前回は質問するにあたって、オープン質問よりもクローズ質問を有効に使うことでヒアリングの効率をアップさせる効果があると説明しました。
しかし、質問を組み立てるにあたって、クローズ質問で「YesかNo」で答えられるかについて意識しすぎると、質問が唐突になったり、聞き漏らしの原因になります。
クローズ質問はむしろ、回答の範囲をコントロールすることのできる質問であると考えた方が組み立てやすくなります。選択肢を与えて答えてもらう場合や、数値データを答えてもらう場合は、厳密には「YesかNo」で答えている訳ではありませんが広い意味でのクローズ質問と言えます。
クローズ質問を、回答の範囲をコントロールする術として使う |
クローズ質問主体のヒアリングテクニック
以上の話を踏まえて、筆者は次のようなクローズ質問の組み立て方をしています。
- 何に対する質問なのかを示す
- 仮説を示して正否を尋ねる
- 仮説が外れていた場合のフォローをする
それぞれについて、前回使った次の例で具体的に説明します。
インフラ設備の可用性
24時間365日のサービス提供のためのハードウェアの障害対策として何をしているか
1. 何に対する質問なのかを示す
はじめに、リストアップした聞くべき項目の内容を示します。
この例では「24時間365日のサービス提供にあたり、ハードウェアの障害に備えるために御社で採られている対策について伺わせて下さい」となります。オープン質問とほとんど変わりませんが、質問の意図を伝えるという意味で、一旦、回答の範囲を広く示しておくことが重要になります。
2. 仮説を示し正否を尋ねる
次に、(1)の質問に対して、どのような回答が返ってくる可能性があるか仮説を立てます。その結果、Aという回答が返ってくる可能性が高いということであれば、「Aですか」という質問にします。この場合、YesかNoで答えることができます。この例では、「御社では、インフラ設備は冗長構成にされていますか?」となります。
仮説として、回答の可能性が複数あって絞りこめないような場合には(例えばAとB)、「Aですか、Bですか」という質問にします。この場合、答えは「A」または「B」となります。
どうしても、仮説を立てられない場合は、そのままオープン質問で構いません。無理やり仮説を立てても、的外れなものであれば、回答の範囲を絞ることができないため、オープン質問をしているのと変わらないからです。ただし、オープン質問をする場合は回答の仕方を例示することを考えましょう。「伺いたいのは、例えば冗長構成をとっているかといった話です」という具合になります。例示をすることによって回答の範囲を制限することができるからです。
3. 仮説が外れた場合のフォロー
最後に、仮説が外れた場合の質問を付け加えます。この例では、「他に何か対応されていることがあれば、それは何ですか?」となります。
この質問は提示した仮説以外の内容を自由に答えてもらうためオープン質問となっていますが、それでも構いません。オープン質問を避けるのは回答が発散するのを防ぐためでした。この場合は(2)のクローズ質問で、既に回答の範囲が絞られているため、発散することはありません。つまり形式的にはオープン質問ですがクローズ質問と同じ効果があるのです。
なお、(2)で立てた仮説の確信度が高ければ、最初は質問には加えず、クローズ質問に対する回答を見て後から付け加えるようにするのでも構いません。
ヒアリングの場で質問を組み立てられる力を付ける
これまで説明したことを踏まえて、質問を組み立てると次のようになります。
「24時間365日のサービス提供にあたり、ハードウェアの障害に備えるために御社で採られている対策について伺いたいのですが、インフラ設備は冗長構成にされていますか? 他に何かされていることがあれば、それについても教えて下さい。」
このように質問をすれば、主要部分がクローズ質問であるため、YesかNoと的確に答えてもらうことができます。質問の前半部分で、質問の意図を示しているので、回答者は不安感を持つことなく答えることができます。
また、クローズ質問に含まれている仮説に、回答の範囲を絞り込む効果があります。ここでは、「冗長構成」という仮説が提示されていることにより、聞きたい答えの範囲が絞り込まれているため、質問の回答がNoの場合にも聞きたい答えから的を外すことはありません。後半部分にオープン質問を続けていますが、この回答も既に聞きたい答えの例が示されているため、発散することなく回答をもらうことができるのです。
ヒアリングに必要な準備
さて、これまでクローズ質問主体の質問の組み立て方を説明してきました。最後に質問を組み立てるにあたって必要な準備について触れておきます。
ヒアリングの準備は聞くべき項目の整理と仮説のイメージを持つようにしましょう。今回の例では次のように項目を整理しておきます。
インフラ設備の可用性
24時間365日のサービス提供のためのハードウェアの障害対策として何をしているか(冗長構成はとっているか)
このような項目から上で紹介したような質問をその場で組み立てられるようにします。なぜなら、質問の一語一句まで準備をしていても、ヒアリングは想定した順序どおりに進むとは限らないからです。また会話の中で得られる情報を加味して質問をすることもあります。
したがって、ヒアリングの場で質問を組み立てられる力を付ける必要があるのです。
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今回は、ヒアリングを効率的に進めるための質問の組み立て方としてクローズ質問の考え方とそれに基づいた質問をうまく組み立てるためのコツについて紹介しました。クローズ質問を主体にするヒアリングは小さなことに思えるかも知れませんが、ヒアリングの効率と精度を高めることに非常に有効です。
また、このように仮説を立てて検証することによって効率的に作業を進める手法は、「仮説検証型」と呼ばれ、コンサルタントの基本スキルのひとつです。ヒアリングという場面での適用は、その一部に過ぎませんが仮説を立てるという考え方に慣れるための、第1ステップとなります。是非実践してみて下さい。
(イラスト ナバタメ・カズタカ)
執筆者紹介
中川暢生(NOBUO NAKAGAWA)
- ウルシステムズ コンサルティング第3事業部 シニアコンサルタント
独立系SI会社にて上流から下流までの開発、マネジメントを経験して現職へ。大規模システムのシステム企画や全体最適化などのコンサルティングに長く携わる。エンジニア時代より顧客やプロジェクトメンバーとのコミュニケーションを通して意思疎通を図ることに重きを置いたプロジェクト活動を行う。最近は、ユーザー企業の情報システム部門支援においてユーザー視点でプロジェクト内の円滑なコミュニケーションを目指して活動を行っている。