確定申告の季節である。

確定申告というのは簡単に言うと、一向に芽が出ない作家が「今年もダメだった」ということを再確認するためにする行為だ 。

苦渋の「白色申告」

現在私は、確定申告を税理士などに依頼せず自分で行い、区分は「白色申告」である。もう少し厳密に言うとすれば、青色申告が全く理解できなかったための白色申告だ。白色申告と青色申告の違いは何かと言うと、とりあえず青色申告の方が難しいが税的に優遇されると思ってくれればいい。(ここでちゃんと説明できるなら青色申告をやっている)

一昨年「やよいの青色申告」というソフトを購入し、数十万の控除を手に入れた気分であったが、全くもって「ダイエット商品を買っただけで痩せたつもりになっているデブ」と同じであり、全く使いこなすことができなかった。こんなよくわかっていない状態で無理やり青色申告をしても、法を犯す恐れがある。ならば税理士に依頼すればいいのだが、今度は税理士に頼むほどの収入でもないという事実がつきまとい、幾重にもつらい苦渋の白色申告である。

漫画家の確定申告と言っても他の事業と変わらず、売り上げから経費を差し引いた物を申告し、税の還付を受けたり、さらに払ったりする。漫画家にとっての売り上げとは、原稿料、単行本の印税のことであり、ここ数年では電子書籍の売り上げの一部ももらえるようになった。(非常に限られているため)売り上げについてはそんなに迷うことはない。では経費はどうだろうか。

漫画家の経費と言えば、ペン、インク、スクリーントーンなどを想像されるかもしれないが、私は前回のコラムで書いた通り、すべての作業を「ComicStudioEX 4.0」という漫画制作ソフトで行っている。それと、私ほどの大作家になると、カラーページがもらえるのは1年に1度あるかないかであるが、いつ依頼が来ても良いように、カラー対応の「CLIP STUDIO PAINT EX」というソフトも導入している。これらのソフトは両方とも月額500円。つまり、固定費としてかかる作画経費は年間1万2,000円ということになる。いくら安い漫画しか描いていないとはいえ安すぎる。節税どころの話ではない。なので作画経費のほかにも経費を計上していく。

まず、私は自宅を仕事場にしているため、水道光熱費の一部を経費とする。また電話代、ネットのプロバイダー料金なども編集者とのやりとりに必要なので一部計上する。と言っても実は電話で話すことはまれであり、電話がかかってくるのは「連載打ち切り」等の言いにくい話の時のみ、という現状なのだが、そこまではお上も責めないであろう。

また地方在住なため、打ち合わせ等で上京する際の飛行機代なども経費である。不景気だからか昔からそうなのかは知らないが、交通費を出してくれる出版社は実は少ない。しかし出版社側も「打ち合わせのために4、5万自腹で払って来てくれ」とは言いづらいのだろう、どの出版社も気を使って「交通費が出る出版社との打ち合わせのついでにうちとも打ち合わせしてくれ」と言ってくれるのである。

結果、1泊2日の日程で、3社も4社も打ち合わせをすることになり、羽田空港のスタバで飛行機が飛ぶまでの1時間だけ、という、ラブホで会ってことが済んだら即帰るカップルのようなただれた関係になっていくのだ。

他細かい経費はあるが、主なものとしては以上である。今の漫画家はあまり経費がかからないのだな、と思ったかもしれないが、それは私が必要以上にシンプルな作風の作家だからである。

カレー沢薫、アシスタント募集を検討?

漫画家の最大の経費と言えばアシスタント代などの人件費であろう。いくら作画ソフトのおかげで作画時間が短縮されたとは言え、週刊雑誌でストーリー漫画を一人で連載するのはほぼ無理であり、多くの作家がアシスタントを雇っている。昔は原稿料がアシスタント代で消え、単行本が売れなければ餓死とさえ言われていた。自分などは人件費がないので原稿料がマイナスになることはないが、売れずに終わって、次の仕事がなければ緩やかに餓死である。餓死しかねえのかよ、と思われたかもしれないが、漫画家に限らずどの職業も失敗すれば同じことなので、漫画家を志す皆様は臆せず挑んでほしい。

ちなみに私は今までアシスタントを雇ったことがない。むしろあると言ったらふざけるなと殴られるレベルの絵であるため、今後しばらく雇う予定はない。しかしこの季節、経費の少なさに頭を抱えるのも事実なので、人件費計上のためアシスタントを雇ってみようかと思うことはある。

何も作画の手伝いだけがアシストではない。メンタルが弱い作家にペンを握らせるために、至近距離で24時間作家をほめたたえ続ける仕事、というのも立派なアシスタントである。ただ非常にハードな仕事のため、日給10万ぐらいでないと、なり手がいない気がするので、結局得にはならないだろう。

またそれを人件費と認めるかどうかは、お上の判断である。

カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。2015年2月下旬に最新作「やわらかい。課長起田総司」単行本第1巻が発売され、全国の書店およびWebストアにて展開されている。