今流行りのIT用語をサーチする、情弱必見コラム。今回のワードは「FinTech(フィンテック)」である。
まずフィンテックが何であるかの前に、「それ、本当に流行ってんのか」と聞きたい。全くもって初見のワードである。
意味はさっぱりわからないが、会話中に「そういえばフィンテックがさ」などと言い出す奴とはそもそも生活圏が違うということだけはわかるし、逆に私が「ニンニクマシマシ、アブラマシマシ、麺はフィンテックめで」などと言ったら、よくわからないけどムカつくという理由で前歯を折られる自信がある。
もっと簡単に言うと、「フィンテック」からは意識高めの匂いがプンプンするのだ。おそらく流行っていると言っても、六本木ヒルズ内で流行っている言葉なのだろう。つまり、意識が低い上に情弱、さらに「意識が高い人間は六本木にいる」という発想の私が理解するにはかなり厳しい言葉であるところまでは絞れてきた。
それでも一応推測してみるなら、フィンテックの「テック」はテクノロジーであると予想される。で、「フィン」は何かというとはっきり言ってフィンランドぐらいしか思いつかないし、フィンランドと言えばサウナぐらいのイメージしかない。
これらの推理を総合すると「フィンテック=サウナ技術」となってしまうのだが、明らかに六本木ヒルズから遠ざかっていく音が聞こえるので、予想はここまでとしておく。
フィンテックの意味とは?
Google先生の力を借りたところ、フィンテックの「テック」は予想通り「テクノロジー」、そして「フィン」とは「ファイナンス」の意であった。さすがに「ファイナンス」は耳にしたことがある。しかし「意味は?」と問われると「闇金が怪しさを緩和するため社名に使いがちなワードです」としか答えられない。
そこでまず「ファイナンス」の意味を調べる。ファイナンスとは日本語にすると「財源、資金、財政、金融」、つまるところ金である。金のことなら得意分野だ。ただし消費専門であり、稼ぐ方と貯める方は他の人に任せたい。
要するに、フィンテックというのは「ITを使った金融技術」の総称ことである。もちろんそれは他人のLINEを乗っ取って「Google Playギフトカードを買うのを手伝ってください」と持ち掛ける技術のことではない。私はどちらかというとそっちの技術を高めたいのだが、残念ながら法に触れているという問題点がある。
では、そのフィンテックとやらが何の役に立っているかと「とにかく金が払いやすくなる」のだ。スマホが出てくる前に登場した「おサイフケータイ」はフィンテックの走りであり、「Facebookで送金」などもその一種だ。
まさに「200円の買い物をするのに50円玉4枚を出す、財布パンパンな俺たち」に朗報、と言った技術である。フィンテックが進めばもはや現金を持つことすらなくなり、レジで「あっ3円あります (10秒経過) やっぱりありません」というこの世で最もダサい間を作り出すことなく決済ができ、六本木ヒルズに一歩近づくというわけだ。
クレカ番号という「お経」と課金衝動
しかし「金が払いやすくなる」のには、とても大きなデメリットがある。それは「金がなくなる」ことだ。払いやすければ払ってしまうし、払えば金がなくなる。実にシンプルだ。しかも、主に海外では、複数のクレカをスマホ1台で管理できるサービスもあるらしい。クレカというのは、今現在手元にはない未来の金まで使えてしまう魔法のカードなので、その利用を促し、限度額を数の力で引き上げるテクノロジーは危険としか言いようがない。
そもそも商売というのは、いかに相手が冷静になる前に金を出させるかの勝負だ。そもそも、全人類がいつも冷静で真顔だったら、衣食住にしか金を使わないため、経済が回らない。よって、商品(主に娯楽品、必需品ではないもの)は、まず人の冷静さを欠かせ、興奮させるものでなくてはならない。そしてそれが冷めるより早く、スムーズに金を出させるシステムが必要なのだ。
例えばネットサーフィンをしているとき、画面下に表示されるエロげな漫画のバナー。あれには辟易している人も多いと思うが、私は意外と衝動的に買ってしまうタイプだ。
ただし、ああいった衝動は嵐のように激しく起こるが、同時に冷めやすい。良さげなエロバナーを見て「今夜はアツくなりそうだ!」とクリックした次のページで「まずは会員登録してください」と表示された時点で読む前から賢者モードだし、「クレカ情報を登録してください」などもっての他だ。何しろ、クレカ番号だけで16桁もある。エロを一秒でも早く見たい人間にとって、あれは「経を唱えてください」と要求されているに等しい。そのため、私は何回もエロティック漫画の購入を断念しているのだが、逆に無駄遣いせずに済んだと言える。
それがフィンテックの発達により、エロバナーをクリックしただけで「お前が何者でもいいし、クレカすら持てない不安定な自由業でも構わん。料金は自動的に携帯代に加算される」とばかりに一瞬で買えてしまったら、完全に破産である。
だが、すでにこの「携帯代に加算」システムはかなり定着してきており、ソシャゲの課金はクレカ番号など入れなくても携帯代に自動加算される。一瞬で課金でき、全く人に冷静になる間を与えない。冷静さを欠きがちな人間はかなりまずいことになると思う。
かく言う私もソシャゲにはかなり課金してしまっているが、それでもまだ破産に至らず済んでいるのは「そもそもクレカに関わらず後払いが好きでない」という理由がある。携帯代に加算されるのも、結局は後払いだ。
これは上の世代に行くほど顕著であり、私の親などはクレカすら持っていない。そういう人間はまず、Google Playギフトカードなどを現金で買い、課金するのだが、もちろん買いに行く間に冷静になることもある。
よって、現金を使わない方向で「フィンテック」を進化させるのも良いが、逆の発想で、スマホに直接現金をねじ込めるシステムを開発してはどうか。日本は高齢化社会であるから、そのぐらいわかりやすい方が、ソシャゲ課金やネットショッピングなどでより効率よく集金できるのではないかと思うし、少なくとも私は破産する自信がある。
<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。直近では、猫グルメ漫画「ねこもくわない」単行本が4月28日に発売された。
「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年5月24日(火)掲載予定です。