CDPがビジネスに与えるインパクト

DMPと比べてCDP導入の主なメリットは「リアルタイム」と「One to Oneマーケティング」の2つだ。改めてCDPとDMPの比較をまとめると次の通りになる。

略称 正式名 概要 目的 基本機能 収集データ(例)
CDP Customer Data Platform リアルタイムにオンラインおよびオフラインのデータを収集し、統合された顧客プロファイルを生成 オムニチャネル・マーケティング(新規顧客獲得・エンゲージメント深化・既存顧客リテンション) 1stパーティデータをあらゆるデータソースから収集・統合 名前、メールアドレス、電話番号、オンライン購入履歴、メール開封履歴、ページビューなどWebサイトアクセス解析データ
DMP Data Management Platform 匿名のサードパーティデータを元に顧客セグメントを作成し、リターゲティング・キャンペーンに活用。 リターゲティング(新規顧客獲得) 3rdパーティデータ(クッキー)を活用し顧客セグメントを作成 クッキー、IPアドレス、端末ID

ここで、気を付けていただきたいのは、CDPの定義がベンダーによってまちまちなことだ。これは既存のDMPベンダーがCDPに対応するため、既存のサービスを言い換えているだけであったり、既存のシステムを増築・改築して都合のよい定義を謳っていることがある。 CDPについては、ベンダーニュートラルな組織であるCustomer Data Platform Instituteが定義している。例えば、リアルタイムについては彼らが提唱するREALCDP? Definitionの6つのケイパビリティのうちの一つだ。

このように導入しようとしているCDPがきちんとCDPの定義に当てはまっているかを注意してほしい。

1.リアルタイムの重要性

ユーザ側の立場になって考えれば明らかなことで、例えば家電製品を昨日購入しようとWebで複数製品を比較検討し、家電サイトで購入した場合、今日も家電製品の広告が出てくるのはうんざりするだろう。

これは、DMPの場合、過去の匿名化されたユーザ行動でのみセグメント化がされているからだ。CDPでは個人を特定し家電製品を買ったという情報をリアルタイムに扱えるため、既に買った商品を再び表示するというような、不快な広告を抑止できる。

2.真のONE TO ONEマーケティング

DMPの場合、ユーザの過去の行動からセグメント化を行う。一見これは理にかなっているようにも思えるが、そもそもセグメント化という行為そのものが現代にマッチしなくなってきている。

皆さんもご存じのとおり、多様性が重視される時代だ。今は働き盛りの30代から40代の男性のほとんどが、毎日夜はビールを飲みながらテレビで野球観戦を行い、休日はゴルフに出かけるため車を持っているわけではない。

飲酒する人や車を所有する人は年々少なくなってきており、過去はそうなるだろうと思われた「統計的優位性」は失われつつある。そもそもこのセグメント化自体、システムにおけるパフォーマンスの制約上、個人情報を瞬時に判別するというリアルタイム性が確保できなかったために編み出された手法に過ぎない。

本来であればセグメント化せずに、一人一人にパーソナライズされたマーケティングをするほうが売上は上がるはずだ。例えば、ブランドショップの店員が来店した客をひとまとめにして商品を進めることは無いだろう。店員は一人一人に対して、バッグを買いに来たのか?財布を買いに来たのか? それともコートを買いに来たのか?丁寧に接するはずだ。

このように一人一人にパーソナライズされた「接遇」が今のマーケティングにも期待されている。STEP3でご紹介した通り、プライバシーに関する懸念はあるものの、消費者の61%が「お気に入りのブランドからパーソナライズされたコンテンツ提供をしてほしい」と回答しているデータもある。

CDPと個人情報、セキュリティについて

ここまで読み進めてきた方の中では、CDPは個人情報を保持することになるのでリスクが高いシステムになるのではないか? と考える人もいるだろう。

「大いなる力には、大いなる責任が伴う」と昔から言われるとおり、個人情報を扱うには技術的要素に加えて法的要素も加わる。だが、よくわからないので手出しはやめようというわけにはいかない。

2022年4月には、改正個人情報保護法が施行され、個人のプライバシー情報になるサードパーティデータを、その個人に断りなく勝手に第三者に提供したり、活用を促したりすることができなくなる。個人から使用許可を取っていないサードパーティデータを統合したDMPを、自社Webサイトのパーソナライズに利用というわけにはいかなくなる。

個人情報の利用だけでなく、ユーザーからの個人情報の開示請求についても改正されている。第三者に個人情報を提供する時に義務付けられている「第三者提供記録」についても開示請求できるため、仮に開示請求があった場合に対応できないという事態にもなりかねない。

このように「触らぬ神に祟りなし」ではなく、なにもしないことこそがリスクになり得る。

CDPはSaaS化されているものであれば、自社でセキュリティ管理にコストをかけずに外部委託することが可能だ。安易に個人情報は重要な情報なので自社インフラに持とうとすると、想定外のコストがかかることにも注意してほしい。

今後のCDPとマーケティングトレンド

法改正やブラウザのクッキーの取り扱いが変更されることにより、自社や他社のデータを闇雲に収集し、精度がわからないターゲティングを推進する施策は過去のものとなった。これからはCDPによる一人一人にパーソナライズされた新時代の顧客体験型マーケティングが行われるだろう。

また、CDPはマーケティング以外での活用も可能だ。データサイロ&ピープルサイロを超えるために外部システムの連携、データの自動同期といったような基盤機能を活用し、ただのデータを収集・統合する「箱」としてではなく、DXを推進するためのビジネス意思決定プロセスの可視化としての共通コミュニケーション基盤としても活躍できるだろう。 意思決定の速い企業は既にCDP導入を始めている。ITRによると2020年度のCDP市場は顧客接点のデジタル化の動きにより、前年度比16.6%増と高成長、2021年度は同18.4%増とさらなる高い伸びを予測している。

  • 顧客体験パーソナライゼーション成熟度モデル

CDPは今後、マーケティングだけにとどまらず、自社で収集したファーストパーティデータを活用できる、企業にとって必要不可欠な基盤システムの一つとなっていくだろう。

著者:山本 誠樹 サイトコア セールスグループパートナーテクニカルイネーブルメントマネージャー

通信系システムや会員管理サービスの設計・開発から保守まで、システムエンジニアとして様々なプロジェクトに約20年従事。近年はクラウドにフォーカスしたコンサルティングを小売・流通・電力系など業種を問わず行う。
2013年から2021年まで8年間、Microsoft MVP for Microsoft Azureを受賞。2021年7月より現職。