今回のテーマはハプティックだ。
その前に、この連載もこれが今年最後の更新となる。思えばこの一年、当コラムは表現規制との戦いであった。なぜクライアントと戦わないといけないのか意味がわからないが、昔から意図不明の戦いばかりしている人生なのだ。
今回もハプティックにちなんで、○○○○○バーの話をしたら「無理です」と言われ、全削除の憂き目を見た。何の話をしようとしたかについてはもう触れないが、今後、そういう方面の話をしたいときはセクシーなどというノーセンスな表現はやめて、ハプニング、またはサプライズと言いたいと思う。
触るという「ワンランク上」の行為
意思表明が終わったところで、ハプティックだ。
ハプティック: 利用者に力、振動、動きなどを与えることで皮膚感覚フィードバックを得る技術(ハプティクス研究センターWebサイトより引用) ちなみに、この単語の商標はアルプス電気が取得している。
シンプルである。ハプティックとは所謂「感触」を通じて情報を伝達する技術だ。我々が何かしら情報を得るときは、まず、見る、聞く、あたりからだろう、その次に「触る」だ。
初見の物はまず触るし、口に入れるという奴は多分長生きできない。じゃあまず目で「この女は巨乳だ」と確認した後に触ればいいかと言うと、それはそれでお縄の恐れがある。どちらにしろ「触る」というのは、見る、聞くよりワンランク上の行為と言える。
このハプティック技術は、もう大分昔からエンタメ方面には取り入れられている。コントローラーが振動するゲーム機などがその走りだ。しかし、その後一般ゲーム機において、ハプティック技術が積極的に取り入れられているかというと、振動以上のものは私の知る限りではあまり見ない気がする。
だが、おっぱいマウスパッドなどがあるのだから、人が「感触」を求めていないかと言うとそんなことはないだろう。少なくともおっぱいは求められている。
そしてハプティック技術自体も「振動を伝える」などよりさらに進化しており、温度や堅さ、手触りなどをリアルに表現できるようになっているらしい。つまり、今後ゲーム機のコントローラーが、場面に応じて熱くなったり柔らかくなったりする日がくるかもしれないということである。
先端技術と楽しさは別問題
しかし、技術がすごいのとそれが楽しいかどうかは、全く別問題である。
例えば、ゲーム中で主人公が手鼻をかんだ感触がリアルにコントローラーから伝わってきたら嬉しいか、というとそうでもない。おキャット様が吐いたゲロを素手でキャッチする感触が伝わってくるというなら楽しいかもしれないが、「そこまではいらない」と思う人もいるだろう。
せっかくすごい技術で可能にしたハプティックも、「うぜえ」とオフにされたら意味がない。やはりそれがエンタメとして楽しいかどうかが重要だ。
何が言いたいかと言うと、その技術が「乙女ゲーに使えるか否か」が重要なのである。むしろ世の中の技術は、乙女ゲーに使えれば有益、使えなければ無益だ。
もちろん、壁ドンされたらコントローラーが振動するなどという屁ぬるい技術などお呼びではないし、それはもうありそうだ。
現在の乙女ゲーには、「おさわり」が大体標準装備されている。何を言っているかわからないと思うが、スマホなどに表示されているキャラクターにタッチするとそのキャラは「さわられた」という体で反応するのである。ゲームによっては「さわる」というレベルを超えており、もはやハプニングレベルで撫でさすることができる。
この「キャラに触る」という行為を、ハプティック技術でもっとリアルに出来ないだろうか。例えば、キャラの頬をつついたら、画面が頬の柔らかさになるなど、部位によってリアルな感触を楽しめるというのはどうだろう。もちろん、ハプニングな部分を触ったらサプライズな感触だ。
もっと進化させようと思ったら、指先だけの感触など生ぬるい。コントローラーを抱き枕大にして、ギャルゲーでヒロインを抱きしめるシーンになったら、そのコントローラーが本当に人間のような柔らかさ、温度になるというのはどうだろうか。言っておくが、決して、オランダワイフの話をしているのではなく、あくまでゲームのコントローラーの話だ。
多分このまま進化していけばそれも可能になるとは思うのだが、プレイしているところを絶対に人に見せられないという弊害がある。しかし、逆に「思う存分、あのコントローラーを抱きしめるために一人暮らししたい」という自立心に繋げることもできる。
何かと青少年の健全な育成を阻むものとして槍玉に挙げられがちなゲームだが、このように成長に一役買うこともあるのである。
<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。
「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年1月10日(火)掲載予定です。