クラウドの利用コストの現状

物理的にシステムを構築することなく、すぐに利用できるクラウドサービスは、目まぐるしく変化するビジネス状況に臨機応変な対応ができ、デジタル化を進める企業に必須のものといえます。日本政府も、システムを構築する際にクラウドサービスから検討を始める「クラウドファースト」を打ち出しています。

安価な初期費用でスモールスタートが可能で、月額料金で利用できることもクラウドサービスのメリットですが、またたく間にユーザーが増えてしまうという側面もあります。その結果、クラウドサービスの利用量が増大し、利用コストが大きく増加する結果を招いてしまいます。

こうした利用コストの増大には、実は多くの“無駄”も含まれています。DevOps.comによると、企業はアイドル状態のリソースや過剰なリソースにより、2020年には170億ドルを超えるクラウドに関する支出を浪費することになると予測していました。また、多くの組織では、クラウドに関する支出の40%が、過剰にプロビジョニングされた未使用のインフラストラクチャに費やされているといわれています。

企業におけるパブリッククラウドの採用は、従業員の生産性と俊敏性を高め、より速く動くことができるようにする、というアイデアから始まりました。しかし、企業は予測できないビジネスモデルの長期的なデメリットにも直面しています。クラウドの支出は指数関数的に増加し、組織にとってリスクになり得るのです。

なぜ無駄なリソースが発生するのか

多くのユーザーが頻繁にプロビジョニングを行うことで、マルチクラウド環境全体で無限ともいえる量のオンデマンドリソースが組み合わされ、予期しないコストが雪だるま式に増えます。ある調査によると、企業におけるクラウドの予算の45%近くが本番以外のリソースに費やされており、これらはほぼ週40時間の稼働時間中にのみ使使われます。

また、プロビジョニングされたリソースは、24時間年中無休で実行する必要がないため、75%以上の時間にわたりアイドル状態になっています。もちろん、アイドル状態でも料金は発生するので、利用コストに大きく影響します。

クラウドの無駄の3つの要因

クラウドの無駄は、大きく3つの要因によって発生します。1つ目の要因は、組織が実際に必要とされるよりも大きなインフラを用意することです。「余裕を持たせたい」という思いがあるのかもしれませんが、使われなかったリソースは無駄なものとなり、一定のコストが継続的に発生します。これは、自転車で行ける公園にフェラーリで乗りつけるようなものです。

2つ目の要因は、監視や運用の問題です。クラウドにはさまざまな運用スタイルがあり、開発者と運用担当者の役割が明確に区別されていない場合も多いです。そのため、プロビジョニングを十分に把握できていない、あるいは業務が多忙なため失念してしまうこともあります。

通常は、プロジェクトが終了したら開発者がプロビジョニングを解除したり、運用担当者に解除を依頼したりします。プロジェクトの終了に合わせて機械的にアラートを出すような仕組みを作ることもできますが、運用しながら仕組みを構築していくことにも難しさがあります。

3つ目の要因は、本番環境以外のインフラが構築されているケースです。本番環境は24時間常に稼働していますが、それ以外にプロビジョニングされたインフラは、営業時間外でもアイドル状態になっています、言わば、水道の蛇口を開いたままのような状態になってしまうので、無駄なコストが発生し続けてしまうのです。

次回は、「クラウドの無駄を減らせない3つの要因」について説明します。

著者プロフィール

花尾 和成(はなお かずなり)

HashiCorp日本法人 カントリーマネージャー 約19年にわたり、日本企業の顧客インフラの近代化、経営管理/データ分析やクラウド技術の活用や、それらを利用したDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に尽力。日本ヒューレット・パッカード(現Hewlett Packard Enterprise)でキャリアをスタートさせ、日本オラクルを経て、Pivotalジャパンのカントリーマネージャーとして、アジャイル開発やクラウドネイティブなインフラを活用した企業のDXをリード。直近は、VMware日本法人でTANZU事業の拡大を主導。2020年12月より、HashiCorp日本法人であるHashiCorp Japanにてカントリーマネージャーを務める。