伝えしたいことは、ファンコミュニティは、明確な戦略のもと、ファンに心地よさを感じてもらえるように、緻密にデザインされた信頼の場という考えです。焦らず、真摯にファンと向き合っていくことが大切なのです。
ファンと向き合うコミュニティのメリットとは?
最後にコミュニティは、企業と顧客にとってどんなメリットがあるのかを紹介していきます。 これは筆者がコミュニティコンサルティングをする際にいつも伝えていることですが、コミュニティが活性化した先には、企業がやりたいことはほぼ全てできると言っても過言ではありません。
・主な効果
* LTVの最大化
* 解約率の低下
* オンボーディングの代替手段(テックタッチの促進)
* 顧客同士のQA対応(サポート工数の削減)
* プロダクトフィードバック(機能開発)
* コミュニケーションチャネル
* リファラル(口コミ)
* 守ってくれるサポーター(炎上の対策)
* 事例収集やスターの育成/発見(事例創出)
* マーケティング戦略のヒント
* インナーブランディング(社内コミットメントの醸成)
このように成功したコミュニティでは、事業そのものが大きく前に進むことができるようになるのです。 例えば、「口コミ」と呼ばれるリファラルもその1つです。
口コミと聞くと飲食店のレビューがわかりやすいかもしれません。それだけでなく、旅行先のホテルの評価、ほしい物のレビュー、ドラマや映画の感想など。わたしたちの日常のささいな判断の拠り所として、あらゆるところにユーザー評価が影響しているのです。
サービスの体験者が実際の体験や感じたコメントを他者と共有することで、購買行動や選択に影響を与える役割を果たしています。特に同僚や友人など身近な人の口コミは信頼性が高く、選択するうえで大きな影響力を発揮することは、みなさんも実感されていることと思います。
なにも知らない人が言っている情報やテレビCMなどよりも、オンラインコミュニティで信頼できるメンバーが発信している情報(レビュー)のほうが信頼のレベルが高いため、コミュニティを起点とした口コミの拡散がしばしば発生するのです。これを世間ではバズるとかバイラルすると表現されています。
また商品開発のアイデアやヒントにユーザーの声を集めるということも容易にできるのも大きなメリットと言えるでしょう。最近では「MROC(エムロック)*」というマーケティング手法として確立されてきました。
*MROC・・・MROCは、「Market Research Online Community(オンライン市場調査コミュニティ)」の略称です。MROCは、インターネット上で構築された特定のテーマや商品に関心のある参加者を対象にした市場調査手法です。 MROCでは、事前に選ばれた参加者がオンラインプラットフォーム上でディスカッションや活動に参加し、リアルタイムで意見やフィードバックを提供します。参加者は特定のトピックについて討論したり、アンケートに回答したり、製品やサービスを評価したりすることがあります。
実際にファンの声が形になった事例があるので2つご紹介したいと思います。
・ヤマダイ株式会社「すごめんち(凄麺)」(インスタントラーメン事業)
ラーメン専門店の味をカップ麺で再現し、こだわりぬいた商品を展開しているヤマダイ株式会社「凄麺」では、商品のキャッチコピーをファンに募り、そのなかから最優秀作品はポスターとしてひとつの作品にまで仕上げてしまった。商品の開発側からは出てこない、まさにユーザー目線のコピーができあがり、大いに盛り上がるコンテストとなった。受賞者もまさか自分の考えたアイデアがポスターになるとは想像もしておらず、そこまでやるかと、ますます凄麺のファンになった。このように大胆と思える企画も、ユーザーコミュニティでは、みんなが楽しめるひとつのコンテンツとして成立してしまうのです。
・株式会社ルネサンス「RENAISSANCE Colors」(フィットネス事業)
日本全国にフィットネスジムを展開する株式会社ルネサンスでは、コミュニティを活用した商品開発に挑戦した。ルネサンスは、ジムのメンバー向けに自社で開発したプロテインを販売していて、その新しいフレーバーについて、ファンに率直に意見を求めることに。そこで、ルネサンス公式コミュニティ「RENAISSANCE Colors」及びルネサンスのジム会員向けにアンケートを実施、ユーザーが求めるフレーバーを募集してみたところ、合計で500件に及ぶ回答を得ることができた。そうして集まったアイデアをもとにできた複数のフレーバーの試飲会まで開催する流れを組んだ。まさに企業とユーザーが一体となった共創のモデルケースといえる好事例です。
このように企業とファンが一体となり、まるで企業の一員のようにファンが事業推進に積極的に関わっているということが起きているのです。ファンも企業から認められたような気持ちになり、さらにロイヤリティが向上していくというプラスのスパイラルが発生しているのです。
まだまだコミュニティは民主化されている状況ではありませんが、間違いなく数年先には当たり前の施策として浸透しているものだと確信しています。
それでは次回は連載の最終回となります。近年プライバシー強化のために「Cookie規制」という取り組みが実施されています。そもそものマーケティングの仕組みに大きな影響が伴い、混乱したかたもいたのではないでしょうか。また昨今はプライバシー保護への関心やニーズが高まり、企業が独自に情報を収集する「ファーストパーティデータ」への注目も集まってきています。そこで次回は、今後の顧客データのありかた、取り組みについて取り上げていきたいと思います。