今回も読者から寄せられたテーマで、「今まで断った仕事 についてお聞かせください」とのことである。

『ランボー 怒りのロハ仕事』

基本的には仕事は断らない。選べる立場でもないというのもあるが、仕事の依頼が来ると単純に嬉しいので引き受けてしまう。

漫画家生活において楽しいことのダントツ1位は「原稿料が入った時」だが、2位は「仕事の依頼があった時」であり、それ以外は同列ワースト1だ。

昔はスケジュールの都合上断ったこともあったが、今では「やればできる」ということがわかったので、とりあえず引き受けるか「今は無理だがいつごろならできる」と言うようにしている。ちなみに「やればできる」の「やれば」はお薬などの話ではない。

それでも断る仕事は何かというと、まずノーギャラの仕事だ。これはもはや仕事ですらない。Twitterなどをやっている皆さんなら、一度は作家が「ノーギャラで仕事をさせられた/させられそうになった」と激怒しているツイートを見たことがあるんじゃないだろうか。

同種の話は何度も見たし、どれも広く拡散されている。そろそろ皆「クリエイターはタダで仕事をさせられるのが大嫌い」とわかってもよさそうなのに、それでもまだタダ仕事で作家を激怒させ、Twitterで暴露される奴が後を絶たないのは逆に不思議である。それに、タダ仕事なんて皆嫌いだろう。クリエイターだけが例外なはずはないのである。

ここで持ち出されるのが「作家は好きなことを仕事にしているので金のことを言うのはおかしい、汚い」という理論である。そういう思想がますます作家の精神を怒りのデスロードへ導くのだ。

なぜ、月給が保障されている会社員より、明日も知れない社会保障もない作家の方が金にキレイだと思えるのか。むしろ金に超汚いと思ってしかるべきだろう。

しかし作家の方だって、金のことばかり言うのは下品だと思っている。後で齟齬が発覚してもめないためにも、仕事を受ける前に決死の思いで「ところで…ギャラの方は…?」と聞いているのだ。そこで相手に「え?お金とるんですか?」などと言われたら『ランボー 怒りのロハ仕事』の開戦である。(編集注:ロハ…タダ、無料を意味する俗語。「只」を分解するとカタカナのロとハになることに由来。)

やおら上半身裸にバンダナを締め、目の前で「お金は出せませんけど宣伝になりますしあなたにとってもプラスになると思うんですよー」などと言っている野郎の頭をAT4でぶっ飛ばしてやりたいところだが、そうもいかないので、やり場のない思いを「ランボー 怒りの長文連ツイ」として、Twitterに書きこむしかできないのである。

そういう私も、実は金のことはなかなか言えないタイプだ。今まで運よくそういう相手に遭遇しなかっただけで、実際そういう状況になったら何も言えずタダでやってしまいそうな気もする。

そこでそうなる前に、両まぶたへ「¥」マークのタトゥーを入れようと思う。これで口に出さずとも、こちらが瞬きするたびに「こいつはタダじゃやらないな」というアピールになるし、サブリミナル効果で相手がギャラのことを忘れるのを防止することもできる。この方法に関して権利を主張する気はないので、金の話がなかなかできない奥ゆかしいクリエイターの方はドンドンマネして欲しい。

なお、私の場合、例外として「連載の販促のため」とか、「読者プレゼント」とかならタダで描くこともある。また、現金は出せないが、女ないし子猫を抱かせてやると言われれば、やぶさかでない作家もいることだろう。

ロハと同様に罪深い依頼の内容とは?

次に断るのが、「私の作品を読んでいないのに来る依頼」である。そんなのあるのか、と思うかもしれないが、たまに不特定多数の漫画家に一斉送信されていると思わしき依頼が来るのだ。こういう依頼は、「既存作品を掲載させてくれ」というものが多い。

作家にとって、依頼してくる相手が自分の作品を読んでくれているのかは非常に重要なことなのである。「あなたの漫画読んでないけどうちで描いてください」という頼み方では、作家は100%気分を害すと言ってもいい。全部読めとは言わないが、ひとつぐらいは読んで、一言感想を添えるだけで心証は180度変わる。冒頭で「仕事の依頼が来たときが2番目に嬉しい」と言ったのも、ただ単純に仕事がもらえるからというだけでなく、自分の作品を気に入ってもらえたというのが嬉しいからだ。

「あなたの作品を読んでとても面白かったので、ぜひうちでも描いてほしい」と言われるのは、作家にとって非常に嬉しいことなのである。

しかしこれが「あなたの作品はとても面白いのでぜひうちで描いて欲しい、タダで 」になると、作品を褒められて上機嫌だったはずの作家は瞬時に半裸のバンダナ姿となり、頭をぶっ飛ばしにかかってくるので注意が必要だ。少なくとも、Twitterに晒されるのは覚悟しよう。「あなたの作品が大好きで大ファンなのでタダで描いてください」というのは、「友達だからタダでいいよね」と自分から言ってくる奴ぐらいに性質が悪い。

とはいえやはり仕事として漫画を描いているので、私の作品を好きだろうが嫌いだろうが、条件さえしっかりしていれば他に言うことはほぼない。あえて付け加えるとすれば、「あなたの作品は読んでないけど買いました」と一筆添えてくれれば喜んで引き受けるつもりなので、その点ご留意いただければ幸いである。


<作者プロフィール>
カレー沢暴力
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。連載作品「やわらかい。課長起田総司」単行本は1~2巻まで発売中。10月15日にエッセイ「負ける技術」文庫版を発売した。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は12月22日(火)昼掲載予定です。