中小企業では社内にIT部門を持っていないため、社内での業務課題解決のためにIT化を進めていく上で、システム開発会社、いわゆるSIerに支援を依頼するケースが多いかと思います。しかし、いざSIerに依頼をしたら、「全く使い物にならないシステムが出来上がった」、「システム開発費が当初の予算よりも大幅にオーバーした上に、いつまで経ってもシステムが出来上がらない」といった悲しい結果になり、IT化が成功しないどころかIT化自体に消極的になってしまう企業が多いのも事実です。
なぜ業者に依頼をしてもIT化に失敗をしてしまうのか。そこには発注側である企業と受注側であるSIer双方に原因があります。
ITに詳しくないからといってすべて丸投げはNG
経営者が「うちにはシステムに詳しい人間がいないし、ITは難しくてよく分からないから、IT化に関する作業はすべて御社にお願いしたい」というふうにSIerに仕事を依頼して来る企業をたまに見受けますが、このような頼み方をすると間違いなくIT化は失敗します。
IT化は自社の業務課題を解決するための手段ですから、自社にどんな業務課題があり、それを解決するためにはどのような手段が必要なのか、IT化するべきところはどこなのかというのは発注側の企業でなければ決めることができません。
自社の業務課題がどこなのかを日々の業務フローや担当者の作業内容などを整理・分析し、それらの情報をSIerに共有して、IT化すべき部分について提案を受けることで、ムダにならない業務システムを作ることができます。
数千万円かけて一軒家を建てるときに「建設のことはよくわからないから、全部設計士と大工に任せます」とは言わないのと同じです。
すべて顧客の要望どおりに作るSIerはNG
SIerは「System Integrator」という和製英語の略で、日本語にすると「システムを統合する人」という意味合いになり、さまざまな技術、ソフトウェアなどITに関する幅広く深い知識を持って、ユーザーに最適なシステムを提案し、組み上げることが役割となります。
業務課題を解決するために顧客が要望しているシステムがなぜ必要なのかを分析・理解した上で、本当に必要なシステムを考え、提案することがSIerの仕事です。しかし、中には、顧客が要望しているシステムや機能を何も考えずにそのまま開発するSIerが残念ながら存在します。なぜ必要なのかという本質を考えずに作られた機能は結果、使われないムダな機能となり、企業側はその無駄な機能に大事な開発費を使うことになってしまいます。
実績よりもヒアリング力が重要
自社に合ったSIerを探すときに、そのSIerが自社と同業のシステム開発に関わっていたかといった実績が判断ポイントになりがちです。もちろん、その業界・業種に関する開発実績があるに越したことはありませんが、最重要視するポイントにはしないほうが良いです。
同じ業界であったとしても、実際の業務は会社ごとに異なりますし、抱える業務課題も会社ごとに異なります。そのため、その会社の業務がどういったものなのかをヒアリングし、さまざまな情報を引き出して業務を分解・分析できるかどうかが重要なのです。どれだけ同じ業界に詳しくても、その会社固有の業務課題を見つけ出すには会社の業務については細かな部分までヒアリングをしなければ引き出すことはできません。
課題解決に目を向けるSIerかどうか
SIerに仕事を依頼する際に見るべきもう一つの視点は「このSIerとはチームになれるか?」です。
IT化は実際に業務にシステムが使われて業務改善効果がでて、はじめて成功と言えます。ですので、IT化はシステムを作ることがゴールではなく、作ったシステムが使われ始めてからスタートとなります。そうするとIT化を支援してもらうSIerとは自ずと長い付き合いになりますので、より良い関係性を築く必要があります。だからこそ、「会社の課題を理解し、業務改善や成長のために力を貸してくれる」SIerを選ぶことが重要となります。 チームとなれるSIerは課題解決に目を向けているSIerです。
「受発注業務のリードタイムを短縮したい」、「会計業務の精度を上げ、効率化もはかりたい」といった具体的な業務課題についてSIerに相談した際に「会計システムとしてこのサービスがシェアNo.1です」、「このツールが最新で、今人気です」といった話を始めたら要注意です。このような話が出た時点でツールを導入することが目的になっており、出発点が課題解決になっておらず、目的意識がズレているため、良いチームにはなれません。
「具体的に、受発注業務におけるどの部分のリードタイムが長いのですか?」「会計業務の精度が上がらない原因はどういうところだとお考えですか?」と課題解決に必要な情報を引き出し、「この業務はIT化することによって業務効率が上がりそうですね。例えば、このベンダーのこのサービスを使うと良いかもしれません。」といった提案をしてくれるかどうかを見極めることが大切です。
チームで取り組む共創意識
そして、もう一つ大事なポイントが「チームで取り組む意識を持っているか」です。この意識はSIerだけでなく発注する企業側にとっても大事な意識です。
「お金を出すから難しいことは全部やってくれ」という企業と「お客さんの言われたとおりに作って、お金を貰えればよい」と考えるSIerとではいい仕事ができるわけがありません。
SIerはITについてはよく知っていても顧客の業務の詳細は分かりません。業務が分からなければ、使い勝手の良い課題解決に役立つシステムがどういうものなのか判断できません。ですので、企業側は細かな要求や改善点を自社で整理し、SIerに伝えることが必要です。そして、SIer側は提示された業務課題に対して、IT化することで解決する部分があるのかを分析し、最適なシステム構成を提案、構築していく姿勢でなければいけません。
本当に役立つシステムを作るためには、業務のことがわかっているユーザーの意見と、ITのプロであるSIerの知見、どちらも不可欠です。それぞれの意見・知見を出し合い、業務課題の解決というゴールに向かって、共創(共に創る)することがIT化の成功要因となります。
著者・四宮 靖隆(しのみや・やすたか)
株式会社 ジョイゾー 代表取締役社長
1976年生まれ。1999年、新卒でシステム開発会社に入社。社内インフラ業務に従事し、基礎知識を得た後、2003年に独立系SIerに転職。インフラの知識を活かしてサイボウズ社『ガルーン』の構築や移行の案件に多く携わる。その後、個人事業主を経て2010年に株式会社ジョイゾーを設立。『kintone』がリリースされた2011年以降は、『kintone』案件をメインビジネスに据え、今日まで成長を続けてきた。『kintone』元エバンジェリスト。著書に「御社にそのシステムは不要です」(あさ出版)がある。