これまで2回にわたり、ITマネージャーがトラブル回避や海外動向をチェックする方法などをお伝えしてきた。本稿では、さらにワンステップ先に進む方法として、国際標準MEFについて解説する。MEFとは一体何なのか、そしてどのように使われるべきで、なぜ今MEFに目を向けるべきなのか、見ていきたいと思う。
そもそもMEFとは何か
世界中のネットワークに流れるパケットの量が膨大になるに従って、ZB(ゼタバイト)時代が訪れようとしている。そうした時代を見越し、今やビジネスネットワークを席巻するキャリアイーサネット(CE)を、世界中のどこでも同じように使用できる枠組み(=サービス標準)を推進しているのがMEFだ。
MEFは、キャリアイーサネットをベースとしたネットワークおよびサービスの世界的導入を加速させるために、電気通信サービスプロバイダー、ネットワーク機器・ソフトウェアメーカー、半導体ベンダー、テスト運営団体など210を超える組織で構成され、キャリアイーサネットのサービスを定義し、技術仕様を策定、相互運用基準を決めている。
これらの標準は、CE1.0として基本仕様が策定され、2012年にはCE2.0として機能や相互接続性が強化された。さらにはCE3.0として、ネットワークをユーザー自身の仮想ネットワークのように見せるサービス原理を策定中で、利用者は顧客のポータルやソフトウェアを通じて、動的にサービスを作成し、修正したり削除したりできるようになる。
サービスを抽象化することで、既存のネットワークにあったさまざまな制約を克服し、物理ネットワークから仮想サービスを実現可能にする。クラウドベースのサービスに類似しているともいえるだろう。現在、世界の通信事業者たちはこのMEF CE2.0をこぞって取得している。国際化を睨むITマネージャーとして、MEF CE2.0準拠によりどのようなことが担保されるのか、通信事業者選択時の1つの要素としてポイントを押さえるべきではないだろうか。
今回、国内通信事業者でMEFの定義するCE2.0を取得しているColtテクノロジーサービス ネットワークストラテジー&アーキテクチャ部の中島英規氏に話を伺った。
MEFの国際性
MEF認証(CE2.0)は現在、19カ国で45通信キャリア・ISPが導入している。合計136サービスで認証を取得しており、ベンダー認証も44社が237製品で認証を行っている。世界で国際スタンダードに対応しようという認識が広まりつつある証拠だ。
中島氏は「国をまたがるA地点とB地点を結ぶ場合、各国内の状態がバラバラでは、使い始めてから問題が発覚することがないように、事前調査に多くの労力を費やす必要があります。現状、日本国内のキャリアイーサネットサービスは長年の経験により品質を確保できますが、これはガラパゴス化しているともいえます。国際標準を基準とすることで、ユーザーはこれに準拠しているサービス提供者を選べば、国や地域によらず、一定の品質と信頼性を得ることができます」と語っている。
また「サービスの提供者側にとっても、自分たちのネットワークがカバーしてない地点まで、国際標準をサポートする他事業者と組むことで意図どおりのサービスを提供することができるのです。CE2.0では、サービス仕様、技術仕様、品質基準、テスト方法などが明確化されているため、サービス提供者側はこれら1つ1つにゼロからの確認稼働を割く必要がなくなります。そのため、労力の多くを運用に割り当てることで、品質向上に注力することができるのです」と説明した。
MEFは、ユーザー側、サービス提供者側の両者にとって重要といえるほか、企業網でのキャリアイーサネットの適用は地域や国を超えて拡大している。CE2.0で提唱する、相互接続仕様はこれを後押しするものであり、MEF認証サービスの選定はさらに拡大することが想定される。
仮想化への対応
仮想ネットワークがあるということは、物理的な機器を介さずに通信が可能であるということだ。そして、同時にどの分野でも仮想化というものは進んできた。PCのバーチャルコンソールから始まり、異なる物理的位置にあるマシンを1つの大きな統合されたマシンとして扱いたいという要求は、古くから続いており、今後もその流れは加速してくだろう。
中島氏は業界のトレンドとして「今後、各方面で仮想化に関する概念は、ますます発展していきます。MEFは仮想化への流れを注視しつつ、CE2.0を定義しています。標準に準拠したプロバイダーサービスや機器で構築しておけば、現行の静的な利用のみならず、将来のダイナミックなネットワーク利用に備えることができます」と指摘している。
つまり、ネットワークのすべてを自分でコントロールできない環境で構築しなければならない場合、MEFは必要条件の整合を確保する役割を担うのだ。グロバールな視野に立って考えれば今後は仮想化が大切となる。そして標準化が進むほど、より幅広く多くの人にさまざまなサービスが拡充されていくだろう。
MEFによるLSOで、より高度なサービスへ
第三世代ネットワークでは、ライフサイクル・サービス・オーケストレーション(LSO)をAPIに使用しているという。LSOによって、エンドツーエンドのクラウドネットワーク間の連携が可能となるほか、品質やセキュリティなども担保される。
中島氏はMEFの目指すものとして「MEFの定義する現在の標準はCE2.0ですが、今後CE3.0への移行も視野に入れています。移行のポイントは、仮想化です。仮想化が進んだメトロイーサネットでは、今までのネットワーク+SDN+NFVでサービスが提供されます。サービスは、SDNでより高パフォーマンスになり、NFVでさらに高度になっていくことが期待できます」と指摘する。
そして同氏は「国際的なネットワークをダイナミックに使うことが可能となります。例えば、サービスはA地点とB地点で提供されているように見えても、実際はA地点とB地点はC地点にあるNFVを通して提供され、負荷に応じて一時的に増速して追加のNFVを使用するなどです。利用後には消す、そんなマネージメントも可能になります」と語る。つまりLSOにより、ネットワークを効率的に使えるということだ。
標準化によって受けられるトラブル回避時のメリット
障害への対応にもMEFによる標準化は活かされる。トラブルを防止するために、まず選択すべき5つのポイントとして、障害からの復旧が早いこと、増速しやすいこと、海底ケーブル断裂時に迂回ができること、低遅延への対応ができること、契約が柔軟であることなどが挙げられるが、中島氏によると、それらも標準化からメリットを受けられるという。
同氏は「障害時の早期復旧ということについては、複数のプロバイダーによるサービスも冗長性やテストの基準が担保されますので、素早く正確な復旧が行われます。増速しやすいという点については、増減速時の仕様が明らかになっているため、安心して利用ができます。また、自動化が整備されることによって、必要なときに必要なだけのサービスを受けることができるようになります」と説く。
そのうえで「海底ケーブル断裂時には、標準準拠のプロバイダーから迂回ルート選定ができるため、より柔軟なサービス冗長の選択肢を得ることができます。さらに、低遅延への対応については、SLAの選択が可能であり、保証の方法も明らかになっています。加えて、契約がフレキシブルである点については、共通認識と標準によって少ない労力で、実効力の高い契約を異なる事業者間でまとめあげることが可能になります」と同氏は述べている。標準化への準拠により、トラブル回避時にも役立つのだ。
まとめ
いかがだっただろうか。MEFの国際認知度の高さや、重要性が伝われば幸いだ。国内のネットワークは最先端でありながらもガラパゴス進化傾向になりがちだ。グローバル社会になるに従って、通信業界もITマネージャーも、国際動向と国際標準に目を向けるべきだろう。
その先には「国際化」という言葉を意識しないほどの、シームレスな世界が訪れる。1つのスタンダードを世界中が求め、1つのスタンダードがこれに応える、MEFはそんな世界を目指している。
Coltテクノロジーサービス株式会社
ヨーロッパ全域で事業展開するColtグループのAPACにおけるビジネスユニット。旧称 KVH株式会社。自社構築のインフラを世界28カ国48エリアで所有のうえ、超低遅延・完全冗長化ネットワークをグローバルに展開し、法人向けネットワーク、音声、データセンターサービスを提供している。