前回は、会議のファシリテーションを行うスキル向上に役立つ「見せる議事録」のテクニックについて概要を説明しました。今回は、見せる議事録テクニックを使用した会議をどのように行うかを具体的に説明します。

「見せる議事録」を使った会議のファシリテーション

ここから先は、会議として次のような状況を想定して、具体的な議事録の取り方を説明していきます。

システム開発会社XシステムズのAさんは、Y株式会社という企業の基幹システム開発のプロジェクトリーダーをしています。現在は要件定義のフェーズにあり、Aさんのチームは顧客企業の情報システム室によって集められたユーザー部門からの要件の整理を進めているところです。

これから行う会議は、ユーザー部門から、情報システム室に対して出された既存システムのP機能に関しての改善要望について検討するためのものです。この会議の中で、P機能をどのように改善するのか、そのためにどのようなアクションを取るのかを決めていきます。

会議の進行を依頼されたAさんの「見せる議事録」を使ったファシリテーションを見ていくことにしましょう。

会議を招集する

会議を依頼されたAさんがまずやらなければならないのは、会議の設定とその通知です。参加者、場所、時間の設定はもちろんですが、忘れてはならないのが会議の議題であるアジェンダです。必ず、会議の開催前に、アジェンダを参加者全員にメールで通知しておきます。

事前にアジェンダを通知することで、参加者に心の準備をしてもらうことは、会議を手際よく行うために非常に重要です。

議事録の初版を準備する

次に、会議の場でプロジェクターに映しながら作成する議事録の初版(下図参照)を、会議の開催前に作成しておきます。

会議の前に議事録があるというのも不思議な印象を持たれるかも知れませんが、「見せる議事録」は、会議中に見せるものですから、最初から作っておく必要があるのです。

事前に準備する議事録

議事録の初版には、議事録に必要な、会議名、開催予定日時、参加者、場所の情報と、事前に通知したアジェンダを示します。参考資料を配付する場合はそれもここで記述します。これらはいずれも事前に記述することができるものです。

続けて、会議を通じて埋められていく部分を用意します。本会議の決定事項、TODO、次回予定の欄がそれにあたります。TODOや次回予定など想定できるものはあらかじめ準備しておいてもかまいません。

最後に議事詳細を記載するところも準備しておきます。アジェンダの構造を用意しておくと発言内容を記録する効率が上がるのに加え、会議の流れをコントロールすることができます。

会社やプロジェクトの方針によっては、議事録は、結論だけ記載するもので、議事詳細は記録しなくてよいとされる場合もありますが、補足事項の位置づけでも構いませんので記録することをお勧めします。というのも、システム開発プロジェクトでは、前のフェーズで検討された機能などについての決定事項がどういう議論を経て決まったかが知りたくなる場合がよくあるからです。

特に、"みせる"議事録を行う場合には必須です。発言自体を記録するのでなければ、会議のファシリテーションのツールとしての威力は半減してしまうからです。

詳細に興味のない人は決定事項とTODOだけ読んでもらえばよいのです。

会議を進行しながら議事録を記録する

議事録の初版をプロジェクターに映して、会議を開始します。まずは会議の参加者と予定時間、議題となるアジェンダを確認します。ここで議題の追加があれば、即座に議事録に書きこみます。

ここからが見せる議事録テクニックの本番です。

会議に参加している方々の発言を、議事詳細部分に記載していきます。発言者が分かるように、発言の後に発言者の名前をカッコで囲い記載します。

会議のコミュニケーション内容をリアルタイムに記載していくと聞いて、話をする速度が速すぎて、タイピングが間に合わない場合はどうすれば良いのかという疑問を持たれた方もいるかもしれません。

確かに、話された内容のすべてを一字一句そのまま記載していくとすれば、タイピングが間に合いません。しかし、心配は要りません。なぜなら、実際には、要約しながら書いていくことになるからです。大切なのは参加者の認識を合わせることで、すべてをそのまま記録することではありません。参加者が理解できればメモの状態でも十分です。また、誤字脱字などの修正は後でできますので、こちらもあまり気にする必要はありません。

議論が白熱しているような場合には、ある程度見通しが立ってから整理して書くようにします。「ちょっと待ってくださいね、今お話しされた内容はこういうことですね」と、参加者の発言を確認しながら、記載すれば良いので、タイピングが間に合わないと心配する必要はありません。まとめきれないくらい複雑な話は、参加している他の人達も理解できていないことがありますから、議論を途中で止めての再確認は、参加者の認識を合わせるためにも積極的に行いましょう。

議事内容を確認して会議を終了する

会議のコミュニケーション内容を、リアルタイムで記録している中で、各議題に対して決まった結論に対して、だれが何を何時までにするか(TODO)を明確します。会議の最後に決定事項を確認するために、決定事項となる発言は文字を赤色にしておきます。アジェンダで予定していた議題をすべて議論し終わるまで、それを繰り返します。

すべての議題に対して議論が終わったら、他に議題がないことを確認します。この確認を終えても、まだ会議を終わらせてはいけません。会議の最後には、必ず議事録の最初のページに戻って、参加者すべてと合意しながら、その場で決定事項とTODOを記載します。ここでは、先ほど赤字にしておいた部分が役に立ちます。

議論が不十分であったり、次回も会議を開催する必要があったりする場合は、次回の予定を明確にして会議は終了になります。会議が終了した後の議事録イメージは、以下の図のようになります。

会議終了直後の議事録

正式な議事録を作成し送付する

会議中に作成した議事録は、会議終了後すぐに、正式な資料にするために資料の誤字脱字の修正などを行います。会議中の議事録は、出席者がその場で理解できる程度のメモでも構いませんが、最終的には議事録は書類として記録されて正式に残っていくものです。そのため出席者以外の人にも理解できるものにする必要があります。

内容を確認したらすぐに参加者全員を含む関係者にメールで議事録を送付して、議事録の作成は完了します。既に内容が共有されているものですから、このために必要な時間はごくわずかです。可能なら数時間後、どんなに遅くてもその日のうちに送付できるようにします。

議事録書きはリーダーの仕事

以上、見せる議事録テクニックを使用して、会議の準備から会議の終了後までの説明を行いました。

議事録はプロジェクトを円滑に遂行する上で極めて重要な役割を果たします。会議に出席できなかった関係者に対する情報を共有し、プロジェクトの意志決定の過程を残しますから、後になって「言った」「言わない」の議論になるのを防ぐことができます。特に、「見せる議事録」の場合には、会議中に結論を確認してしまうので、「議事録が曖昧で気づかなかった」などという言い訳も防止できます。

これほど大切な役割を果たす議事録を経験値の少ない若いメンバーが受動的に書いているようでは、プロジェクトのリスクを放置しているようなものです。リーダークラスの人が積極的に会議中に議事録を作成することで、議事録はプロジェクト管理の強力なツールになるのです。

この「見せる議事録」のテクニックを利用できるのは、別に顧客相手の打ち合わせに限りません。プロジェクトの社内のチームで行う打ち合わせで使うことで、ファシリテーションのコツを身に付けていくことができます。皆さんもぜひ日々の会議で使用して、ファシリテーションのスキルアップに活用してみてください。

執筆者紹介

深谷 勇次(FUKAYA YUJI)
- ウルシステムズ コンサルティング第1事業部 シニアコンサルタント


大手SI会社にて、オブジェクト指向に基づいたシステムの研究開発に従事した後に、多数の顧客業務システムプロジェクトで上流工程の要件定義から下流工程の運用・保守まで幅広く経験。最近は、複数システムが同時に進行する大規模プロジェクトで、複数のユーザPMの支援を実施し、ユーザー主導によるシステム開発の成功を実感している。

プロジェクトがうまくいくために、ユーザー支援はもちろん、ベンダー支援もいとわず実施し、参画メンバが良かったと思えるプロジェクトになるよう、日々コンサルタントとして奔走している。