今回は二次創作についてである。

二次創作と一次創作の違いとその楽しさ

二次創作とは、自分のオリジナルではなく、既存の漫画やゲームのキャラクターを使って、創作をすることだ。つまり、中学生の頃、誰に見せるわけでもなく大学ノートに描いた漫画でも、「『俺の考えた最強の超人』が異能力バトルを繰り広げるもの」なら一次創作で、「ジャンプなどに掲載されている漫画のキャラクターを使った、壮大なBLストーリー(人によって男女カップルだったり、女子同士の百合カップルだったりする) 」なら二次創作ということになる(ただし、10年後発見して悶絶するという点だけは同じだ)。

二次創作は楽しい。何せ、好きなキャラが好きなだけ描ける。「超絶萌えキャラに出会ったが、そいつを描くのはまずその後ろにいる名もないモブキャラをマスターしてから」という局面はまずない。

「そのキャラが好きなら、ずっと眺めていればいいじゃないか」、「なぜ貴様が下手に描きなおす必要がある」、「エロ本をそのまま使わず、模写して使うようなものじゃないか」などと思われるかもしれない。しかし、その好きなキャラを描くという過程自体が楽しいのだ。そのキャラへの愛をもって、世界一かっこよくしようと思って試行錯誤しながら描く。その時間が楽しいのだ。

だからもし、街中でエロ本を一心不乱に模写している人がいたら、その模写したものを使おうとしているのではなく、模写するという行為に興奮しているのであろうから、文句はつけずに、ただ通報だけしてほしい。

さらに、その好きなキャラを自分の自由に動かせるという楽しみもある。当たり前だが、他人が描いている 漫画のキャラは、自分の好きなようには動かせない。自分の望む展開にならないことも多々ある。しかし、自分で描く分には好きなように動かせる。

もっと端的に言うと、「このキャラのおっぱい見てえな」と思っても、その漫画が少年誌だったりしたらまず見せてくれない。よって、そのキャラのおっぱいを見ることなく一生を終えなければいけないのだ。そんなの理不尽すぎる、何のために生まれて来たかわからない。

ならば自分で描くか、作者を拉致監禁して描かせるかの二択となり、法律的な意味では自分で描く方がやや難易度が低い。もちろん、前者とて簡単ではない。最初から自分のイメージする理想のおっぱいが描ける者はいないだろう。描けたとしたら天才か、理想が低すぎるかだ。もう円が二つあれば良いと思っているのだろう。

このように、二次創作には、そのキャラが好きで好きでたまらないのに、その情熱に技術が全くついていかないという苦しみもある。芸術家のように描きかけのキャンバスを引き裂いたり、パソコンを爆破してしまったりすることもしばしばだが、上手く描けたときの感動もひとしおだ。

「人が立っています注意」

しかし、好きなキャラを好きなように描けると言っても、これはあくまで「自分一人で楽しむ」場合である。もちろん描くのは自由だが、それを人に見せるとなるとまた話は別である。

自分の友人知人に「こういうの描いてみたんだけど、どう思う?」とアニメキャラが触手にクチャクチャにされるエロ漫画を見せるのは、今後の人間関係に若干支障をきたす恐れはあるが、まだいい。不特定多数の人が見る場、特にネットに二次創作を載せる場合は色々と注意が必要だ。

二次創作のキャラクターは人様の物であり、自分の物ではない。仮に、私が自分の漫画に出てくる「クールで売ってる男性キャラ」に突然セーラー服を着せて登場させたとしても、作者である私が「こいつは最初からそういう奴だったんだ」と言ってしまえば、それは正しいということになる。

しかし、人様の創り出したイケメンキャラにシミーズを着せたイラストを描き、「こいつは絶対シミーズを着ている」と主張しながらネットにアップしたら、最悪の場合いわゆる「公式」から怒られるだろうし、仮に作者自身が二次創作OKと公認している場合でも、少なくともそれを見て不愉快に思う原作ファンがいると予想される。 なので、ボーイズラブ作品なら「※ボーイズラブ注意」、シミーズを着ているなら「※シミーズ注意」と最初に注釈をして、そういった物が苦手な人が見ないようにする配慮が必要となる。

だが、広いネットのことである。誰が何を不愉快と取るか全く予想がつかない。自分ではセーフと思っていても、アウトと感じる人もいるだろう。そう思い始めると、キャラが普通の格好で立っている絵を載せるのですら怖くなる。「※人が立っています注意」と書かなければいけないような気がしてくるのだ。

趣味嗜好に正義なし

そもそも、Twitterなどの誰でも見られる場に、注意が必要な絵を載せること自体が間違っており、「こいつは絶対シミーズ着てるよね」と思っている人間だけが集まる場でやり取りすれば良いと思われるかもしれない。しかし、そのコミュニティの中ですら、いつ「シミーズが白かピンクか」で戦争が起こるかわからないのだ。どちらが正しいとは言えない、あるいは意外にも紫かもしれない。白もピンクも紫も着ねえよ、という主張もあるだろう。しかし着てないとも言い切れない、もしかしたらスリップを着ているのかもしれない。

このように、二次創作におけるキャラの解釈、趣味嗜好は何が正しいとは言い切れず、やろうと思えばサウザンドウォーズに突入できるのである。こうなると、二次創作より一次創作の方が文句も言われず楽なんじゃないかと思われるかもしれないが、私が二次創作をする理由は、自分のオリジナル作品より二次創作の方がネット上でウケが良いから、と単純かつ悲しい事実があるからだ。

文句を言われないというのは、逆に「見ている人がいない」とも言えるのである。

カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。2015年2月下旬に最新作「やわらかい。課長起田総司」単行本第1巻が発売され、全国の書店およびWebストアにて展開されている。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は7月7日(火)正午掲載予定です。