コーチングセッションで難しいのは、コーチーがどれだけ向上したのか、成長したのかがわかりにくいことである。そこで山下は、佐々木がどれだけ成長したかわかるような"評価表"を作成することにした。佐々木と一緒に評価をすることで、佐々木が自分で気づいた点に対して、山下は自分の意見を入れながら作成することができるからである。まずは佐々木に自己評価してもらい、それに対して、プロとして自分の気づいたことを追加していくというやり方を採ることにした。佐々木自身が自分がどう成長したかを評価することも大事であるが、コーチー自身が気づかない点をプロとして指摘してやることも、最後のコーチングセッションでは大事である。

自己開発チェック 2008年3月 - 6月
評価日:   月   日
コーチング開始時の目標 精神的に弱くうつ病になったり、突然の休暇をちょくちょく取ったりする部下、長続きせず辞めてしまうパートの部下がいたが、このことと「パワハラ」とどう関係しているのかを究明する。このような部下に対する対応策としてメンタルタフネスの研修を考えているが、他にどのような対応策があるのかを知り、検討してから、上司としてとるべき行動に移す
これからの目標 1. 加賀さんにもっと話しかけるようにし、加賀さんの様子を知るようにする
2. 人前で大声で怒鳴ることはやめる
3. 相手に自分の気持ちをきっちりと伝える
4. 吉田さんに丁寧語で話をする
5. 「女の子」などの言い方はやめるようにする
上記のことは、加賀さん、吉田さんだけではなく、他の部下の方々に対してもやるように努める
評価方法: 次の内容に対して同意するかどうかの度合いを下記の番号で表記してください
1…まったく同意しない  2…ほとんど同意しない  3…少し同意する  4…ほとんど同意する  5…まったく同意する
精神的に弱くうつ病になったり、突然の休暇をちょくちょく取ったりする部下、長続きせず辞めてしまうパートの部下がいたが、このことと「パワハラ」とどう関係しているのかを究明することができた   
精神的に弱くうつ病になったり、突然の休暇をちょくちょく取ったりする部下、長続きせず辞めてしまうパートの部下に対する具体的な対応策を知り、上司としてとるべき行動をとり始めた   
上司として部下に対する自分の指導のやり方が古いやり方で、若い人々には通用しないことがわかってきた   
以前はワークライフバランスを馬鹿にしていたが、今の人には大事なものであることがわかった   
心の病気になることは、「軟弱」とか「性格に問題がある」という問題でないことがよくわかった。人間だから風邪をひくことがあるように、心も風邪をひいて病気になることがあるのだと気づいた   
今までの加賀さんと明らかに違う様子が見えたら、もっと注意を払うことの重要性に気づいた
---お茶を飲みながら話をするような機会を増やし、仕事のことだけではなく、どれだけ仕事を楽しんでいるかについて話をしながら、加賀さんの体調、そして心の状況にも心遣いするように努めようと思う
  
自分が「パワハラ上司」だということを心から認めた
---「自分はこのようなパワハラをやっていたのだ」と、自分の口からコーチに話すことができた
  
加賀さんに対して強い罪悪感が出てきた
---加賀さんにいつか謝罪の気持ちを伝えたいと強く願っている
  
「お互いを尊重する」
部下に対して「○○さん」で呼べるようになった   
女性社員に対して丁寧語で話せるようになった   
部下を叱ったり、注意したりするときに人前で怒鳴らないように注意している   
上下関係に関係なく、相手の気持ち、意見を尊重するようなリーダーになりたい   
「信頼関係を大事にする」
自ら部下の席に言って話しかけることができるようになった   
自分の知らないことがあったときに「自分がわからないことを認め、部下や周りに助けを求める」ことのできるリーダーになりたい   
対話を大事にし、双方向のコミュニケーションを確立したい   
「オープンである」
加賀さんだけではなく、パワハラを行っていたかもしれない他の部下に対しても、何らかのかたちで謝罪したいと願っている   
会社が苦境に立ったとき、「いいニュースだけでなく悪いニュースも伝える勇気」をもつリーダーになりたいと願っている   
部下が「何でも質問できる」と感じるようなリーダーになりたいと思っている   
「正直である」
自分が間違ったことをしたと気づいたときに「自分の間違いを認める勇気」をもつリーダーになりたいと思っている   
自分が部下に対して行ったことが法的にも、道理的にも間違っていると認めたとき、それについて何らかのかたちで部下に伝えることのできるリーダーになりたい   
「部下が働きたい環境を造る」
部下を褒めることができるようになった   
ワークライフバランスの重要性に気づいた   
部下の「幸せ感」をつかめるようなリーダーになりたい   

山下は、次回の最終セッションで佐々木と一緒にこの評価表を使うつもりである。

コーチングは基本的には期限を決めて行うもの。終盤近くになったら、今回のようなチェックシートを作成して、コーチとコーチーが一緒に評価を行うようにすると、コーチングが終了してからもモチベーションを維持しやすい

(イラスト ナバタメ・カズタカ)