今回のテーマは「兼業漫画家の体調管理」である。風邪などの疾病などに見舞われないためにしている食生活、生活習慣などの工夫について講釈を垂れろ、ということらしい。

しかし、結論から言うと何もしていない。特に食生活など、依然として主食はペペロンチーノなので、ムチャクチャとしか言いようがない。

人生というクソゲーをやり抜くために

じゃあ不健康なんじゃないか?と言われると、もちろん不健康だし、早死にするだろう。さらには突然死も十分あり得る。そして私の急逝の報がTwitterなどで23リツイートぐらいされ、ブラックサンダーを主食とする作家が「やっぱ健康に気をつけなきゃダメだよね」と感化されて主食をわさビーフに変える(芋+わさび=サラダの感覚)ぐらいで、すぐ忘れられるだろう。

つまりこのお題は、童貞に女体の神秘について語ってくれと言っているようなものなのだ。

とはいえ、そう簡単に体調を崩していては、仕事が出来ず、今度はご飯が食べられないという理由で人生が終わってしまう。

そのため、健康に気を付け、一番健康を害す原因である仕事をするという、自分にホイミをかけながらイオナズンを落とすようなことをしながら、毎日ご飯を食べているわけだが、毎日頑張ってご飯を食べ続けた結果どうなるかというと、今度は寿命などで死ぬ。

つまり人生というのはどっちに進んでも最終的にデッドエンドというクソゲーであり、文字通りそれを死ぬまでプレイしなければいけない。だが、終わりが決まっていてもその過程を出来るだけ悲惨じゃなくするために、とりあえず健康を保ち、目の前の原稿を期日通り仕上げなければならない。

その為に私が実践している健康法は「病気にならない法」である。

カレー沢氏が実践する「健康法」

病気になっては、仕事が出来ぬ。ならば病気にならないようにする。まさにシンプルイズベストな方法が「病気にならない法」だ。 この「法」の特徴として、病気にならないための対策は特にとらない。期日に間に合いそうになければ飯も食わずに徹夜をするだろうが、とにかく病気にならないようにするのだ。

読者の中には「いや、なるだろう」と思われる方もいるかもしれない。確かに毎日「病気にならない法」を欠かさず実践していても、謎の咳、くしゃみ、発熱、めまい、腹痛、心肺停止など起こってしまうことがある。しかし、体調管理に細心の注意を払っている作家はもちろん、そんな時のリスクヘッジも用意している。

そうなった際、次に用いられるのは「これは病気じゃない法」である。

発熱やめまいを覚えるが、これは断じて病気ではないということにする健康法である。病気でなければ仕事はできる。確かに立っていられないほどのめまいを覚えるが、原稿は立ってやる必要はないので、いつも通り原稿を描くのである。もちろん病院になど行かない。そんなところへ行ったら病名がついてしまい「病気じゃない法」が使えなくなる。一番やってはいけないことだ。

最終的に死ぬにしても、その過程を楽しいものにしたいと思って生きていたはずが、これらの「健康法」を実践した結果として、楽しくないものの代表格である仕事を最優先した上に死期まで早めるという、ただでさえクソゲーなものを、高タイム・低スコアクリアしてしまうことになるのだが、日本には作家のみならず、こういうプレイヤーが数多く存在すると思う。

そして私自身は、極限状態に類するような無理をしたことはない。健康体の時の絵と40度の高熱がある状態で描いた絵の質がほとんど変わらないという安定した低クオリティのため、多少の熱があっても休みはしないが、徹夜はしたことがない。

しかし、徹夜しなければ間に合わないという状況になれば、やはりしてしまうと思う。なぜなら「期日を守れない」というのは最も避けたいことだからだ。もし私が作家を使う立場だとして、期日を守らない奴には仕事を回したくないと思うだろうし、そもそも原稿を落としたら、その原稿料は支払われない。

結局、健康を犠牲に仕事をしても鬼籍に入るし、健康を優先して仕事をしなくても彼岸の人になるのである。

ならば、どうせ結末が同じなのだから、病気の時ぐらい休むのが正しいという結論になりそうだが、困ったことに自分の休養が他人のデッドにつながることもある。例えば漫画家の絵が上がるのを待っていたデザイナーは、漫画家が急きょ休んだ上に納期が変わらなければ完全に「完」なのである。

このように、個人の人生のみならず世界は全て死につながっており、大手が孫孫孫孫孫孫孫請会社に作らせたクソプログラミングのような代物なので、だったらもう自分の好きなようにやる、となって、私は毎日ペペロンチーノを食べてしまうのである。

しかし、好きにやったため健康を害したり急死したりすれば、やはり後悔はすると思う。だが、特に健康関係というのは痛い目にあわないと大切さがわからないものなのだ。

もし私の訃報がTwitterなどに流れてきたら、どうかたくさんリツイートして欲しい。三度の飯よりTwitterとエゴサを愛した故人への一番の手向けである。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。連載作品「やわらかい。課長起田総司」単行本は1~2巻まで発売中。10月15日にエッセイ「負ける技術」文庫版を発売した。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年2月23日(火)掲載予定です。