クラウドの利用により業務の効率化が進む一方で、クラウドの無駄がコストを大きく増大させているケースが見受けられます。その要因としては、「実際に必要なサイズよりも大きなインフラを用意してしまうこと」「監視や運用の問題でプロビジョニングを十分に把握できていないこと」「本番環境以外のインフラが常時稼働してしまっていること」の3点がありました。
これらの要因は、いずれも理解しやすいことであり、どのような企業でも認識されていることであると考えられます。対策に取り組んでいるITリーダーも多いことでしょう。しかし、それでもクラウドの無駄はなかなか減りません。今回は、「クラウドの無駄を減らせない要因」を3つに分けて説明します。
要因1:誰でも利用を開始できることがデメリットに
クラウドサービスは、アカウントを作成して支払い設定をすれば、誰でも簡単にサービスを使い始めることができます。それがクラウドサービスのメリットですが、そこに企業のガイドラインがなければ、従業員が好き放題にクラウドサービスの利用を始めてしまい、ガバナンスを効かせることが難しくなってしまいます。
ただし、似たようなことはクラウド以前の時代にも起きていました。部署単位で独自にストレージを追加したり、Wi-Fiアクセスポイントを追加して通信エリアを拡大したりする、いわゆるシャドーITです。これが形を変えて同じことが起きているともいえます。クラウドは利用がより簡単である一方で見えづらいため、判明したときの利用量やコストが予想以上になっているのかもしれません。
組織的な問題が背景に存在する場合もあります。例えば、開発側がLOB(業務部門)側にいるような企業では、開発のクラウド利用にガバナンスを効かせづらくなります。これはLOBがCIO配下にいないため、いくらIT部門がクラウド利用に関するポリシーを決めても、開発側はそれにとらわれず自由にクラウドを利用するからです。IT部門が知らない間に、開発部門がAWSだけでなくAzureもGCPも使っていたというケースも少なくありません。
こうした組織的な問題は、今後も増えると考えられます。今後はDX(デジタルトランスフォーメーション)やSDGs、あるいはサステナビリティの観点から、異業種間での協業や、文化の異なる海外の企業を子会社化するようなケースも増えていきます。LOBがCIO配下にないような組織体系ではガバナンスを効かせづらく、気づけばハイブリッド、マルチクラウドになっているケースはすでに多く見受けられます。
要因2:プロビジョニングに関するルールが徹底されていない
クラウド利用が普及してきたとはいえ、そのノウハウが十分に蓄積されていない企業も多く、必要とされる開発環境をイメージできない、あるいは開発するものに対するインフラの標準的なサイズのガイドラインを設定していないケースがあります。
また、古いタイプの日本のIT部門は、自社すべてをユーザーと見なして、ユーザーからの依頼に応える形でシステムを構築したりアプリを開発したりします。下請けのような立場になり得るため、容量不足で対応できなくなることは避けたいと考えます。するとどうしても、開発環境を大きめに準備し、余裕を持って開発しようとします。
こうした旧来の意識が染みついていると、クラウド環境においてもリソースを大きめに準備しようとするので、使えるリソースの幅が大きなプレミアムインスタンスは魅力的と考えます。本来は「足りなくなればいつでも増やせる」ことがクラウドのメリットですが、「余分ができれば削ればいい」という考えでプレミアムインスタンスを選んでしまうのです。
プレミアムインスタンスはベースとなるコストが大きくなるので、無駄につながってしまいます。従来のオンプレミス環境では、スペックの高いハードウェアを導入するために、稟議を上げ、承認を経て、製品を手配し、納品受け入れをする、といった手間が必要でしたが、クラウドでは項目の選択だけで使えるようになります。こうした心理的なハードルが低いことも、クラウドの無駄につながりやすい要因といえます。
要因3:「見えない」「把握できない」クラウド管理の現状
クラウドの利用状況が十分に可視化されていないことも、クラウドの無駄を減らせない要因の一つです。無駄なプロビジョニングやインスタンスは、単純に設定した人間が忘れてしまうケースがあります。設定ひとつで実行できるクラウドの利便性の裏返しともいえますが、プロビジョニングやインスタンスが見えにくいという問題もあります。
ユーザーにとって、クラウドの利用とコストが意識的に結びつきにくいことも要因といえます。特に、前述のLOBは開発が中心であり、よいサービスをいかに早くリリースするかに注力します。そうすると、開発のために付随的に立ち上げたインスタンスをそのまま忘れてしまうこともあります。出かけた帰りに雨が降っていて、駅で借りた傘を返さないまま忘れてしまうことと似ています。
前項での例のように、物理的なハードウェアが中心であった時代には、ハードウェアの置き場所や電源の確保など、受け入れ前の準備も必要で、関係各署との合意や意識の統一が必要でした。しかし、クラウドを利用する際、そうしたプロセスは必要ありません。ビジネスのスピードを加速するにはクラウドが圧倒的に有利ですが、そのリソースは無尽蔵ではないはずです。
以上が、「クラウドの無駄を減らせない3つの要因」です。クラウドは水道と同じで、栓をひねればひねるだけコストがかかります。水栓のひねり具合を最適にすることと、不要な水栓を止めることは水道代節約の基本です。
クラウドのコストを節約するには、全社のクラウドの利用状況を把握できることが重要です。ただし、それを人の手で管理していくことも大変ですので、自動化が重要なポイントになります。次回はそうしたクラウドの無駄を減らすための施策について紹介します。
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