自分を知るための自己診断用質問II

林は質問リストを継続して使ってみることにした。

年上の部下に対して「……をしてくれて、ありがとうございました」と、きっちりとお礼を言って感謝の意を示していますか? やっていないとすればそれはなぜですか?

  • A. 部下が当然の仕事をしたことに対して礼を言う必要はない
  • B. 照れくさい
  • C. あまり下手に出るとかえって馬鹿にされる
  • D. いちいち礼を言うなんて面倒くさいし、そんな時間はない

診断参考材料

  • Aを選んだ場合
    「相手を尊重する」という姿勢のないリーダーになっている。「感謝の気持ちを伝える」ことは、相手の存在価値を認めることでもある。それくらいやって当然、と思っていても「高木さんが○○してくれたおかげで、××がうまくいって、大変助かりました」と、高木が貢献したことを具体的に伝える努力をすべきであり、それが高木の成長につながる。「育てる」とは必ずしも教えたり指導したりするだけではなく、褒めたり、感謝したりすることも含まれる。感謝できることを探すように努力する姿勢が重要なのだ。また、他のメンバーの前で、高木が貢献してくれた仕事について感謝の意を表すことも上司として大事なスキルである。
  • Bを選んだ場合
    日本人は特に口に出して礼を言うことが苦手である。親子の間でも「できて当たり前」という文化があるので、できた成果に対して改めて礼を言うことに慣れていない。しかし、職場のような他人どうしの集まりだと、口に出して言わないと相手に伝わらないことがあるので、照れくさくても感謝する習慣をつけることが大事である。最初は照れくさくても、だんだんと慣れていくものである。
  • Cを選んだ場合
    「人に感謝をする」ことは下手に出ることと同じではない。人を尊重する姿勢なのだから、「馬鹿にされるようなことは何もしていない」という毅然とした態度を貫き通すことが大事である。このようなリーダーの姿勢は周りにも影響するものである。
  • Dを選んだ場合
    リーダーとしての認識に欠けているから、面倒に思ったり、時間がないと片付けたりする行動に出るのである。「感謝し、認める」ことで、相手は自分の強みに気付き、いつのまにか、感謝してくれている相手に感謝をするようになるものである。

適切に誉めることでモチベーションアップ!

林は、この自己診断質問に対して、AとCを選んだ。Dも当てはまりそうである。たしかに今まで高木に対して礼を言ったことはない。礼を言う必要はなかったと最初は考えていたが、思い返してみると「なかった」のではなく、礼を「言わなかった」のである。

林は、高木が自分のグループの一人一人と面接をし、彼が個人の今年1年の目標設定を手伝っていたことを知っていた。高木のグループメンバーのひとりが、林に「高木さんと話したおかげで、この1年で自分が目指すべきところがはっきりしました」と話してくれたのである。そのとき林は「高木はグループリーダーとしてやるべきことをやっているな」と捉えただけであった。

しかし今思い返してみると、「このようなことを高木自身に感謝し、高木のやっていることがどのようにグループの一員/全体に貢献しているか、皆の前でも感謝し、高木の貢献を認めることが大事だったのかもしれない」と違う局面が見えてきた。林は「今からでも遅くない。気がついたときに、行動に移してみるほうが、やらないよりいい」と自分に言い聞かせ、明日、朝のミーティングのときに言うことにした。

翌朝、林は、さっそく朝のミーティングで高木のリーダーとしての貢献ぶりを感謝した。ふだんは、林が話していても顔を下に向けたまま座っているだけの高木だが、さすがに今日は自分の名前が急に出たので、顔を上げた。林はミーティングの後、高木に直接、皆の前で断りなく名前を出したことに対して詫びてから、改めて礼を言った。そして正直に、自分は部下の目標設定をきちんとしたことがないことを告げ、どのように指導したのかを聞いてみた。すると高木は「前の会社でやってきたことをやっただけですがね…」と口重いスタートだったが、林が関心をもって聴いているとわかると、少し自慢げに話し始めた。

林はこの結果に大満足であった。ちょっと偉そうな口調で話す高木の態度は少しカンにさわったが、不思議に自分を抑えることができた。「感謝をする」「教えてもらう」という今までの自分だったらできなかった行動2つを実行した自分に対して、「我ながら上出来♪」と心の中でニ重丸を与えた。

部下を人前で怒鳴れば必要以上に萎縮させることになりかねないが、きちんと評価した上でその業績を誉めれば、部下のやる気は倍増する。ただし、相手が調子に乗りやすい性格だと、その後の扱いがやっかいになることも…

(イラスト ナバタメ・カズタカ)