質問の仕方で担当者の力量が試される
システム開発においてITエンジニアが担う役割のひとつに顧客の要件を正しく把握し、システムに落とし込むという作業があります。その際に重要となるのが、ヒアリングです。
読者の皆さんは、ヒアリングの後に「あともう少し踏み込んで聞いておけばよかった」とか「議論が発散し、時間切れとなってしまって聞くべきことの全てを聞くことができなかった」といった経験はないでしょうか?
このようなことがあると、ヒアリングのやり直しが生じ、スケジュールの遅延に繋がるだけでなく、顧客からの信頼も失いかねません。
「アレも聞いておけばよかった」なんて経験をしたことはありませんか? |
ヒアリングでは、限られた時間内に聞くべきことを漏らさずに聞く必要があります。このためには、事前に聞くべき項目をリストアップしておくことが必須となります。しかし、たとえ聞くべき項目をリストアップしたとしても、ヒアリングの場で顧客の要件を把握するための質問ができるか否かはヒアリングを行う担当者の力量にかかっています。
今回はヒアリングを効率的に進めるための質問の組み立て方としてクローズ質問の考え方と、それに基づいた質問をうまく組み立てるためのコツを紹介します。
回答を発散させるオープン質問
コンサルタントが使う質問テクニックのひとつに、「オープン質問」を避けて、「クローズ質問」を有効に使うというものがあります。
クローズ質問とは、簡単に言ってしまえば「YesかNo」で答えることができる質問です。その反対のオープン質問とは回答者が自由に答えることのできる質問で、「WhatやWhy」などの疑問詞で始まるものになります。
オープン質問もクローズ質問も日常の会話では特にどちらが良いというものではありませんが、ヒアリングにおいて、なぜオープン質問を避けてクローズ質問の利用を推奨するのかについて最初に説明しておきます。
ここでは、インフラ設備の可用性についてのヒアリングを行うという想定で、聞くべき項目のひとつとして以下があがっているものとします。
インフラ設備の可用性
24時間365日のサービス提供のためのハードウェアの障害対策として何をしているか
これをそのまま素直に質問すると次のようになります。
「24時間365日のサービス提供にあたり、ハードウェアの障害対策としてインフラ設備についてはどのような対策を採られていますか?」
この質問が「オープン質問」の例になります。
この質問は、2つの問題を抱えています。1つ目は回答者が自由に答えることができるため、回答が長くなってしまう可能性がある点。もう1つは、聞きたい答えの範囲が絞り込まれていないため、聞きたい答えから外れた回答をもらう可能性がある点です。
この例の場合、仮にインフラ設備が冗長構成になっているかどうかを聞きたかった場合であっても、回答者には、その質問の意図が伝わらないため、データのバックアップや障害監視など、質問の意図とは異なる的外れな回答をもらい回答が発散する可能性があるのです。
このような質問を繰り返していると、本当に聞きたい答えをもらうまでに時間が掛かるため、結果として時間切れになってしまい、聞くべきことが聞けなかったということが起きてしまいます。
回答を収束させるクローズ質問
前述の例を単純に「クローズ質問」にすると、次のようになります。
「御社では、インフラ設備は冗長構成にされていますか?」
この質問であれば、YesかNoと的確に答えることができます。
オープン質問と違って、回答が長くなったり、聞きたい答えから外れた回答をもらうことはありません。したがって、クローズ質問を使うことでヒアリングの効率をアップすることができます。
それに加えて重要なことは、仮説を立ててそれが正しいかどうかを聞いているところです。この質問では「冗長構成を採っている」というのが仮説にあたります。つまり、適切な仮説を持ったクローズ質問に組み立てて、想定した回答の範囲に絞り込んで行くようにすることでヒアリングを効率良く行うことができるのです。
しかしながら、この質問の仕方には問題点もあります。この例の場合、具体的な仮説だけを示してその確認をしていますが、回答者はいきなり具体的な項目について質問をされても、質問の意図がわからないと不安感や不信感を持つことがあります。「なぜそんなことを聞くのですか?」と逆に聞き返されてしまうかもしれません。仮説が間違っていることもあり得ます。この例では、仮に「冗長構成」以外にも有効な対策をとっている可能性があってもそれについては聞くことができません。
仮説を示してそれに対して「YesかNo」で答えられるクローズ質問を意識しすぎると、本来聞くべきことを聞き漏らしてしまうことになりかねないのです。
次回は、クローズ質問がどういう意味を持つのかということを捉え直した上で、オープン質問の要素も加えた質問の組み立て方を紹介します。
(イラスト ナバタメ・カズタカ)
執筆者紹介
中川暢生(NOBUO NAKAGAWA)
- ウルシステムズ コンサルティング第3事業部 シニアコンサルタント
独立系SI会社にて上流から下流までの開発、マネジメントを経験して現職へ。大規模システムのシステム企画や全体最適化などのコンサルティングに長く携わる。エンジニア時代より顧客やプロジェクトメンバーとのコミュニケーションを通して意思疎通を図ることに重きを置いたプロジェクト活動を行う。最近は、ユーザー企業の情報システム部門支援においてユーザー視点でプロジェクト内の円滑なコミュニケーションを目指して活動を行っている。