皆さんは、こんな経験をしたことはありませんか?

顧客との打ち合わせの中で、懸案事項に対する解決方針の意識あわせができた。そこで発生したタスクの担当は顧客側にある。おそらく、数日以内になんらかの回答をもらえるはずだ。しかし、いつまでたっても何の連絡もない。進捗状況を確認したところ、全く進んでいないことが発覚した――。

ある程度の経験をお持ちの開発者なら、だれしも身に覚えのある話でしょう。

では、なぜこうした問題が起こるのでしょうか。大抵の場合、「タスクの宙ぶらりん」という状態が起きているからです。

今回からは、この「タスクの宙ぶらりん」をなくすためのポイントを2回にわたって説明します。

あの人がやってくれると思ったのに。。。

まずは、"タスクの宙ぶらりん"という状態がどういうもので、それがどういう事態を引き起こすのかについて、例を用いながらもう少し詳しく説明しておきましょう。

システム開発会社に勤めるシステムエンジニアのAさんは、顧客である製造業の基幹システム刷新のプロジェクトに参画しており、現在、受注入力の要件定義を実施しています。

先週はじめに、Aさんがリーダーをしているチームで作成した画面のモックアップのレビューを、顧客のシステム部門に実施してもらい、修正が必要な個所の指摘を受けました。そのレビューの司会をしていたシステム部門の担当者は最後に以下のように締めくくりました。

「では、受注入力関係の画面レイアウトは、作成いただいたモックアップをたたき台にして、来週のどこかで業務部門へ仕様の説明と、要望のヒアリングをおこないましょう。本日、指摘した修正点は別途反映をお願いします」

Aさんのチームは指摘された修正をモックアップへ反映し、業務部門との打ち合わせに備えました。しかし、今週の半ばを過ぎても打ち合わせの日程がいつなのかの連絡がきません。システム部門とは毎日、日次の定例会にて顔を合わせていますが、特に日程調整へのコメントはありませんでした。

業務部門の方々は忙しいので、日程調整が難航しているのかなと考え、特にAさんから何もアクションを起こさず、他の仕事を進めていました。

そうしたところ、今日になってシステム部門の担当者から質問がありました。

「そういえば、業務部門との仕様調整はどうなっているの? えっ? 何も調整していないんですか? それは困るなぁ。早いところ仕様を確定しないとスケジュールが遅れますよね。打ち合わせの日程をどうするか? それは業務部門のS部長へ連絡すればいいじゃないですか? この前、業務部門のS部長は紹介したから連絡はできますよね? 早急にアポを取って話しをしてくださいよ」

なんと、打ち合わせのアレンジは、Aさんが進めているはず、とその担当者は考えていたのです。

「タスクが宙ぶらりんになっている」というのは、このような、やるべきタスクの実施者、つまりタスクのオーナーが明確でない状態のことです。

放置するとプロジェクトは確実に失敗する

タスクの完了が少々遅れても問題がない場合は良いのですが、タスクの中にはキャパシティ対応のためインフラ構成を変更するかどうかの是非や、システムリリース日の変更による開発スケジュールの組み替え是非など、プロジェクトのQCDに関わるクリティカルなものもあります。

こうしたクリティカルな話のオーナーを宙ぶらりんにしたままでは、プロジェクトは確実に失敗します。

また、たとえクリティカルな話でなくても、"タスクの宙ぶらりん"は許されるものではありません。というのも、このような話がプロジェクト開始直後に発生すると、「なんだか頼りない」、「一緒に仕事をして大丈夫なのか」と、システム部門に思われてしまいます。今後、プロジェクトを進めていく上での信頼関係構築に影響を及ぼすことになりかねません。

話をして分かったつもり、多分顧客側で調整してくれるはず、といったように、「なんとなくあの人がやってくれるのであろう」といった宙ぶらりん状態を作ってはいけません。「何を誰がいつまでにどうするのか」を主体的に管理することは、失敗しないプロジェクト管理における必須のコミュニケーションスキルです。

開発ベンダーとしてプロジェクトに参加する場合には、役割分担を明確にするために、提案書やプロジェクト計画書に「打ち合わせのアレンジはシステム部門がおこなう」と記載することもあります。しかし、そのような場合でも、(指摘を受ける前ならともかく)問題が発生した後に「そもそも、システム部門さんにて打ち合わせのアレンジを行うべきですよね。プロジェクト計画書に書いてありますから」などと発言してしまうと、システム部門との信頼関係は築けません。「契約を盾にとって言い抜ける油断ならない業者」というイメージを持たれてしまいます。

宙ぶらりんであることを積極的に指摘する

弊社のようなコンサルティング会社では、会議体でのファシリテーションは必須のスキルになっています。打ち合わせにて発生した宙ぶらりんの状態を解消することは、そのなかでも重要なテクニックのひとつです。

宙ぶらりんを解消するには、「何を誰がいつまでにどうするのか」をハッキリすることが基本です。先の例ですと、レビューの最後にコメントを受けた時点で、以下の確認を忘れずにおこなわなければなりません。

  • 打ち合わせの日程調整は誰がおこなうのか?
  • 業務部門の誰に対して調整をおこなうのか?
  • 業務部門へ打ち合わせの申し出をいつおこなうのか?
  • 業務部門との打ち合わせは来週のいつにするか?
  • 打ち合わせの参加者は誰なのか?

最後の2つの質問、「来週のいつにするか」や「参加者は誰なのか」が決まるのは、今後の調整次第ということもあります。その場合、質問時点では、分からないと返事される可能性があり、意味のない質問をしているとシステム部門に思われてしまうかも知れません。

しかし、「そういえば、業務部門のS部長は今週と来週は出張で不在だ」や、「そういえば、来週は月次の締め処理があるため、業務部門は忙しく誰も参加してくれないかも」といったことが、システム部門側で気付く可能性があるため、細かく話をしておくべきです。

タスクの宙ぶらりんの存在は、プロジェクトのリスクです。タスクの宙ぶらりんを積極的に指摘し、宙ぶらりん状態をなくす活動をおこないましょう。

しかし、プロジェクト開始直後においては、システム部門と、うち解けておらず、細かい話をすることに抵抗を感じるかもしれません。あるいは、上司へ細かい話をいちいち確認することにも抵抗を感じる場合もあるでしょう。

次回はこうした状況でも宙ぶらりんをなくす活動を進めやすくするためのテクニックを紹介します。

執筆者紹介

横山 芳成(YOKOYAMA YOSHINARI)
- ウルシステムズ 事業推進企画室 室長


電気系SIerにてキャリアをスタートし、特許関連のシステム開発、保守・運用にプロマネとして数年従事。また、開発したシステムを外販するために、セールスエンジニアとしても活躍。

ウルシステムズ入社後は、コンサルタントとして、電子マネー関連の事業会社にて、ITグランドデザインや、プログラムマネジメント、プロジェクトマネジメントのデリバリを数年担当。直近では、様々な業種へのプリセールスや、事業会社のシステム部門へ実践的なトレーニングの実施、コンサルティングプロジェクトでのスーパーバイザー、メンバーの育成など、事業戦略の具現化 に努めている。PMP、CISA。