データセンターの選定にあたって大切なことは「データセンターに何を求めるか」を明確にすることだ。データセンター事業者にはそれぞれ個性と強みがあり、自社の要件にマッチしなければデータセンターの有効利用は実現できない。データセンターに設置するシステムの特性や位置づけを見極め、何を重視するのかを明確化した上で選定すべきである。
本稿では、データセンターを利用しているユーザーの事例をもとに、設置するシステムの種類別にデータセンターに対して重要視すべきポイントを紹介する。今後のデータセンター検討の一助となれば幸いである。
1. 一般企業における社内システムの設置では接続性と運用性を重視
数年前までは、社内システムをパブリッククラウドに展開することに抵抗があるという企業が多かったが、いまやパブリッククラウドを活用しないという企業は少数派だろう。システムの拡張性が必要な場合や頻繁にシステム負荷の変動がある場合、パブリッククラウドの方が費用対効果が高い。
一方、システム規模(サーバ台数)が一定している場合には、データセンターで自社構築する方が有利なことも多い。各企業はこれらを踏まえて、クラウドとデータセンターをハイブリッドで利用している。
このような場合、パブリッククラウドへの接続、特に専用線で接続できるサービスを利用できるかどうかが、データセンター選定で重要となる。また社内システムの場合には、複数の事業所などに専用線網を展開することが多いため、これらのネットワークサービスの利用条件も確認すべきポイントである。
一般的に通信事業者系のデータセンターはこれらのサービス展開が充実している。ただし、その事業者の通信サービス以外の利用を制限しているケースもあるので注意してほしい。なぜなら、社内システムの展開では通信断を回避するためにネットワークの冗長構成をとることが必要とされ、通信事業者も分ける(キャリアダイバーシティをとる)構成としたい場合に、データセンター側の制約で実現できないことがあるためだ。
また、パブリッククラウドやデータセンターの利用によって、経営層は運用コストの軽減を期待するだろう。その観点で気を付けたいのは駆け付け作業に要するコストである。データセンターによる現地のサポートが限定的な場合は自社の人員で対応するしかない。夜間の作業があったりすると、思いのほか運用コストを要してしまうため、なるべく駆け付ける必要が少なくて済むよう、データセンターの運用サポートについても確認してほしい。
2. コンテンツサービス事業者はIXへの接続性、電力供給とファシリティのスペックを重視
コンテンツサービス事業者にとって、インターネットへの接続性は言うまでもなく重要である。広帯域のメニューがあることや上流プロバイダとの接続帯域、そしてコンテンツを配信したいユーザーが接続しているプロバイダとの接続状況は確認すべきポイントである。大規模なサービスを展開するには、直接IX(インターネットエクスチェンジ)へ接続するという方式を選択することも多いだろう。
より高度な運用体制が必要となるが、柔軟なトラフィックコントロールが可能になるメリットもある。このような場合、IXが設置されているデータセンターを利用すると、データセンター内の配線だけでIXへの接続ができるため構成がシンプルになる。また、IXは設置されていないが、主要IXへの接続サービスを提供しているデータセンターもあり、IXの接続についてどのようなメニューが用意されているのか確認してほしい。
さらに、極めて多数のサーバ機器を展開するコンテンツサービス事業においては、如何にしてサーバ機器の集積度を上げるかがコスト削減の肝となる。データセンターで提供されるラックのサイズ、電力供給量、さらに搭載可能な重量など、自社のシステム構成と照らし合わせて確認してほしい。また、このような事業者は標準ラックには搭載できない大型機器を導入するケースも多い。そのため、搬入経路や床固定の方法など予想外にコストを要する場合があるため、可能な限り事前に確認しておくべきである。
3. ミッションクリティカルシステムはセキュリティ対応とサービス展開重視
金融や医療にかかわるような、絶対に止められない、かつ高度なセキュリティが求められるシステムをデータセンターに設置する場合、まず確認するのはデータセンターのセキュリティ設備やファシリティの安全性だろう。どのデータセンターも利用者以外の人間がアクセスできないようにしているが、このようなシステムは完全に独立したエリアに設置するのが理想的である。
1つの部屋を占有するほどのラック数がない場合、ケージで囲われた専用エリアを提供するデータセンターが多い。このようなサービスが可能か、さらに自社の要件に合致するアクセスコントロールを実装できるか、ぜひ確認してほしい。
また、設備だけでなく、運用についてのセキュリティの意識も確認ポイントである。ISMS(Information Security Management System:情報セキュリティマネジメントシステム)やPCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard:クレジット業界におけるグローバルセキュリティ基準)などの認証を取得しているか、業界のガイドラインに準拠しているかについても確認してほしい。
例えば金融業界では、金融情報システムセンター(FISC)がシステム運用の安全性とセキュリティの指針として出しているガイドラインのほか、金融庁や日本銀行による監査もあるので、これらへの対応や実績について問い合わせてみると良いだろう。
さらに、災害を考慮して被害が少ないであろう立地のデータセンターを選択することも重要である。しかし、絶対に大丈夫という地域は存在し得ない。やはり、ある程度離れた複数のデータセンターにシステム展開することが唯一の策である。データセンターを複数拠点で展開している事業者であれば、ワンストップでバックアップ用のセンターも提供してくれる。最近は国内だけではなく、アジアなどに展開する事例も多くなってきている。選定にあたっては、国内外におけるサイト展開についてもぜひ確認してみてほしい。
4. まとめ
以上、3回にわたりデータセンターの提供主体による特徴、各データセンターの差別化ポイント、設置するシステムの種類別にデータセンターに対して重要視すべきポイントについて説明してきた。特に本稿では3つの利用事例を通し、どのようなシステムに対して、どのようなデータセンターの個性や強みが効果的なのか、理解いただけたと思う。
データセンターの個性や強みを把握しても、それだけでは意味がない。データセンター利用の意図・目的の明確化とデータセンターに求める要件の優先順位づけがなければ、自社にとって最適なデータセンターを選定することは難しい。本シリーズを参考に、間違いのないデータセンター選びをしていただきたい。
Coltテクノロジーサービス株式会社
ヨーロッパ全域で事業展開するColtグループのAPACにおけるビジネスユニット。旧称 KVH株式会社。自社構築のインフラを世界28カ国48エリアで所有の上、超低遅延・完全冗長化ネットワークをグローバルに展開し、法人向けネットワーク、音声、データセンターサービスを提供している。