ケース5 - ダークなユーザーエクスペリエンス

Stewartが受けた要求は簡単なものであった。Webサイトの丸みを帯びた長方形のボタンを矢印パターンに替え、カラーパレットを調整して赤と緑のテキストを混合して表示するというものである。しかし、試作品を見たStewartは、この画面は分かりにくいと感じた。左向きの矢印は前のページへ戻る、あるいは何らかの動作を取り消すと思われるが、実際はこの矢印は、会社のデフォルトの商品を受け入れるというボタンを置き換えるものである。一方の右向きの矢印は、ユーザーをより高価な製品にアップグレードするものであり、それだけではなく、ユーザの確認を求めることなく、Protection Warrantyを付加するものとなっていた。

Stewartは、この分かりにくいデザインは、ユーザーを騙して必要としない高価なオプションを選ばせようとしているのではないかと、彼のマネージャに話した。マネージャの返事は、これらの変更は、顧客が要求したものだというものであった。

このアップデートがリリースされ、正式運用に入って間もなく、Stewartのチームは、祝賀会に招待された。これらの変更の結果、顧客の売り上げは、前の四半期に比べて大幅に増加した。祝賀会の席上で、Stewartは、顧客のマネージャ達が、Protection Planは不要として、返金を要求するユーザが少し増えたが、そんなに多くはないと話しているのを聞いた。一人のマネージャは、視覚障害のあるユーザから、赤と緑の文字を混ぜた表示は製品の重要な免責事項が読みにくいという、何件かの苦情が来たと述べた。そして、あるマネージャは、つまり、変更は狙ったように働いたということだと述べた。

倫理規定を用いたケース5の分析

ダークなユーザーエクスペリエンス(UX)は、ユーザーを騙して意図しない(多くの場合、より高価な)オプションを選ばせようとし、害を与える。

これらのユーザーインタフェースは、ユーザーに騙されたと感じさせる。これは【1.2項】(害を与えることを避ける)に違反している。そして、意図的に誤った情報を与え【1.3項】(正直に、信頼されるように行動する)に違反している。

あるいは、障害のある人を差別しており、【1.4項】(公平で差別を行わないように行動する)にも違反している。コンピューティングのプロフェッショナルは、そのスキルを社会のメンバーの役に立つように使うという倫理上の義務を負い、騙してはならないという【1.1項】(すべての人々がコンピューティングのステークホルダーであることを認め、社会と人間の良好な状態(well-being)に貢献する)にも違反する。

さらに、ダークなUXの使用はユーザーの尊厳に対する侮辱であり、【2.1項】(仕事のプロセスと成果の両方に高い品質を達成するように努力すること)に違反している。このように、ダークなUXを使うことは、この倫理規定の基本となるいくつもの条項に違反している。

Stewartの顧客のマネージャ達は、このデザイン変更が売り上げを増やすためであり、ユーザーの自由な選択を邪魔するものであることを知っていた。これは【3.3項】(仕事上の生活の品質を改善するよう人員やその他の資源を管理すること)に違反している。主要な倫理的な違反を犯しているのは顧客のマネージャ達であるが、Stewartと彼のマネージャも倫理規定のいくつかの条項を守っていない。特に、彼らの開発とテストのインフラストラクチャは、ユーザーインタフェースの変更についてのより完全な評価を行うべきである。この点で【2.5項】(コンピュータシステムの包括的で完全な評価を与えること。それには考えられるリスクの分析を含むこと)に違反している。

そして、Stewartの会社の上層部は、会社の方針やプロセスを徹底させ、顧客の設計がユーザーにとって欺瞞的であったり、害を与えたりするものでないことを確認する必要がある。この点で、会社の上層部は【3.4項】(この規定の原則を反映した方針やプロセスを明確に示し、適用し、サポートすること)に違反している。この問題に対して、より厳格なポジションを取ることは、Stewartと会社を、この規定への適合性を高める方向に導く。

(次回は10月4日の掲載予定です)