今回は仕事の息抜きの話である。

息抜きとは、仕事をより効率よく行うために必要不可欠な行為だ。しかし、私ほど息抜きに本業が圧迫されている作家はいないと思う。全く休みがない、どこにも出かけられないと嘆いているが、この息抜きの時間を減らせば余裕でバリ島ぐらいには行けるはずなのである。

とにかく集中力がない。1コマどころか、1本線を引くごとに10分は息抜きしてしまう。本当に集中したいなら、今すぐネットのLANケーブルを斧で両断し、スマホを手刀で真っ二つにすべきなのだが、私がネット回線を絶つのはバトル漫画でいうところの「身に着けていた重り」を外す行為に等しく、生死を分ける強敵(締切)に出会うまでは絶対にはずさない所存である。

創作の息抜きは「エゴサーチ」

では具体的に何をしているかというと、最近では女性に大人気のブラウザゲーム「刀剣乱舞」にはまり、その二次創作漫画を描くことにより本業の漫画を描く時間が圧迫されている、というわけのわからない状態にあるものの、一番の息抜きは「エゴサーチ」だ。

エゴサーチとは、ウィキペディアによると「インターネット上で、自分の本名やハンドルネーム、運営しているサイト名やブログ名で検索して自分自身の評価を確認する行為」である。つまり、線1本描くごとに、Twitterで自分のペンネームや作品名はもちろん、時にはキャラクター名さえも検索し、自分の評価を調べているのである。

見る人が見たら確実に病名がつきそうな状態だが、何せ漫画家は人気商売なので、世間の評価はどうしても気になる。褒めてくれているツイートを見ればやる気が出るし、逆に酷評するような物があれば、作品で見返してやろうと思う……ことはなく、「こいつに口内炎が7個ぐらいできますように」と呪詛を飛ばすぐらいだが、とにかく何らかのモチベーション向上につながるのだ。

そして約5年にわたり、365日、1日も休まずエゴサーチをし続けた結果わかったことは、「良くも悪くも話題になるのは難しい」ということである。

月刊漫画誌デビュー、その時ネットの反応は…?

Twitterに投稿されたアルバイトの悪ふざけ画像が大拡散、大炎上し、社会問題にまでなったこともあり、ネット上に何かを出すとあっという間に広まってしまう、という印象があるかもしれない。逆に良作がネットで広まり世に出るパターンもあるが、はっきり言ってそれはごくごく一部である。

私が漫画家デビューした雑誌は、発行部数こそあまり多くないが、人気作も多く輩出している月刊誌であり、もちろん全国発売されているものであった。よって、私は自分の作品が掲載される日まで、「載った途端、ネットで酷評、住所を即特定され、嫌がらせが山のようにくるだろう」と本気で悩んでいた。

しかし、いざ掲載され、おそるおそるネットで評価を調べて見ると、そこは静かな大平原であった。良いとか悪いとかいうレベルですらなく感想が「ない」のである。それぐらい「人の話題にのぼる」というのは難易度が高い。全国誌に一度載ったぐらいでは、誰も、一言も言及しない、なんてことはザラだ。

それから5年、大平原状態は今も続いている。30秒に1回のペースでありとあらゆるワードで検索し、たまに落ちている感想を「ありがてえ、ありがてえ」と拾い、ほぼひとつ残らずリツイートする毎日である。酷評もないが絶賛もない、ジョジョの吉良吉影が求めたような生活がそこにあり、この平和を全世界に届けたいぐらいだ。

平和は良いことだが、正直作家にとってはあまりよろしくない。賛否両論巻き起こるのは、それだけ人の目に触れているということだ。褒める感想が若干あるのみで悪評がないというのは、「変わり者のファンが3人ぐらいだけいる」という状態に等しく、その3人が全員石油王で単行本をひとり3億冊ぐらい買ってくれる場合を除き、そのうち干されてしまうだろう。

炎上もブレイクも"ホンモノ"に訪れる

発信元のネットだけでなく、テレビや新聞などでも見られるようになった「ネットで話題」というお手軽な言葉を聞くと、いとも簡単に話題になれるような気になる。だが、広まるのはやはり「実力のある良作」であり、それはネットもリアルも変わらない。「炎上商法」も同じことであり、バカのフリをして売名してやろうと思っても大半はシカトされ、数人の人間に「バカだな」と思われて終わりであり、やはり炎上するのはホンモノのバカ野郎なのだ。

日々、ネットで何かをきっかけにブレイクできないかと考えて過ごした5年であったが、結局、話題になるような良い作品を作るしかない、というのが結論である。しかしそれはなかなか難しい。なぜなら、30秒に1回エゴサーチをしているので、良作を作る時間がないのである。

これを見た皆様はぜひ、私の名前を入れてTwitterでつぶやいて欲しい、必ず見つけ出して見せる。ただし悪口はいらない。どうしても言いたいなら、次の日に口内炎が7個ぐらいできる覚悟で臨んでほしい。

カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。2015年2月下旬に最新作「やわらかい。課長起田総司」単行本第1巻が発売され、全国の書店およびWebストアにて展開されている。