ステークホルダー間の合意形成がプロジェクト成功の鍵
システム開発の上流工程にたずさわるコンサルタントには、要件定義以前のシステム投資の方針を決定するといった、お客様の会社にとって大きな意志決定をお手伝いする機会がしばしばあります。その際、重要な議論や意志決定の場には、スーテクホルダー(利害関係者)をできるだけ集めて合意形成を図ります。
しかし、ステークホルダーを集めたディスカッションで何度議論を交わしても、平行線をたどり、なかなか合意形成に至らないこともあります。プロジェクトを成功させる最大のポイントは、関係者全員で問題や目的を共有すること。全員が納得しなままでは、その先に進むことはできません。
このような状況を打開するうえで有効なテクニックが、今回から2回にわたり紹介する「ディシジョンツリー」です。
ディシジョンツリーはもともと、意志決定の判断材料として利用されるもの。ただし、対立する主張の論点を整理して議論のツールとしても利用することができます。さまざまな場面で有効なテクニックなので、ぜひ身に付けてください。
積極的なステークホルダーの主張が合意形成を阻害する
今回は、ディシジョンツリーの効果と内容をわかりやすく伝えるために、事例を使って解説していきましょう。
ある企業では、A事業部の業務について全面的なシステム化を検討していました。
最初に着手したのは現状分析です。この段階では、現状の業務やシステムの問題抽出、本質的な課題を特定します。ディスカッションには、経営企画室室長、A事業部部長、B事業部部長、情報システム担当と、その都度必要に応じてユーザ部門の業務担当者が参画していました。主要なステークホルダーが参加し、各々の立場から活発な意見交換が行われたことで、これまでに気づいていなかった多くの問題点や全社的な課題を共有することができました。
ところが、現状分析を終えて解決すべき課題や施策の方向性を共有した後、今後のシステム化方針について議論を開始したところで、対立が発生しはじめました。この機会に全社システムを一新する「ERP推進派」と、現行システムに部分的な改修を行う「現行システム部分改修派」に分かれてしまい、意見が対立するようになってしまったのです。
確かにERPパッケージを導入すれば、全社の業務データが一元管理でき、最新情報を部署間でリアルタイムに共有できるようになります。また、ERPパッケージの仕様に合わせて業務自体を見直すことで、全体最適の効果も得られそうです。
では、システム部分改修案はERPパッケージ導入案に劣るのでしょうか?
A事業部では、事務作業の多くが手作業で行われており、作業効率が悪いだけでなく、情報がデータ化されていないため、データを使った客観的な判断ができないことが、現状分析で判明していました。そのため、A事業部部長は、いち早くシステム化を行うことを望んでいます。
また、B事業部では、業務内容に合わせて構築したシステムを長年運用しており、非常に効率の良い業務とシステムの運用を行っています。しかし、導入候補のERPでは、長年蓄積してきた運用ノウハウが流用できそうにありません。
平行線をたどる議論をまとめるには
この事例の場合、いずれの主張が優れていると一概に言い切ることはできません。ステークホルダーが各々の立場から「所属部署ひいては会社にとって最も良い」と考えていることを真剣に主張しているわけですから、ステークホルダーの方々が積極的に議論に参画するほど、返ってこのような意見の対立が起こりえます。
同じ会社内のステークホルダーと言っても、立場(役割)や価値基準も違えば、同じことを聞いても着眼点や想像することがまったく違う人たちが集まっているのです。ステークホルダーが各々の立場で主張を繰り返せば合意形成が進まないのは必然と言えるでしょう。
では、このような膠着状態を脱して、プロジェクトを良い方向に持っていくにはどうすればよいのでしょうか。ここで、ディシジョンツリーの出番になるわけですが、誌幅の都合で今回はここまで。皆さんならどうするか、1週間考えてみてください。
執筆者紹介
植田淳(JUN UEDA) - ウルシステムズ シニアコンサルタント
独立系SI会社にてプログラマからプロジェクトマネージャまでを経験した後、インターネット系ソリューションベンダに転職し、ECサイト構築プロジェクト数案件にアーキテクトや開発メンバーとして参画した後、自社パッケージ開発チームにてプロダクトマネージャとして、マーケティングプランの立案からデリバリまでの全体のマネジメントを行うほか、パートナー企業との新規ビジネスの企画・展開を担当。
ウルシステムズ入社後は、ユーザ企業の情報システム部門支援を中心に、RFP作成支援や要件定義、問題分析等の上流工程のコンサルティングを行うかたわら、新規事業の企画立案および事業立ち上げに従事するほか、プロジェクトマネジメント推進室のメンバーとして、プロジェクトのリスク監査や実行時支援に従事している。