今回のテーマは「産業用ロボット」である。
全然気が付かなかったが、担当曰く「今までロボットの話題は避けてきた」そうである。何故なら「ロボット」と一言で言っても種類が多岐にわたり過ぎており、厳密に言うのが大変難しく、不用意なことを書くと瞬時に「ロボット警察」が現れる、からだそうだ。
そんなに心配しなくても、当コラムに厳密なIT知識を求めに来ている奴はいないと思う。いたとしたら他を当たるべきだ。
それにしても学級会というのはどの分野でも起こる。世界平和が訪れないはずである。
子どもが見たらグズるかもしれない「ロボット」
そんな面倒くさいロボット分類のひとつが「産業用ロボット」だ。産業用ロボットとは人間の代わりに作業を行う機械装置である。
面倒くさいどころか、未だかつてなくシンプルだ。つまり現場で今まで人間がやっていた作業を代わりにやってくれるロボットである。しかしロボットというと、どうしてもドラえもんやガンダムなどを思い浮かべてしまうと思う。
今、「ガンダムはロボットじゃねえ」というお怒りの声が聞こえてきたが、ともかくロボットと言えば二足で歩き、何だったらしゃべるし、感情もある、と言った人に近いものを想像しがちである。
だが、産業用ロボットの大半はヒト型をしているわけではない。パッと見は本当に機械に近く、子どもに「ロボットを見せてやる」と言ってこれを見せたら普通にグズりだすと思う。
産業用ロボットはすでに自動車業界などで実用化されているのだが、産業用ロボットを使うことによってどんなメリットがあるかと言うと、危険な作業や重労働を人間にやらせる必要がなくなる、疲れない、人件費が削減できる、などが挙げられる。
労働者の賃金が高い国では、工場全体ロボット化させ、ごく少数の人間で運営している、というところもあるようだ。
人とロボット、「協働」の未来図
その一方で、人間とロボットが同じ空間で業務を行える「協働ロボット」も開発されているという。
従来の産業用ロボットでもその隣で人間が働いていれば、それはもはや協働ロボットなのでは、と思うかもしれないが、産業用ロボットは非常にパワーがあるため、何かあった時、人間の安全を確保することができない。つまりヒグマと同じ空間で働くようなものなのである。そのため、人とヒグマの接触事故を防ぐため、柵を設けるなどの安全対策が義務化されている。
大規模な工場ならそれで済むが、人口減少が叫ばれる昨今、もっと小さい工場や店舗などにも、ロボットが入っていかないと人手が足りないという問題が出ている。そうした用途でも使えるように、パワーを犬程度に抑え、何かあっても人間が死なないように作られているのが協働ロボットである。
すでに「モノを持って動かす」機能をもった協働ロボットが吉野家で試運転されており、食器を並べて置いておくという作業の工数を大幅削減したという結果が出ている。殺伐とした吉野家がロボットのおかげで大分なごやかになった、というわけである。半分くらいロボットが働いている店の方が、人間関係で揉めることが少なくなって良いかもしれない。
だがムリにロボットと人間を一緒に働かせる必要はなく、ロボットのみで回した方がはるかに効率が良いようにも思える。何せロボットは疲れないし、文句も言わない。給料も払わなくていいし、何よりバッくれない。
ところが、そうとも言えないようで、某海外の自動車会社が、工場をロボット主導で自動化したところ、大赤字になった上に、不良品が増えた、という。これは、人間とロボットが協働する「自働化」を目指したトヨタとは対照的な結果である。
忠実に働いてくれるロボットだけでやるより、たまにバッくれる人間がいた方が成果が出るというのも不思議な話だが、おそらく、人間の「あれ何かヤバくね? 」というような、直感的な部分がまだ現場には必要ということなのかもしれない。ロボットだけだとそう言った「不測のヤバさ」には対応できず、ヤバいまま作業を進めてしまうのだろう。
ちなみに、二足歩行のヒト型ロボットが、産業用ロボットとして働いた例は今のところないらしい。それが実現したらまさしくSFの世界だし、夢の「メイドロボット」まであと一歩という感じがする。
しかし、実際にヒト型ロボットがオフィスなどで働くようになったら、逆に「ムカついてくる」ような気もする。下手にヒト型な分、不具合が起こった時「てめえワザとやってるんじゃないか」「俺のこと嫌いだろ」など、人間に対するのと同じような感情を抱いてしまいそうだ。
機械ですら思うように動かないとムカついてしまうのだから、それがヒト型だったら余計腹が立つに決まっている。
そのうち「あのロボットなんかムカつくよね」と給湯室で囁かれるようになるかもしれない。
これから先、どれだけ人間そっくりなロボットが作れるようになったとしても、産業用ロボットだけは永遠に「機械です」という形をしていた方が、職場の平和は守られるような気がする。
<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集、「ブス図鑑」(2016年)、「やらない理由」(2017年)、「カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄 - 」(2018)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。
「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2018年7月17日(火)掲載予定です。