今回のテーマは猫である。

猫はカワイイ。確かなことが何ひとつない世の中において、ただひとつの真実である。平素、人の不幸を笑い、人の幸福を妬む「逆のび太」として活動している私だが、そのことによって得られるエネルギーをすべて猫の幸福を祈る力に変えているので、実質チャラと言える。

猫はカワイイ。もはやこの可愛さは理不尽であり、怒りさえ覚える。猫を見つけて「カワイイ~」などという女はみんなフェイクであり、ネコをかわいいと言っている自分がかわいいと思っているにすぎない。

ホンモノの猫好きが猫を見つけた時、脳裏に浮かぶ言葉はただひとつ、「クソ」だ。可愛すぎて怒りしかおこらない。そしてこんなかわいい生き物が野放しになっているなんて、治安が悪いにもほどがある。即刻、法改正して取り締まるべきだ。

しかし、選挙の時に「猫を取り締まる法を作る」という公約を掲げる候補者は一人もいない。これでは、若者が選挙離れしてしまうのもある意味仕方ない。

猫、それは究極のデザイン

猫はカワイイ。一方で、世の中には、どうかと思うような見た目の生き物がいる。「よく神もこのデザインでOK出したな」と言いたくなるような、昆虫や海洋生物が存在する。それは、おそらくデザイナーが「猫」のデザインで半年ぐらい徹夜してしまい、その後デザインされた生き物がかなり適当になってしまったからに違いない。

もしくは、猫のデザインを見た神が「このかわいさは世界の均衡を崩す」と判断し、バランスを取るため、イカれたビジュアルの生物を多数生み出したのだろう。私がどうかしているデザインなのも、美人とのバランスを取るためだ。

猫はカワイイ。全体像を見るだけでもそのかわいさは疑いようがないが、裏返して見ても腹の佇まいなどもたまらないし、足の裏にはなんと肉球がついている。これはやり過ぎではないだろうか。きっとデザイナーの間でも、熱い議論が交わされたであろう。「デザインは引き算」であると主張する者と「盛りすぎの美学」を主張する者が対立したに違いない。

もちろん、猫に関して「冷静な議論」などあり得ないので、100%暴力による話し合いにより、「猫に肉球をつける」ことが決定したと推察する。賛否両論あるかもしれないが、とりあえず私は、肉球派デザイナーの腕力の方が強くて良かったと思っている。

猫、それはインターネットの覇者

猫はカワイイ。そう思う者は全世界に多数いる。特にインターネット界隈には多い。今日も、カワイイネコちゃん写真がTwitterで1万リツイートぐらいされている。

ネットだけ見ていると、「猫は世界で一番人気がある動物」だという錯覚を覚えるが、調査をしてみると犬好きの方が多く、猫をかわいいと思っている人は実はそんなにいない、という結果が出るようだ。その調査では、猫好きには内向的で偏執的、かつオタク気質の奴が多い為、ネット上での猫の露出が多くなるという推測がなされていた。つまり、猫好きがパソコンの前で猫動画をアップしたり、猫画像をふぁぼりまくっていたりする間に、犬好きは外で犬とフリスビーをやっているのだと言うのだ。

野暮である。猫好きが内向的で偏執的でオタク、という結論はどうでも良い。私がそういう人間だから、ザッツオールライト、 ある意味正しい。しかし、「猫は本当に人気なのか」を調べること自体が野暮の極みだ。芋すぎる。そんなことは猫好きには関係ない。人気があろうがなかろうが、猫が好きだ。むしろ、全人類が猫を嫌いでも、猫のことが好きなのである。人気の有無で猫を愛する気持ちが揺らぐなら、そいつは最初から猫が好きなのではなく、ネコをかわいいと言っている自分がかわいいに過ぎない。

それでも、カレー沢氏が猫を飼わない理由

このように、猫への愛はいくら語っても尽きないが、実は当方、猫を飼ってはいない。飼おうと思えば飼える環境だが、これから先もおそらく飼わないだろう。なぜかと言うと、小学生の時に飼っていた猫とあまりに辛い別れをしてしまったからだ。当時のことを想いだすと、未だにTPO構わず泣いてしまう。

つまり、ペットロスから20年以上立ち直れていないのである。猫を飼っている人はいつか来る別れを覚悟の上で飼っているのだから、その覚悟ができない私は、真の猫好きとは言えないのかもしれない。

しかし、別れを覚悟して飼ったはずが、猫のあまりのかわいさに、いつか来る別れを想像して、今から泣いたり、体調を崩したり、果ては猫と離れがたくて職場にも行かなくなったりと、別れる前から正気じゃなくなった人も知人に少なからず存在する。彼らの心が弱いわけではない。猫が可愛すぎるからしょうがないのだ。目の前でどんな奇行をされようと、理由が「猫がかわいすぎて」なら、納得できる自信がある。常軌を逸してカワイイ生き物がそばにいて、正気でいろと言う方がおかしいのである。

私がこのような文章が書くから、「猫好きは偏執的でオタク」などという調査結果が出てしまうのかもしれない。だが、個人的には、猫好きはもっと内にこもってもらいたい。猫好きがみんな外に出て、猫が投げたフリスビーを拾いに行くようになったら、ネット上から猫写真が減ってしまうからだ。

これからも猫好きは家に閉じこもって、猫写真をどんどんアップし続けて欲しい。そして、私はそれを1日中PCの前でふぁぼり続ける。

カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。2015年2月下旬に最新作「やわらかい。課長起田総司」単行本第1巻が発売され、全国の書店およびWebストアにて展開されている。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は6月30日(火)正午掲載予定です。