社内の業務課題を分析し、課題解決のためにシステムを導入し、いざ運用に入ると必ずと言っていいほど「抵抗勢力」といわれるIT化に反対する従業員がでてきます。「抵抗勢力」となる理由はさまざまで、「新しいことを覚えることで余計な仕事が増える」「既存の慣れたやり方を変えたくない」といった新しいことに対する拒絶反応であったり、「システムが導入されることで自分の仕事が奪われてしまう」といった保守的な考えから抵抗することが考えられます。
人は誰しも新しい取り組みに不安を覚えるもので、それは仕方ないことです。抵抗勢力となる従業員も同じ仕事をする仲間ですので、しっかりと向き合ってIT化に協力をしてもらわなければ、IT化による業務課題解決は実現できません。
最初はスモールスタートでシンプルなシステムを
IT化を進める際に社内の業務を分析するとさまざまな課題が上がってきます。そうすると、最初は「顧客情報をデータベース化して、案件の見える化を実現する」ためのIT化だったのが、見積書の電子化も進め、承認にはワークフローを導入し、営業部のコミュニケーションにはチャットを入れたほうが便利になるんじゃないかといった感じで、一気にIT化を進め、大きな導入効果を図ろうとしてしまいがちです。しかし、一気に変えるやり方は、ただ現場に混乱を招くだけになります。
IT化をすることで通常の業務フロー自体も従来とは違う方法となります。ただでさえ、IT化に否定的な従業員に今までとは違う業務フローに変更してもらい、さらに慣れてないシステムを1つだけではなくいくつも使わなければいけない状況にしたら、さらに抵抗感をもたせてしまうのは当然の結果となります。
そのため、まずは小さくシンプルにスタートさせます。実際にシステムを使う現場の従業員にとって、変化に対する違和感を抱きにくく、かつ、IT化による効果が実感しやすいところからシステム化するのをお勧めします。
例えば、お客さんからの電話を担当営業に取り次いだり、電話があったことをメモに残したりといった作業は、時間と手間を取られがちです。これをビジネスチャットを導入し、電話があったら、担当営業にお客様の名前と電話番号をチャットで知らせるようにします。すると、営業は外出先で電話があったことを知ることができ、番号をクリックするだけでその場ですぐにお客さんへ電話をすることができます。さらに、お客さんからするとすぐに返信をもらえたことで満足度が上がるという効果も期待できます。
これだけのことでもできるとわかれば「便利だ」と感じてもらい、システム化の効果を実感し、IT化への抵抗感も薄れていきます。
寄り添って成功体験を経験してもらう
システムの開発が終わり、導入段階に入った際に実際の運用をすべて現場の従業員に丸投げをしてしまうのもIT化の失敗に繋がります。経営者やIT化担当者がいくら熱意を持ってシステムを導入したとしても、丸投げをされた現場にはその熱意は伝わりません。現場がシステムを使えるようになるまで、経営者とIT化担当者は寄り添ってサポートをしていく必要があります。
導入するシステムに対する説明会を開くのはもちろん、パソコンやスマートフォンの操作に慣れていない人向けに勉強会や個別指導を行ったりするのもよいでしょう。そして、ポイントとしては操作方法を教える際にはネガティブな言葉はできる限り使わないことです。たとえば、顧客管理システムに顧客情報を登録してもらうとしましょう。パソコンに不慣れな人だと、多少操作に手間取ったり、誤字などがあるかもしれませんが気にせずまずは登録をしてもらいます。登録作業が終わったら、その次に間違えて入力してしまった文字を修正する作業をやってもらい、変更作業を覚えてもらいます。すると、登録した後に間違えたとしても簡単に直せるんだという安心感をもってもらえ、更に登録・変更という作業自体も覚えてもらえます。
また、登録作業で操作ミスが起きたり、手間取ったりしたところは、必ずチェックをして、システムの改善材料にしましょう。例えば、入力項目で必須項目を表すのに「*」マークをつけているのに入力漏れがあって登録エラーとなるケースが多く見受けられたとします。その場合は、「*」マークだけではなく「*この項目は必須項目です」といった文言を追加して、必須項目だとわかりやすくする改修をすることで改善できるかもしれません。
このような小さなシステム改善と手厚いサポートで苦手意識が払拭され、前向きに利用してもらえる早道になります。急がば回れの気持ちが大事です。
今ではなく将来に目を向ける
IT化に抵抗する原因として「システムが導入されることで自分の仕事が奪われてしまう」という保守的な考えがあると述べましたが、こう考える人に業務効率の話をしてもなんの説得材料にもならないでしょう。
この問題を解決するのは、IT化担当者ではなく経営者です。経営者が「何のためにIT化をするのか」「IT化によってどのような将来が待っているのか」について熱意を持って説明しなければいけません。
営業成績は抜群だけど、顧客情報は自分だけで管理し、共有したがらない従業員がいるとします。その場合は「IT化することで業務のムダを省き、効率化することで今より多くの時間を営業活動に使えるようになりますよ。そして、余裕ができた時間を使って新しいビジネスモデルのアイデア出しをしてもらい、新事業の創出に貢献してくれることを期待しています。」というように伝えます。営業担当としてだけではなく、新事業にでも活躍してもらえるプレイヤーであるというイメージを持ってもらえれば、やりがいを感じてIT化に取り組む意義や価値を理解してくれると思います。
現場は経営者の覚悟を見ている
IT化による業務改善を成功させるためには「何のためにやるのか」という目的を常に明確にし、その目的に向けてどのような手段を考えていくのかが重要だと書かせていただきました。IT化を進めていく中で「このシステムを導入すれば100%業務改善が実現される」という銀の弾丸は存在しません。
仮説を立て、実行し、失敗した場合は失敗した理由を分析して、次の成功に向けて、また仮説を立て、実行するということを繰り返していって、IT化による業務改善は成功していきます。実際に業務改善を実施していくのは現場の従業員の方たちです。失敗と成功を繰り返していくという地道な作業を従業員にやってもらうためには経営者自身が熱意を持って、「何のためにIT化をするのか」を説明し、先頭に立って動くことが最も重要です。
現場の従業員は常に経営者を見ています。ですので、経営者が覚悟を持ってIT化を進める姿を見せ続ければ、必ず協力をしてくれるはずです。
著者・四宮 靖隆(しのみや・やすたか)
株式会社 ジョイゾー 代表取締役社長
1976年生まれ。1999年、新卒でシステム開発会社に入社。社内インフラ業務に従事し、基礎知識を得た後、2003年に独立系SIerに転職。インフラの知識を活かしてサイボウズ社『ガルーン』の構築や移行の案件に多く携わる。その後、個人事業主を経て2010年に株式会社ジョイゾーを設立。『kintone』がリリースされた2011年以降は、『kintone』案件をメインビジネスに据え、今日まで成長を続けてきた。『kintone』元エバンジェリスト。著書に「御社にそのシステムは不要です」(あさ出版)がある。