今回のテーマは「コネクテッドカー」である。カーというからには、車のことだろう。

私もカーは持っている、何故なら、車がなければ仕事はもちろん、買い物や病院にも行けず、即身仏待ったなしという僻地に住んでいるからだ。

未来の自分は「想像がつかない」ものである

当方の30年ローンの家の前にも、徒歩やチャリではどう見てもキツイハードな坂がある。今は良いが、年を取って車が運転できなくなったら、どうするつもりでそんなところに家を建てたかと言われると、「そうなった時に考える」というつもりで建てた。

考えてみて欲しい。女子高生の時に、自分が30代のBBAになった時のことなど想像がついただろうか。むしろ「私はBBAにならない」とさえ思っていた。しかし、現になった。今は「自分が車も運転できぬほどの老人になるなんてことはない」、と思っている。実際にはなるのだが、それは今想像がつくものではない。アクセルとブレーキを間違えて踏み、コンビニに突っ込んで初めてわかることだ。

これから超高齢化社会を迎えるにあたり、どんなにハイテクを搭載した車であろうとも、「ジジイババアに使いこなせないようでは意味がない」ということになる。複雑な機能がついた車より、「ボタン一つで峠が攻められるシニアカー」の方が売れる。

その究極が、今開発の進められている「自動運転車」だろう。まだ危険要素は多々あるようだが、将来、道路中に高齢者ドライバーが跋扈し、轢くも老人、轢かれるも老人という戦国時代に突入、「轢かれる前に轢け」と老人たちが改造キャデラックを乗り回しはじめる未来が容易に想像できる。それよりは自動運転にしてしまったほうがよほど安全というのもわかる。しかし、コネクテッドカーというのは、自動運転とも関係があることにはあるが、それとはまた別の要素も含む話のようだ。

「ネットにつながった車」の利点

コネクテッドカーというのは、簡単に言うとインターネット機能のついた車のことである。インターネットの使い道ランキングの不動の第一位はもちろん「セクシー探求」だが、コネクテッドカーならカーナビのモニター上でセクシー動画がヌルヌル動く、というわけではない。そんなことをしたら余計事故る確率が上がる。コネクテッドカーが持つ機能とは、一位と大差をつけられての二位「情報やデータの収集と発信」である。

ただ情報を集めたりするだけならスマホやPCで事足りるし、セクシーも落ち着いて探せるではないかと思うかもしれないが、もちろん車についているからこそ意味がある機能を搭載しているのだ。

まず、仮に事故ったとする。するとコネクテッドカーから「事故りましたよ」という情報が自動的に警察や消防へ送られ、速やかに救急車や消防車、霊柩車などが駆けつけてくれるというわけだ。

これは便利である。事故をした時というのは、誰しも気が動転している。事故った時点で意識不明、ないし死んでいるというなら「後はまかせた」ということで対処は他人に任せられるが、運悪く五体満足で意識がはっきりしている場合は、自分で何とかしなければいけない。だが、正直冷静に対処できる自信はゼロであり、117にかけて正確な時刻を把握してしまうのが関の山だと思う。自分が死にそうなときはもちろん、交通事故加害者になってしまった時でも、速やかに救急が呼べるというのは非常に助かる機能である。

オススメされても選べない選択肢

また、コネクテッドカーは盗難などの犯罪被害防止にも役立つ。まず、車がパクられた場合、車に通信機能がついているのだから、今その車が今どこにいるのか追跡できる。車そのものの盗難以外でも、車上荒らしなど、車に何らかの危害が加えられた場合、まず持ち主のスマホなどに「あなたの自慢のレクサスに今まさにウンコマークが描かれようとしています」と通知される。そこまでディティールを伝えるかどうかは知らないが、とにかく一報が入る。もちろんそれを伝えるだけではなく、こちらの要請に応じて警備員などを派遣し、犯人が巻きグソの二段目を描いているあたりで阻止したりできる、というわけである。

また、アメリカの保険会社では、コネクテッドカーで運転者の運転傾向を分析し、それに応じた保険料を算出するというサービスを行っているという。お前の運転の仕方だとこういう事故を起こしそうだから、「気をつけろ」と注意するのではなく、「この保険に入っておけ」とオススメされるのだ。「死ぬんだから墓石を買っておけ」と言われているような気がしないでもないが、車両保険は自分のためはもちろん、事故相手のためにも重要なものである。

しかし、私は、コネクテッドカーにいくら「お前にはこの保険会社のこの保険が最適」と言われても、選択肢がない。何故なら家人が保険関係の仕事をしているから、その保険以外入ることはできないのだ。

余談だが、どんなにしつこい保険の勧誘も、「親戚が保険関係なんで」と言うと一瞬で引いていく。逆に言うと、保険会社の間にはそれだけ強い暗黙のルールがあるということで、家族が働いている保険会社以外の保険に入るというのは、打ち首獄門クラスの咎なのだろう。もしこれを破ろうものなら、保険金を請求する時の事故理由に、「貴社の保険に入ったため、他の保険会社に勤める親族から暴行を受けた」と書く事になるような気がする。

車がネットにつながっていろいろな情報が分かるようになっても、それを選択できるかどうかはまた別の問題だったりするのだ。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年12月6日(火)掲載予定です。